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ルゼンテーベ・ストルト  作者: 仁崎 真昼
三章 雷の如く
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037 学校・捜索・魂魄

「え、二年生以上って組ごとの教室ないの?」

 武器格闘の授業中、準備運動をするメアは驚きの声を上げた。

 その横で軽い跳躍を繰り返しながらレオゥは頷く。

「ないぞ。二年生以上は授業が選択式になるんだ。全員が同じ授業を受ける一年次とは違って、自分がやりたい授業を取ることになる。先生が組ごとの教室に来るんじゃなくて、先生の居室に生徒が出向く方式。だから組ごとの教室がない」

 組ごとの教室に行って助けてくれた先輩を探そうと思っていたメアはがっくりと肩を落とした。

 何があったのかと首を傾げるレオゥに、メアは昨日の一件を話す。命を助けてもらった先輩を探している。名前も分からない。見た目しかわからない。あと剣技が凄い。と。

「なるほど。確かに全部の授業を見て回るのはすごい時間かかるだろうな。けど、それなら剣術の授業に絞って見に行けばいいんじゃないか?」

「……確かに!」

 問題は、授業の合間の休憩時間に抜けて戻ってくる時間があるかどうかだが、メアは多少の遅刻も覚悟していた。あの一太刀を思い出すだけで体中が熱くなり、居ても立っても居られないのだ。他のことなどどうでもいいと思ってしまうほどに。最悪、授業をさぼることさえ考えている。

 レオゥの忠告もあり実際にさぼることはなかったが、メアは各授業の合間に様々な剣技の授業を覗きに行った。

 二年生の格闘術・剣、三年生の格闘実践、闘技修練、実戦術、四年生の闘技修練・極、剣術理論、蒼刃流稽古、剣闘儀礼、その他諸々。剣術に関わるものだけに絞っても数多くの授業があった。中には夜間に行われている授業もあり、一通り見て回るだけでも一苦労だった。四年次の授業は特に種類が多く、参加している生徒が数人という授業もあったため、メアは非常に悪目立ちしたが、メアはそんなことも気にならないくらい必死だった。

 助けてくれた先輩を探すことに躍起になっていたメアは魔術大会のことをすっかり忘れており、応援に行かなかったことをディベからなじられた。非常に申し訳なく、メアとしても見れなかったことは残念だったが、それ以上にメアは助けてくれた先輩を探すことの方に意識が向いていた。

 メアが目を閉じると、あの剣が目に浮かぶ。

 眼から斬撃の軌跡が離れない。

 風を撫ぜるような音が響き、抵抗もなく甲殻が断たれる。

 その軌道に引き戻されるように剣が振り下ろされ、ちょいと割れ目を開く。

 神速の剣閃。

 白い死。

 それらが、何度も何度もメアの瞼の裏で再生される。

 これはもう病気かもしれない、とメアは冷静になったが、どうしようもなかった。薬でどうにかなる問題ではないからだ。

 一度、流れでキュッフェに相談することになったが、そういうこともあると流されて終わった。その熱は大事にしろ、と親父臭い忠告も貰った。言葉にはしなかったが、メアがそう思ったことを悟られたのか、不機嫌そうに睨まれた。

 メアは一人空き地で剣を振る。

 空気を斬る音と刃のきらめきが残るが、そこに美しさはかけらもない。

 苛立ちと共に剣を振るが、もどかしさは増すばかり。

 剣を振るほどに、メアはあの剣に焦がれた。

 真夏のただでさえ暑さで寝苦しい季節。夢にまであの剣筋が出てくるようになってしまったメアは、寝不足に目の下の隈を濃くした。

 休憩時間に居眠りしては、飛び起きて周囲の人間を驚かせる。そんなことを繰り返していると、流石に周囲の人間も心配するようになる。特にそれが顕著なのはテュヒカで、メアが魘されて飛び起きると、心配そうな金の眼がメアの顔を覗き込んでいるということが何度もあった。

 耐えきれなくなったレオゥはメアに声をかける。

「メア。大丈夫か?」

「大丈夫じゃないかもしれない。最近夜寝るとあの剣閃が夢に出てくるんだ。すっごい綺麗で、思わず近づいちゃって、で、あっと思った瞬間には俺の頭が胴から離れてて、目が覚めるんだ。それがすっごい気持ち良い感覚で」

「おうおう。思った以上に重症だった」

 レオゥは表情をぴくりとも動かさず、声も平坦なままで、しかし慌てているように感じさせる声を出す。器用なことだ、とメアは思いつつも、どこか他人事で身が入らなかった。

 そんな二人の会話が耳に入ったのか、珍しい人物が二人に話しかけてきた。

ごきげんよう(やあ)。何やら面白い(ゆかい)そうな話してる()

「ゼオ」

 少し特徴的な話し方をする男子生徒、ゼオだった。長い茶髪を緩やかに纏めている。自身の姓が嫌いらしく、名であるゼオで呼んでくれと言われているため、仲が良いわけではないメアたちも名で呼んでいる。

 ゼオは魔術の得意な生徒だ。特に得意なのが、陰属性魔術。魂魄に働きかける魔術だ。

困難(こまり)ごとかい?」

「ゼオにはあんまり頼りたくない」

「はは、本人を目前(まえ)にしてそう言うなよ。魂の懊悩(悩ましい)なら僕の領分()

 愉快そうに笑うゼオ。メアは苦笑した。

 ゼオは魂魄に働きかける魔術が得意であり、とても好奇心が旺盛な魔術師だ。好奇心の一言を理由に勝手に魔術をかける程度には、それで場を引っ掻きまわしても愉快そうに傍観する程度には、魔術師らしい魔術師である。

 レオゥがその可能性に思い至り、ゼオを問い詰めた。

「ゼオ、もしかして最近メアに何かかけたか?」

「まさか。かけて(ない)さ。メアの悩み事は正真正銘(まこと)メアの魂からにじみ出たもの。いや、(ちゅうかんしつ)から滲み出たもの。僕如きがどうかしたものじゃない()

「本当か?」

真実(ほんとう)さ。いやはや、僕はまだまだ未熟者(はんにんまえ)だからね、そんな長期間にわたって他者の精神に不調をきたすような魔術はかけられない()。僕は整列も連結も(にがて)だし」

 真偽を確かめるように直視するレオゥに、ゼオはにっこりと笑い返して見せた。

 メアは悩んだ。正直なところ、メアはゼオのことを信用できないと思っている。メア自身はまだ被害に遭ったことはないが、被害にあった生徒のことは知っているし、その現場を見たこともある。

 だが、ゼオが魂魄の知識が深そうなのは事実。訊いてみることにした。

「俺の魂魄って、何か変な状態?」

 ゼオは吹き出した。メアの質問は予想外だったようだ。中指と薬指だけメアに向かって立てると、何度も首を横に振った。

「いんやいんや。普通(まとも)そのものさ。呪いをかけられたりなんてしてない()。僕以外に無許可で陰属性魔術をかける奴なんてこの学校(レトリー)にはいない。呪いがかかってしまったなら先生が放っておくわけもない。故に(だから)さっき言ったんだ。メアの悩みはメアのものだって()

 陰属性魔術は大別して四種に分けられる。記憶改編、思考誘導、感覚錯誤と、それら反魔術としての防壁魔術。そして、前者三つはその性質上、魂の病である呪いとも混同されるし、呪いと同一に扱われることもある。それゆえに陰属性魔術を勝手に他人にかけるものはまずいない。

 そんなことは常識だろう、と言わんばかりの態度にレオゥは溜息を吐いた。

「ははっ、そんな心配するなよレオゥ。君ならともかくメアに魔術をかけても幾許も(ちっとも)面白くないだろう? ただ同窓の体調が悪性(わる)そうだから心配してるだけ。僕なら治療(なんとでも)できるよ?」

「どういう意味だ?」

「君に陰魔術をかけるのは楽しそうだって(だけ)さ。どうだい、メア。君の悩みを削除(けずり)してあげようか?」

 メアは自分の状態を気にしていなかったが、予想以上にレオゥには心配をかけていることを認識した。そのため、やや迷いつつもゼオと同様に中指と薬指だけ立てた。なんの手印かは知らない。

「具体的には?」

「その一太刀の記憶を消す()。そうしたら万事解決!」

「却下」

 迷いのない返事に、ゼオは高笑いしながら去って行った。どうやら本気でやるつもりはないようだった。

 メアとレオゥは顔を見合わせ肩を竦めた。気ままに行動するゼオの姿に、深刻に考えていたのがあほらしくなった。

 ゼオが去って行くのを見計らっていたのか、フッサがこそこそと近づいてくる。

「だ、だ、大丈夫でござるか?」

「ゼオをそんなに怖がらなくてもいいんじゃないかな」

「いや、油断はいけないでござる。奴は、気づかぬうちに魔術をかけてくる。本能を解放せよとその魔の手を伸ばしてくるんでござるよ。実は某が女子寮に突撃したのもゼオのせいであって」

「そうそう! あいつのせいで私苦労してるんだよね!」

 さらに横からレティも賛同してくる。

 メアはいきなりレティに話しかけられたことに驚きながらも、何があったのかと聞いてみることにした。

「レティもかけられたことあるの?」

「ある! 皆私のこと急に笑い出すへんな奴だと思ってるじゃん? あれゼオのせいなんだよ! 私全然そんなことないのに! 本当はこんなにおしとやかーなのに!」

 メアも、レオゥも、フッサも首を傾げた。レティは常時上機嫌な少女で、何か少しでも変なことがあったら笑い出す騒々しい少女という認識は三人で共通だった。それがすべてゼオのせいなのか。フッサは許せないと憤ったが、メアとレオゥはその言葉を鵜呑みにはしなかった。

 レティはフッサが頷いていることに満足したのか、それだけ言って去っていった。そして、別の女子の集団の会話に混ざり、けたたましい笑い声をあげた。

 メアとレオゥは顔を見合わせた。

 そんな二人にフッサが両手をさすり合わせながらにじり寄ってくる。

「そう言えば、何やらメアは人探しをしているとか」

「なんで知ってるの?」

「ふふ、女性問題とあらば某の耳に入らぬ道理はなし。隠し事は無駄でござる」

 フッサは何やら勘違いをしているらしい、とメアは思った。確かにメアが探しているのは女性ではあるが、目的は剣である。

 しかし、抗議しようとしたメアをまあまあと手で制すと、フッサは得意げに指を一本立てた。

「この学校内で探し人がいるならば、食堂を張ればいいでござるよ」

「……天才?」

「天才でござる」

「なんでこういうことには頭が回るんだ」

「もっと褒めていいんでござるよ」

 二人に褒められ、フッサは鼻高々に語る。

「食事をとる人は必ず出入りしますからな。そういう意味では女子寮でもいいんでござるが、下手すると覗きと勘違いされて殺されかけるという欠点がありまして。安全策は食堂でござるな。というわけで食堂へ行くでござる」

 混む時間を避けようとしていたメアたちは、ばたばたと食堂へ向かう準備を始めた。

 そして、目的の人物は、ここ数日のメアの苦労が嘘のように簡単に見つかった。

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