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ルゼンテーベ・ストルト  作者: 仁崎 真昼
五章 星を求めて
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067 第三教育棟・魔闘連盟・特訓

 魔術学基礎の授業でエナシをやり込めた後、メアとレオゥは魔闘連盟に顔を出すことにした。メアは秘策が成功したことに対する報告をしなければと考えていたし、レオゥは先輩たちに一言物申したかったからだ。

 どちらも本来なら昨日の内にすべきことではあったが、二人とも昨日は魔術の特訓に気を取られてすっかり忘れていた。今日も訓練をするのか、というメアの問いに、隔日の方が効率が良いとレオゥが断わり、じゃあどうするのか二人が頭を捻ったところで思い出したのだ。魔闘連盟に顔を出すべきではないかということを。

 メアとレオゥが占拠している一室の扉を開けると、中には今日も四人いた。

「おお、メア! よく来た! そっちのはひょっとしてレオーか!?」

 二人に真っ先に気づいたアーパイブンが立ちあがりながら近寄ってくる。その威圧感に押されて下がろうとするレオゥの腕を掴みつつ、メアははきはきと挨拶する。

「こんにちはアーパイブン先輩。そうです、こいつがレオゥ゠タ。レオゥ、この人がアーパイブン先輩。先代団長」

「がははははは! どうしたどうしたびびってんのか!? 大丈夫だ取って食いやしねえよ! 人間の男の肉は不味いんだ! 子供の肉はまだましな味してっけどな!!」

 無言のまま更に下がろうとするレオゥをメアは全力で引っ張る。アーパイブンの鋸の刃より鋭そうな牙を見れば恐怖を感じるのはメアもわかるが、それが冗談だということもわかっている。

 レオゥを見て目を輝かせたディベも立ちあがると、レオゥに飛び掛かって首に腕を回して捕獲する。

「逃がさんよレオゥ? もっと顔を出しなさい。お姉さん寂しいんだから」

「苦しいんで離してください、ディベ先輩」

「だめー。国盤やってかない限り逃がさん。監禁する。魔闘連盟の団員に自由はない」

「そもそも俺、入団してないんですが」

 首から腕を外そうと抵抗しつつ、淡々と告げるレオゥ。その言葉にアーパイブンは目を剥く。

「なにぃ!? そうなのかハナ!?」

「いえ、入団してます。ごめんね、レオゥ。やっぱり五人はいないと予算が回ってこなくてさ。君も入団してることにしちゃった」

「流石だハナ! 団長たるもの団員集めは強引にいかなきゃな! ちゃんと団体の伝統は引き継がれているな! よし!」

「ごめんね」

 両手を合わせて申し訳なさそうに謝罪するハナに対し、レオゥはため息を吐いたが、それ以上とくに追求することはなかった。現時点でレオゥはどこの団体にも所属しておらず、細かい義務や規律のない魔闘連盟に入ることに対して不利益はとくにないからだ。メアも世話になっているし、と受け入れることにした。

 だが、それとメアに非常な危険な行為を唆したことはまた別の話。それに関してはレオゥはきっちりと注意しなければ気が済まなかった。

「まあ、それはいいですが。それより、先輩方、メアを唆したってのは本当ですか?」

 四人はきょとんとした顔で目を瞬かせる。一番最初にレオゥの言葉の意味を理解したのはウォベマだ。

「ほう。ということは上手く乗せたようだな。どうだメア。俺の言葉は効いただろ?」

「ちょっと引くぐらい効きましたね」

「だから言ったろ? 直接話さなくたってお前の話を聞くだけでわかる。淫売の息子、という広範な侮辱より、単語としての威力が多少弱くなろうと娼婦の息子と嘲った方が特定の」

「その話です。ウォベマ先輩」

 得意げに語り出そうとするウォベマの言葉をレオゥは遮った。

「今回の星取りにメアが負けた場合、メアは一級非人指定をくらいます。勝った場合の報酬と代償があまりにも釣り合ってません。そんなのを唆して、一体なにを考えてるんですか?」

 レオゥの言葉に対する反応は様々だった。

「え、そんな条件を受けちゃったのかい? メア」

「はい。アーパイブン先輩が多少は不利な条件でも吞んじまえって言ってたので」

 ハナは純粋に驚いた様子。どうやら、細かい条件に関しては魔闘連盟からの指示はなかったことをレオゥは悟った。

「がははははは! 男だな! メア! そうだ、男なら過酷な状況に自分を追い込んでこそ! いいぞ! それでこそ魔闘連盟の団員だ!」

 アーパイブンは何も考えずに喜んでいる。それが大物ゆえか馬鹿ゆえか、レオゥにはまだ判断はつかなかった。

「わお、やるね。何々、そんなに楽勝だと思ってんの? 勉強、真面目にやってるんだねえ。偉いねえ……」

 ディベは呑気な感想。しかも、勉強、という単語を口にした途端、どこか遠くを見るような目つきになった。

「いや、流石に馬鹿だろ。そんな条件は断れよ阿呆」

 一番常識的な反応を示したのはウォベマだった。意外だとレオゥは思ったが、思った時点で毒されている。

 レオゥは色々と言いたいことがあったが、どこから手を付けるべきか迷った。全員一致でアーパイブンのような反応をしてくれれば楽だったのだが、四人が四人違う反応をしているため、どこから責めるか、どう責めるかという選択肢に悩んでしまったのだ。

 そんな風にレオゥが図らずとも与えてしまった間をアーパイブンがかっさらっていく。

「じゃあ卓上遊戯で遊んでる場合じゃねえな! 特訓だ特訓! 闘技学の授業、一つでも多く星を取れるようになんないとなぁ!」

 アーパイブンはそう言って、部屋の隅にある傘立てから木剣を数本抜く。どうやら、今日もメアに稽古をつけるつもりらしかった。自身の得物ではないのは先日の反省からだろう。思いつつもメアはつい身構えてしまう。

 何を呑気なことを、と文句を言おうとするレオゥだが、ディベに首を絞められ言葉がでなかった。目線での抗議もむなしく、立ち上がって校庭へと向かう団員の先頭に立つディベに引きずられていく。

 助けるか、とメアは迷う。しかし、年上の女性に調子を乱されているレオゥというのがなんとなく面白く、放置することにした。

 アーパイブンは上機嫌に尻尾でハナの背中を叩く。

「レオゥも一緒に教えてやってもいいが、ハナ! どうせならお前がしごいてやれ! レオゥの魂魄の様子を見る限り魔術寄りだろう! ちょうどいい!」

「はい。レオゥ、よろしく」

 抗議の声を上げる間もなくさらに連行されるレオゥ。抵抗しようとするが、体術ではハナにはまるで敵わず、周囲を気にせず魔術戦をやれるくらい離れた場所へと運ばれる。

「で、メア! お前はまずは一対一の訓練からだな! ハナとの組手もいいが、ハナ相手だとどうしても多対一っぽくなっちまう! 広く見る目も重要ではあるが、深く見る目も重要だ! というわけで、とりあえず打ち込んで来い!」

 そう言ってアーパイブンは木剣を構えた。

 メアも剣を取り、構えた。アーパイブンの構えを見る限り、本職の剣士と言うわけではなさそうで、剣士會の生徒に比べると幾分か隙がある様にも見える。しかし、膂力が凄まじいのは先日体感したばかり。警戒を怠ることはできない。

 ウォベマとディベが見守る中、メアは踏み込んで木剣を振るった。

「駄目だ!」

 アーパイブンはそれを容易くはじき返した。

 反撃が来るかとメアは構えたが、先日とは異なり、アーパイブンはとことん受ける構えだ。それを理解したメアは強張った体から力を抜きつつ、二度、三度と斬りかかる。

「違う! 殺意だ! もっと殺す気でこい!」

「はあああ!」

「もっとだ! 首! 心臓! 股間! 急所を狙え! 殺す気で!」

「うおあああああ!」

「叫べ! 気合の声で殺す気で叫べ! 気迫で殺せ! こぉい!」

「いえやああああああああああ!!」

 メアは脳内でエナシを思い浮かべた。すると途端に腕に力がこもった。入学直後に殺されそうになったこと、その後の数々の罵倒、嘲るような視線、態度。思い出すたびに力がこもっていく。

「そうだ! いいぞその調子! 魔術も乗せろ! 好きにやれ!」

 言われてメアは呪文を詠唱しようとし、手を止めた。古典魔術の【焔火】や【霰玉】を併用するのは、魔術を載せるという言葉に合わない気がしたからだ。

 手を止めてしまったメアを見て、アーパイブンは自身の顎を撫でた。

「おおい! どうしたメア! 悩む前に動け!」

「いや、そうなんですけど、魔術を乗せる、ってのがよくわからなくて」

「そんなに難しく考えるな! そうだな、メアは力属性だろう! こういうのはどうだ!?」

 そう言ってアーパイブンはメアに木剣を構えるように促すと、明らかに緩慢な動きで優しく木剣をメアに向かって振った。それは虫が止まるような速度の剣であり、花組で一番運動の苦手なシヌタでさえ容易く避けられるだろう一撃。

 メアはそれを受け――そのあまりの衝撃に横っ飛びに地面を転がった。

 混乱するメアに、アーパイブンは笑いながら吼える。

「がははははは! 今のは衝撃の瞬間に力魔術で剣を押しただけだ! だがどうだ!? すげー威力だったろう! 実戦でどんぴしゃりと当てるのは難しいが、全力で振るった剣に合わせられりゃあもうすげえ威力よ!」

「な、なるほど!」

「ほら立て! 他にも見せてやる!」

 メアが立って木剣を構えると、先ほどと同様にアーパイブンは木剣を横なぎに振るう。しかし、さきほどよりはやや鋭く、慌てて受けたメアは破裂音と共に全身の体が抜けた。

「力属性電魔術! 痺れただろう! 鉄の剣ならもっと効くぞ! 受け太刀がやりづらくなるから属性が合うなら使え!」

 膝から崩れそうになるメアに追撃を振るうアーパイブン。メアが必死に腕を上げ、鍔迫り合いをしていると、段々と柄が熱くなり火傷しそうになった。

「力属性熱魔術! これも鉄の剣向けだな! どうしても発生する鍔迫り合いの状況で強いのはいいぞ!」

 距離を取ったメアに向け、アーパイブンはまっすぐに剣を構える。

「こういうのもいい! とっておきだ!」

 メアの目線に剣の向きがぴたりと合い、メアからは木剣が点のように見えた。距離感が木剣の長さが、距離感が掴めない。突きを警戒してメアはさらに一歩距離を取った。

 しかし、そんなメアの警戒を容易くすり抜け、気づけば木剣はメアの目の前にあり、避ける間もなくメアの額を強かに打ち据えた。

「ったぁ……!」

「力属性力魔術! がはははははは! こんな飛び道具にもなるってわけだ!」

 メアとアーパイブンの距離は少しも縮まっていなかった。アーパイブンはメア目掛けて魔術で木剣を飛ばしたのだ。距離感を掴みにくい構えから、予備動作なしの投擲。メアは涙で滲む視界の中、それを理解して感嘆した。

 アーパイブンは木剣を広いながら、額を抑えるメアの横にしゃがみ込む。

「まあこんな感じだ! 補助、攻撃、妨害! 出力が弱くたってできることはある! メアのまだまだ弱っちい重魔術だって、相手の踏み込みに合わせて進行方向に力を重ねて見ろ! 滑ってすっ転ぶこともあるだろうし、転ばなくたって均整は崩れる! おら! やってみるぞ! 立て!」

「……はい!」

 メアは木剣を構えた。説明を聞いた瞬間から、メアの頭の中には様々な案が絶え間なく生まれては消えていた。

 思えば、似たようなことは既にメアもやっていた。ウォベマの投げを和らげたのもエナシの水魔術を逸らしたのもメアの重魔術だ。言葉にされるまで気づかなかったが、動きに魔術を重ねることは既に自然と始めていた。それくらい、メアの体には現代魔術が馴染み始めていたのだ。

 そして、それらはすべて守りの魔術。では、それを攻撃に転じればどうなるのか。

 メアはふぅと息を吐き、鋭い目つきでアーパイブンを見つめた。

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― 新着の感想 ―
>やっぱり五人はいないと予算が回ってこなくて じゃ先代の時は? アーパイブン ハナ ディベ ウォベマじゃ一人足りないよね
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