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ルゼンテーベ・ストルト  作者: 仁崎 真昼
五章 星を求めて
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073 教室・会議・諍い

 羽光星の四時限目、史学基礎の授業が自習となったため、メアとレオゥとジョンとエオミは教室の隅で作戦会議をしていた。

「ジョン、エオミ。内容はまとまったか?」

「できたよお」

「うちなりの最強の教科書作った!」

「よし。それじゃあ今週末から最終試験に向けた詰め込みを始めていこう。予定としては、昊弧星がエオミの生命学、血綬星が俺の魔術学、蒼斗星がクァトラ先輩との訓練、羽光星がジョンの創作学、冥真星は魔闘連盟に顔出し、森刃星はその他教科ということでいいな? メア」

「ありがとうございます! 皆さんのご協力、非常にありがたく!」

 メアがしっかりと机に額を押し付けると、ジョンもエオミも照れ臭そうに手を振った。

 レオゥは相変わらず無表情のまま、淡々と話を進める。

「一応、現時点での目標数を確認しておこうか。現時点でメアとエナシどちらも取れているのが、酪農実学での巨象の解体と、創作実学での杖の制作。この二つだ」

「あれ? エナシは創作実学での首飾りの制作の星取れてないの?」

「取れてないっぽいぞ。どうやら杖の制作で星を貰って以降は完全に手を抜いているらしい」

 ほぼ全員が取れていると思っていた星をエナシが取っていなかったことを知ったメアは、ほんの少し心に余裕が生まれた。星はどう頑張っても最大で三六個しか取れない中、一つ分でも有利を取れていることは大きいからだ。

「どちらもほぼ確実に取れるだろう星が、あと一一個。酪農実学と創作実学を除いた十科目での最低評価と、酪農実学での七味草の育成。これら合わせて一三星が両者が取る最低個数と考えよう。じゃあ、メアが目標とする個数は?」

「……三六個?」

 レオゥが無言になった。何か誤った答えをしたのかとメアは不安になったが、ジョンはにこにこと肯定する。

「全部取れたらいいねえ。絶対負けないもんねえ」

「けどそれは難しくない? 最終試験でどれくらい点を取れば三つ星もらえるかわからんけどさ」

 レオゥは無表情をなんとかしようとしているのか、自身の頬と眉間を交互に揉む。しかし、結局表情はぴくりとも動かなかず、無表情のまま口を開く。

「まず、現実的に、メアが武器格闘の授業で三つ星を取ることはできないだろう。良くて二つ、まあ実際は一つだろ」

「確かに」

「魔術学基礎も三つ目は難しい。まだまだ現代魔術の実力的には初心者だからな。対話学基礎も三つ目はとれなさそうだ。噂によると、最終試験で満点取らないと三つ目をくれないらしい」

「確かにー」

「というわけで、三六というのは現実的じゃない。現実的に考えるならば……二四個だ」

「その心は」

「大体の教科では、最終試験で六割程度取れれば二つ目の星を取れる。一方、三つ目を取るには九割近く取る必要がある場合が多い。であれば、武器格闘と魔術学基礎を除いた十教科で二つ星を取る。それを目標にするのが現実的だ」

 メアは唸った。とりあえずは文句のつける箇所が見つからない作戦だった。

 のんびりとした口調でジョンが。

「でも、それで勝てるかなあ? エナシはどのくらい筆記試験で点とれるんだろうねえ」

「よくわからんのよね。普段の授業態度悪すぎて手抜いてるのかただの馬鹿なのかさっぱり」

「現在星一つ分の有利を取っている以上のことはわからない。のであれば考えるのは無駄だ。自分が最善を尽くすことを考えるべきだ」

「確かに」

 メアは首が取れそうなくらい頷いた。

 しかし、メアたちがより詳細な予定の確認をしようとした瞬間、廊下から驚きの声が聞こえた。メアの聞き間違いでなければ、それはザイカの声だった。

 メアはレオゥが止める間もなく廊下に出て確認する。すると、想像通り、ザイカがテツとギョウラに壁に追い詰められていた。

 声を掛けつつ駆け寄ろうとするメアの肩をレオゥが掴み止める。振り返ると、やめておけと目が語っていた。

 メアは悩んだ。確かに、現時点で庇ったところで効果がないのは想像できる。その上、メアがエナシとの勝負中であり、勝負中の触接的な妨害を契約で禁じている以上、実力行使もできない。言葉での注意など逆効果であることは火を見るより明らかだ。。

(ああもう、今だ、やれザイカ! 顎に一発食らわせてやれ!)

 結局、メアは棒立ちでザイカを応援するが、ザイカは卑屈な愛想を笑いを浮かべたまま小突かれつつ、テツたちと何やら会話をするだけだった。

 しかし、テツとギョウラがメアたちに気づき、振り返ってきた瞬間、話が変わった。

 テツから魔力が沸き上がり、メアの方に向かってきたからだ。

 メアは大きくしゃがんで躱す。狙われたのは首。気属性風魔術。細かな小石を巻き込んだ風の刃がメアの頭上を通り過ぎていくのを感じた。

「おいっ! いきなり何をするんだテツ!」

 レオゥの威嚇を気にせず、テツはさらに魔力を練った。

 メアは剣を抜こうとしたが、そこで手が止まった。なぜなら、現代魔術の行使自体は校内で禁止されていないのに対し、抜き身の刃を晒すことは明確に禁じられているからだ。相手が魔術で攻撃してきたとはいえ、反撃のために剣を抜いていいのか? そんな疑問が浮かび、メアの手が止まったのだ。

 テツの敵意が収まらないのを察し、メアは自身も魔力を練る。ここ最近の特訓の成果、魔力の励起は更に滑らかになっている。力属性重魔術。後出しだというのに、メアはテツの風魔術とほぼ同時に形態を構築し、ぶつけ合った。

 両者ともに形状は爪。テツは鋭い塵で作り出した刃を、メアはそれを上に受け流す力場を、それぞれ形成してぶつけ合う。

 結果は、メアの防御の成功だ。力を散らされた風の刃はばらばらに乱れ、そよ風となってメアの頬をくすぐった。

 さらなる追撃に備えてメアが魔力を起こそうとすると、不意にテツは両手を上げてひらひらと振った。

「やめやめ。不毛だわ」

「……やめるのは賛成だけど、今の何?」

「別に、ちょっとからかっただけだって。んな怖い顔すんなよ。あのくらい、もろに食らったって怪我一つしないだろ?」

 それに関してはメアには判断がつかなかった。擦過傷程度で済んだ可能性はあるが、目に当たれば大きな怪我となっていた可能性もあると思っている。

 どう詰めるか悩んでいると、メアは冷気を感じた。横にいるレオゥが無言で魔力を励起し続けている。

 テツは相変わらずのうさん臭い笑みを浮かべると馬鹿にした口調でレオゥへ視線を向ける。

「おいおい、何こっち睨んでんだよレオゥ。戦闘態勢かぁ?」

「いきなり攻撃してくる奴相手だからな、自衛のために魔力を練っている」

「自衛って! 大げさすぎるぜレオゥ。こんなの戯れだろ? あたったって擦り傷程度だ。お前だってメアの魂魄ぼこぼこにぶちのめして遊んでるらしいじゃん。それよりずっとずっとましだろ」

「遊んでない。メアも納得の上での訓練だ。お前らとは違う」

「違わねーよ。相手が許してくれるならぼこぼこに殴ってもいいって? それなら俺らとザイカが遊んでるのもいいってことだろ? な、ザイカ? 問題ないよな?」

 ザイカはそわそわと視線を惑わせた後、ちらりと一瞬だけメアに目を遣った。しかし、メアの期待をよそに、ザイカは再び視線を落とすと、沈んだ声で肯定した。

「うん。そうだよ。問題ないよ」

 メアとレオゥから落胆の視線を受けるのが怖いのか、ザイカはそれだけを言うと視線を合わせずに立ち去った。その後ろ姿をせせら笑いながらテツは言う。

「面白いだろ? あれ、本心なんだぜ」

「そんなわけ、ないだろ。お前が無理やり言わせたんだ」

「はっ、お前ら最近こっそりとあいつを構ってやってるだろ。だったらもうわかってんじゃねーのか? あれは本心だよ。あいつはあれを本心だってことにしてちっぽけな矜持を守ろうとしてんだよ。自分は虐めなんか受けてない。ただ遊んでるだけ。乱暴で愚かで頭が空っぽな奴らの相手をしてやってるだけ、ってな。傑作だろ」

 メアは思わずテツの胸倉を掴んだ。

「お前がっ――っ……っ!」

 しかし、直後にメアの息が詰まった。息が吸えない。呼吸ができない。まるで口の前に分厚い袋をかぶせられているかのように、空気が飲み込めない。

 慌てるメアに向けて冷気が吹き荒れた。レオゥの魔術がメアとテツを包み込み、テツは素早く後退る。同時に呼吸ができるようになり、メアの肺に冷気が流れ込んでくる。

 レオゥの熱魔術、と理解したメアはレオゥの方へ下がり、状況を理解しようと深呼吸する。

「今のは」

「テツの風魔術だ。メアの口付近の空気を固定した」

「正解っ! あんなお遊びに冷静に対応できないようじゃ、外に出たらすぐ死ぬぜ?」

「小技ばかりちょろちょろと」

「お前にはしたくてもこんなことできないもんな? 学問ばっかの魔術師のなりそこないがよぉ」

 自分だけでなく、レオゥを侮辱した。そう理解したメアの額に青筋が浮かび、剣を抜く。

 すると、テツが楽しそうに叫んだ。

「助けてぇー! 殺されるぅー!」

 すると、即座に顔を出すアウェア。アウェアは二人を見ると、剣を抜いているメアに向かって鋭い視線を向けた。

「アウェアちゃーん、メア君がぼくを殺そうとしてくるんですぅ」

「メア。剣は抜くな。校則だ」

 アウェアは自身の肩を這おうとしてくるテツの腕を弾きながらも、厳しい口調は変えない。たとえテツが挑発したのだとしても、剣を抜いてはならない。状況を理解しつつも、そう目でメアを叱っていた。

 言い訳は不要で、できもしない。そう理解したメアはしぶしぶ剣を鞘に納め、テツを一瞥してその場を立ち去った。アウェアも呼び止めはせず、テツは小汚い罵倒を投げかけた。

 肩を怒らせて進むメアに、レオゥは相変わらずの平坦な声をかける。

「メア、今日はこれからジョンの授業があるからな」

「わかってるっ! レオゥはあいつにむかつかないの!? あー、いらいらする!」

「するけど、いつものことだろ。まあ、一回頭冷やせ。落ち着いたら俺の部屋な」

 メアは返事をせずに寮に戻り、自身の部屋の扉を開く。ヴァーウォーカかヘクセに愚痴を言うためだ。とことん冷静なレオゥより、この二人の方が話を聞いてくれると思ってだ。

 しかし、部屋に入ったメアは他の組はまだ授業中であることを思い出した。そんなことにも気づかないくらい、頭に血が上っている。そのことに気づいたメアは深く深呼吸し、そして、部屋の異常に気づいて凍り付いた。

 七味草(レル)がない。メアが毎日大事に育てていた七味草が窓辺にない。

 慌てて探し回るが、ない。窓辺に二つ残っている七味草はヘクセとキュッフェのものだし、ヴァーウォーカの机にある一つはヴァーウォーカのもの。毎日育てていたのだ。一目でわかるし、見間違うわけがない。

 メアは周囲を見回し、歯噛みした。

 おそらく、盗まれた。そして、七味草がないということは、星を一つ、落とすこと。

 メアは再び部屋を出た。

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