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ルゼンテーベ・ストルト  作者: 仁崎 真昼
五章 星を求めて
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072 学校・授業・周知

 自分から言いだしたことが原因ではあるが、メアはさらに忙しくなった。

 勉強、剣の訓練、魔術特訓に加え、ザイカの聖痕に関する調査、研究まで加わったからだ。前々から多少は興味のあった事柄ではあるため苦ではないが、忙しいものは忙しい。日々の授業の復習をし、ジョンやエオミに各授業を教わり、レオゥから魔術のしごきを受け、クァトラとの剣の鍛錬に魔闘連盟での組手、キュッフェの世話。その合間に聖痕を調べ、すぐにめげそうになるザイカをなだめつつ、場面ごとの防衛術の考案。入学してから一番忙しいといっても過言ではない。

 そして、授業の様子も少しばかりおかしかった。

 ――例えば、史学基礎。

「というわけで、現在はオルシン暦一〇一三年というわけですー。ここ三〇年ほどは比較的平和な時代ですね。大国間の目立った戦争が起きていません。平和最高ー」

 ウィヒマーが間延びした声で掛け声をかけるが、それに反応してくれる生徒はいなかった。

 少し残念そうにしながらも、ウィヒマーは気にせず両手を掲げ、それを生徒の方に向ける。

「駆け足ですが、これがざっくりとした現代史になります。何か質問ある方いますかー? もう終了まで時間ないので、質疑応答やって授業を締めたいと思います。なんでもいいですよ、史学に少しでも関係あることなら」

 誰も挙手をしなかった。理由は単純で、今やっている範囲が現代史であるからだ。この学校が各国の人間を集めているという性質上、ウィヒマーはできる限り客観的で公平な視点での授業を心掛けたが、それでもその授業内容が気に要らない生徒はそれなりの数いる。そして、それを皆ある程度は感じ取っている。ゆえに、迂闊なことは言いにくいのだ。

 その臆病ともとれる慎重さを見て苦笑したウィヒマーは、手元の紙束を纏めながらメアを指さした。

「まあ内容も薄目ですからね。じゃあ、ルールス君。今から出す問いに答えてください」

「お、俺ですか?」

「はい。この三十年、大国間でなぜ大きな戦争が起きなかったのだと思いますか?」

 メアは頭を捻りながら、なんとか答えを絞り出そうとする。

「各国の戦力が拮抗していたから?」

「惜しいですね。ある意味正解ですが、正確には、戦争が始まりそうになると横やりを入れてくる国々があったからです」

「国々ですか? 他国の戦争に介入していたということですか? そういう話は授業でなかったと思いますけど」

「授業では詳細には触れていませんが、ありました。その名を十独国と言います」

 眠りそうに授業を聞いていた生徒の内何人かがぱっと顔を上げる。その現金さにウィヒマーは思わず笑みを浮かべるが、それを狙ってのものなので気を悪くはしなかった。

「彼らは個人ですが軍のようなものです。しかも、各々の感情で気軽に動く、人間です。彼らは自分が気に要らないという理由だけで軍を壊滅させることすらあります。相手国の戦力だけではなく、そんなのの相手までしないといけないとなったら、護るべきものの多い大国ほど二の足を踏んでしまうのも仕方のないことでしょう」

 そんな発言に対して数人の生徒が挙手をし、個人の感情にのみ制御される武力に対する是非、その他国家に属さない武力集団、はたまた神などの上位存在に対する議論まで始まったが、ウィヒマー楽しそうにそれの応対をした。

 ――例えば、魂魄学。

「これらの理由より、天網地脈の位置を把握していることは大切でーす。熟達した魔術師であっても、その魔力の奔流を受け、体調を崩してしまウということが少なくないからでーす。というあたりで、授業をまとめておくとしましょうかねー。何か質問ありますか?」

「はい!」

「ヒーク君、どうぞ」

「結局、天網地脈が迷宮由来だってのは確定で良いんですか?」

「出発点と終着点ガ【大魔王城】ですので、ほぼ確定でよいと思いまーす。各地の迷宮が潰れるに従って地脈も細くなっていることも証拠の一つでしょーう。うちの学校の近くを通っていた天網も敷地内の迷宮が潰れてからハ消えてしまいましたし。他に質問のあるかたは? いませんかー?」

 デュークはその白い指先で自身の頬骨を掻くと、そのぽっかりと空いた眼窩を教室を見回すようにぐるりと向けた。

「では、一年生の魂魄学に関してはここまでを最終試験の範囲としまーす。まだ数回分の授業はありますが、そこで話した内容は最終試験にはいれませーん。皆さん、星を取れるよう、各自復習を頑張ってくださーい」

 そして、終わりか、と気を抜いたエナシに向かって指を指す。

「では、いくつか内容の確認としまシしょうか。エナシ君、念質の五大形質を答えてくださーい」

「はあ? なんで……」

 エナシは反抗しようとして途中で面倒くさくなったのか、片肘を突いて教室の壁の方を見ながら答える。

「霊晶、魂魄、波動、幻水、瘴気」

「器質の四大形質は?」

「四力、空気、液体、岩鉄」

「念質が五大なのに器質が四大なのは、どうしてだと思いますか?」

「ちっ。魂魄がその他念質の複合体なのに一つの形質として数えてるからだろうが」

「おやおや、これを即答できるならば、大丈夫でーすね。では、試験頑張ってくださーい。これで授業を終わりまーす!」

 ざわつく教室とは対照的に、何やら楽しそうにデュークは一礼した。

 ――例えば、酪農実学。

「このように、社会性生命、というのは、あなたたちの想像するような社会を形作るものを指しているものではありません、生命としての形態そのものが社会を構築せざるをえないものを指しています。そして、その特殊性ゆえに家畜化されやすく、身近な存在となっているわけですね。もし今日の授業で気になった方は、育舎の方へ訪れてください。きっと飼育委員の方が歓迎してくれます」

「気軽に来てね! ただし、扉を開けるときは注意。中にいる子らが逃げるけん。うちに声かけてくれてもええよ!」

 いつものように元気に声を上げ、周囲を見回すエオミ。その快活さから嫌っている生徒はあまりいないようで、周囲の生徒の目線も優しい。

 いつも通りならば少し早いがエフェズズが切り上げて終わり。多くの生徒がそう予想する中、エフェズズは顔を上げてメアの方を見た。

「では、少し理解度の確認としましょうかね。メア君。今日の授業を聞いていれば、大体の生命の雄雌比率がほぼ五対五なのは説明できると思いますが……できますか?」

「お、俺ですか」

 わからないところは後でエオミに聞けばいい、と気を抜いていたメアは冷や汗をかく。

「えっと、結局は社会性生命以外は血を残すのにその方が効率的だから、ってことではないでしょうか。そりゃ、種として存続するためなら、雌が多い方が集団の母数を維持できるかもしれないですけど、個人の血を残すという観点で見ると、わざわざ多数派の性別を選ぶのは非効率な気が? します」

 メアの回答に対して首を傾げている生徒が多かったため、エフェズズが補足を入れる。

「フッサ君、雌の方が数が多い集団で、子供が産まれるとします。その子供は雄と雌、どちらの方が番を見つけやすいと思いますか?」

「当然雄でござるな!」

「では逆の場合は?」

「雌でござる」

「つまりはそういうことです。どちらかに偏るならば、少ない方が補充された方が血を残しやすい。逆に言えば、雌雄が偏る血は集団内で血を残すのに不利なわけです。そうやって均衡を保った結果が雌雄比率五対五、というわけです。理解できましたか?」

「……なんとなく!」

「結構です。メア君も回答ありがとうございます。これに即答できるようであれば、最終試験の問題はもう少し難しくした方が良いですかね?」

 そんな物騒な発言をしながら、エフェズズは授業を締めるのだった。

 ――例えば、物質学。

 物質学を担当する獣人の先生、ビバンビュオービが鬣を撫でながら総括する。

「物質学は難儀な学問であることはここまでを聞いていれば重々理解してもらえたことだとは思う。もう少し世界が安定していてくれればもっともっと機械が発展していてもおかしくはないのだが結局はこの世界は揺蕩っているのだからただの泣き言であるな。鐵の産出量にも限界があるうえに鐵の性質だって変化し続ける。物理的な法則にあまり大きく変更がないことだけでも感謝して日々生きて行こうではないか」

 相変わらず早口で小声で非常に聞き取りづらい。小声であるだけならばまだしも、やたらと早口なため神為の量も膨大で矢継ぎ早になり、理解が追い付かないのだ。

 板書だけでもと生徒たちが必死に手を動かす中、明らかに気を抜いているエナシに対し、ビバンビュオービが問いかけた。

「ディー゠エナシ。直近の転変がいつ起こったか言えるか?」

「……知らねえ」

「誤答である。転変と言うものは世界の改変というものは大なり小なり常に置き続けている。お前が頼りにするその剣の強度だって変化しているのだそれを理解しているのかディー゠エナシよ。こんな簡単な問いも答えられないようであれば物質学の単位はやれないな最終試験までには十分に準備をしておくように」

「ちっ」

 舌打ちするエナシの頭を叩くビバンビュオービ。ばこんと痛そうな音がし、エナシは睨み返すが、ビバンビュオービは涼しい顔をして教卓へと戻る。

 メアが心の中でビバンビュオービに喝采を上げる中、鐘の音が鳴り、授業が終わった。

 昼休憩、粥を飲み込んだメアは対面に座るレオゥに向かって不満そうに呟いた。

「なんか、俺とエナシばっかり授業で当てられるんだけど」

「頻度から見て、気のせいではないな」

「あ、それ、先生方にも二人の勝負の話がいったからでござる」

 フッサは粥に息を吹きかけて冷ましながら言った。

 一斉にメアとレオゥに視線を向けられてたじろぐフッサだったが、すぐに気を取り直すと、粥を咀嚼しながら首を傾げる。

「あくまへ推測でござるよ? たは、ろこふにそのふたひにあへはへ、んぐ。二人が当てられるなら、無関係ということはなかろう。面白がってるのではござらんか?」

「……フッサ、それってフッサが賭博の話を持っていったからじゃないよね?」

「……違うでござるよ?」

「今の間はなんだ間は! 絶対そうでしょ! 馬鹿なの?」

「違うでござる、審査する側に持って行っては公正な賭博にはならないでござろ? だからエフェズズ先生たちには持って行ってないでござる」

「ってことは一年生の授業を見てない他の先生には持ってったのか」

 レオゥの推測というよりも断定に近い問いに、フッサは答えずに急いで粥をかき込んだ。逃げる気らしい。

 呆れ果てたメアが止めずにそそくさと去っていくフッサを見ていると、レオゥは追い打ちをかける。

「メア、多分上級生にも話が届いてるぞ」

「えっ」

「先生方にまで言ってんだから当然だろ。賭博の規模、凄いことになってそうだな。だから最近フッサは上機嫌だったのか」

「待って、そんな。一年生の間に広まるくらいなら想像してたけど、学校規模になってんの?」

「娯楽が少ないからか、よくある話だからか。どちらにせよ、規模が大きい話になってきたな」

 メアはため息を吐いた。そして、儲けのいくらかをフッサからせしめることを心に決めた。

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