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ルゼンテーベ・ストルト  作者: 仁崎 真昼
四章 購う命
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054 教室・相談・金策

 メアは苦悶の表情で答案用紙に数字を書き込み、炭筆をおいた。

 ほぼ同時にピキピトが手を叩く。

「はい、そこまで。筆置いて。はいはい時間切れです手を止める。そこ、往生際が悪いですよ。じゃあ紙回収するので後ろから回してください」

 先ほどまで静まり返っていた教室内に喧騒が戻ってくる。まだ授業中である教室にはふさわしくない音量だが、終業までもう大した時間もないため、ピキピトは放置して用紙の回収を進める。

 メアは肩を回しながら後ろの席のレオゥを振り返った。

「うー、疲れた。なにこれ、なんでこんなに疲れてんの?」

「緊張してたからじゃないか? 試験って言われると途端に緊張感出てくるよな。出来はどうだ?」

「そこそこ。こう見えて宿屋の息子なんでね。簡単な勘定くらいなら余裕余裕」

「そうなのか? そんな素振りなかったし、意外だ」

「レオゥの方こそどうなの? 算学苦手なんじゃなかったっけ」

「苦手というか嫌いというか。このくらいなら別にまだ全然ついていけてるから」

「じゃあ勝負しよ。負けた方は、校庭三週とかどう?」

「いいぞ」

 双方にそれなりに自信があるのか、不敵な笑みを浮かべて見つめ合う二人。負けた場合の代償が軽いのもあり、気軽に勝負を挑んで受ける。たまにこうして勝負をするが、今のところの勝率は五分五分。

 ピキピトが授業の終了を告げ出ていくと、メアは思い出したように立ち上がった。

「そうだ、色々聞かないと。エオミー」

 そう言ってメアが話しかけたのは、空色の巻き毛が特徴的な少女、エオミ゠オミだった。

「ん? どしたん、ルールス君」

「エオミって飼育委員だったよね? ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「なになに? なんでも聞いて!」

 あまり会話することのない相手であるため少しばかり緊張していたメアだったが、エオミはそんなのまったく気にしていないようで屈託のない笑顔を向けてくる。それにやや安堵したのか、メアは比較的丁寧に状況を説明できた。

「んー? つまり、怪我しちゃった夜燕ちゃんがいるから治したい? ってこと? なんでウチに?」

「エオミって飼育委員でしょ? 何か伝手ない? 育舎の生命が怪我しちゃったときとかさ、放置しておくわけにもいかないだろうし、何かあるんじゃないかって思ってさ」

「あー、なるほどねえー」

 エオミは頭が痛そうに眉間にしわを寄せると腕を組んでため息を吐いた。レオゥとは魔反対の表情の豊かさ。わかりやすくてメアとしては非常にありがたい。

「基本的には医療委員に頼むんじゃけど、今の医療の先生が少し厄介じゃけえな、うちらも頭痛いんよね。私の仕事は生徒の怪我の対応だけだ! ってねえ。もー、いけずなんよ」

「やっぱりそっちでもそんな対応なんだ。俺も昨日連れて行ったんだけど相手してくれなかった」

「凄い剣幕じゃったじゃろ? あの先生、多分子供きらいなんよ。なんでそれでうちの先生やってるのかは知らんけどね」

「本当にね」

 横で聞いていたレオゥも無表情に頷いていた。三人とも同意見らしかった。

「まあ軽い怪我なら飼育委員とかとか医療委員の生徒でも対応できるんじゃけど、聞いた感じ、きちんと骨と関節を成形しなおさんといけんからね、気軽には手ぇだせんわ。四年生の人がいたらなんとかしてくれるんじゃろーけど、いま丁度忙しい時期じゃけえなー。出払ってるんよなー」

「四年生、出払ってるの?」

「そらもう、働き口探しにあちこちよ。メアはどっかの団体に入っとらんの? メアの団体の先輩とかは忙しそうじゃないん?」

「俺んとこは四年生いないらしいんだよね。けど、そっか、飼育委員は頼れなさそうか」

「とくに時期も悪い! 使い魔品評会(テダシディ)が今週末じゃけえ、薬とかも売り切れとるし」

「使い魔……?」

 聞き覚えのない単語に首を傾げるメアに対し、エオミとレオゥが二人して振り向いてきた。

「知らんの? ウチら結構頑張って広報しとったんじゃけど!?」

「メアってあんまり学校行事に興味ないよな。先々週の司祭選挙も知らずに行かなかったし」

「いやいや興味ないわけじゃない。むしろ二人ともどうやって知ってるのさ、そういう行事があるって」

「食堂の掲示板に張り出されてたりこうやって人伝に聞いたり。寮の同室で話したりしないのか?」

「うぐぐ、やっぱりもうちょい定期的に組内で話題に出すべきじゃったか。これは飼育委員のうちの怠慢じゃ」

 メアは目を白黒させるが、知らないものは知らないのだ。むしろ色々知っているレオゥの方がおかしいとメアは確信している。

 だが、これ以上藪を突いても意味がない。本題はそこではないのだ。メアはエオミに軽く礼を言い、その場を離れた。

 そして、向かうはフッサの机。

「フッサ」

「某でござるか? 何用で?」

「楽してお金儲ける方法知らない?」

「……なんでそんな話題を某に振るかはいささか疑問ではござるが」

「だってフッサ詳しそうじゃん。物知りだし」

「も、物知り? ま、まあ、それほどでもあるでござるが? えっ? 本当に某が物知り? ふへへ」

 大真面目に頷くメアと、無表情ながらもどこか呆れた様子のレオゥの前でフッサは満更でもなさそうに鼻の下を擦った。

「金稼ぎ。いつの世も問題でござる。非合法な方法と合法な方法とどちらとも言えない方法、どれが良いでござるか?」

「まずは合法」

「非合法な方法はやめような。聞いちまったら俺も放っておくわけにはいかないし」

「合法であれば、まあ大きく二つでござるな。労働と売買。至極真っ当な手段でござる」

「労働って、この学校内で?」

「色々とあるでござるよ? 団体の単純な労働手伝って些細な手間賃をもらったり、補助の五委員は休日作業の場合、給金が出ているでござる。あとは先生の私的な研究に参加したりとか。そんな感じでござる」

「へー、そうなんだ。それ手伝ったりしてどうにかなるだろうか」

「無理じゃないか? あくまで小遣い程度だろうし、メアはどこの委員にも入ってないし」

「図書塔の一斉清掃と在庫確認をやったときは一般の生徒にも手伝いを募っていたでござるな。確か六時間ほどで日給三〇〇〇レティほどだったか」

「駄目そう」

「直近の募集もなさそうだしな」

「であれば、売買でござるか。日常的に仕入れて売るというのは難しいかもしれないでござるが、折よく来月末には青空市場(ルゴマッテ)が開かれるでござる。何か出品してみるのはいかがでござるか?」

「出品ねー……レオゥ、青空市場って?」

「青空市場は夏にもあっただろ。ちょうどメアがクァトラ先輩に夢中だったときだから覚えてないかもしれないけどな」

「青空市場は生徒が売りたい物を各々持ち寄って出品する行事でござる。ただそれだけでござるな。ただ、派手な出し物があったりして普段よりお祭り感が出るため、皆財布の紐が緩むでござる。金を稼ぎたいのであれば好機でござるな」

「そうは言っても、売れるものなんてないんだよな」

「そこは問題だよな。ものづくり系の団体にでも入ってれば違うんだろうが」

 メアは頭を抱えた。特に打てる手立てがなさそうだ。

 ちらりとジョンの方を見る。ジョンならば何かしら売っていてもおかしくはなさそうだと思ったからだ。しかし、すぐに首を振る。参考にはならない。ジョンは本気で鍛冶屋を目指しているのだし出るのであれば本気で売り物を作って売るだろう。何を出すのか、などと聞いたところで冷やかしにもならない。

 メアはしばし無言になり、必死に考えた。

 そして、絞り出すように呟く。

「本は、売れるだろうか」

「本? 何か書くのか?」

「ううん。例えばなんだけど、図書塔の本を写本して、所有しておきたいという生徒に売る。どうだろ」

「まあそれは、どうでござるか?」

「いくつか問題点はありそうだが、大きく三つだな」

 レオゥはメアに向かって一本の指を立てた。

「まず、一つ目。何の写本を作る気だ? 図書塔に行って借りればいいや、となる本であば買ってくれる相手はいない。売れる本の目星はついているのかって話だな」

「それは、何がいいと思う? 俺としては、図鑑関係かな、って思う。指南書とかは一度習得してしまえば不要になる。勉強に使うような本も同じ。どちらかというと、記憶しきれない情報を引きたいときにつかう本であれば、所持しておきたいと思うと思う」

 メアの精一杯の答えに対し、レオゥは肯定も否定もしなかった。

「であれば、二つ目。対象とする書物に複写制限がかけられてないかだな」

「何それ?」

「ウィドドンミョーザが推し進めてる法律というか協定というか。最近発明された複写機に対する対抗策で、本の著者に対する利益を守るため複写行為そのものに制限をかけようって話。まあ他国だから気にしなくていいという話もあるが、ウィドドンミョーザ出身の生徒もいるし、一応な」

「ふーん?」

「よくわからない話でござるな。買った本をどうしようが勝手では?」

 メアもフッサも納得がいっていないようだったが、レオゥも詳しく説明をする気はないようだった。

 それより、とレオゥは三本目の指を立てる。

「じゃあ、最後。図や絵が入った本の写本は大変だ。手間もかかるし、美術的技量も必要になる。メアにはそれができるのか?」

 しかし、厳しいレオゥの指摘に対し、メアはあっけらかんと頷いた。

「うん、それは問題ないよ。古典魔術の【模写】でやるから」

「古典魔術でござるか?」

「やって見せ方が早いかな?」

 メアは樹紙を二枚取り出し、片方の紙に適当に落書きをする。そして、もう片方の紙に炭筆の破片を散らすと、それぞれの紙に手をかざして目を閉じた。

「濃霧の陰、夕闇の果て。模り彩り意思を成せ――【模写】」

 すると、散らばった炭が粉々に砕け、紙面に散らばったかと思うと、ゆっくりと集束して線を成した。その線は見る間に四方へ伸び、もう片方の落書きと寸分違わない図を描いた。

 二枚の紙を二人の方に掲げ、メアは首を傾げる。

「どう?」

「ほーう。これは、なるほど。悪くないでござるな」

「これ便利だな。違いが一切わからない。ここまで完璧な模写ができるのであれば問題はないか」

 二人はしげしげと紙を眺め、透かしたり重ねたりしてみるが、その違いは分からなかった。それらを繰り返したせいか、メアに返す際にはどちらが原本かわからなくなってしまほうどだった。

 しかし、満足気な笑みを浮かべるメアに対し、レオゥは更に指を一本立てた。

「すまない、もう一点あったな。青空市場は来月末だ。メア、これ、一日何枚模写できる?」

「あ。それは確かに試したことない。ちょっとやってみるか」

 魔術でやるならば、魂がどれだけもつかは重要だ。何やらぶつぶつ呟いているフッサを横目に、メアとレオゥは検証作業に入った。

 模写したものを更に模写して、と繰り返していくと、メアの気分が段々と悪くなっていった。魔術を使い過ぎたときに感じる嫌悪感と疲労感。その限界に達したのは、ぴったり二〇枚目の模写が完了したときだった。

「おぇっぷ。駄目、吐く」

「吐くな。耐えろメア。しかし、二〇枚か。予想よりだいぶ燃費が悪そうだな、その魔術。二〇枚で、残り日数を考えると、図鑑なら一冊か二冊。うーん、微妙だな。相場より安いとはいえ、装丁は適当になるだろうし、紙の質も低い。中身の同一性を保証しきることはできないし、信頼性が下がることを考えると、五〇〇〇〇稼ぐのは、難しいか?」

「フッサ、背中さすって……」

「うーむ」

 レオゥが脳内で計算し、フッサが何かを呟き、メアはただ項垂れる。

 そうこうしていると、鐘が鳴り、次の授業が始まった。

(お金を稼ぐのって、大変だ……)

 メアはぐるぐると回る視界に酔いながら、ため息を吐いた。

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― 新着の感想 ―
これフッサ絡めだとエロ本の模写になるじゃ... エロ本自体は合法なのかどうかはわからないか 必要と売上どっちも満足できるだと思うか
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