表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルゼンテーベ・ストルト  作者: 仁崎 真昼
二章 杖を作る
31/240

031 工作館・創作実学・杖

 翌日からメアは杖の制作を始めた。

 杖とはなんなのか結論が出たわけではない。ただ、自分にとっての杖がどういったものが良いかはなんとなく理解した。だから、メアは頭の中で浮かんだ理想を逃がさないように、すぐさま動き始めたのだ。

 最初は木材の選定。すぐにジョンに相談した。作りたいものを伝え、どの素材が向いているのかを教えてもらった。メアが拾ってきた木材はジョンも知らない素材も多かったが、そこは図書塔で調べた。結果、メアは拾ってきたものの中で最も硬いものを選択した。その分重くなりそうだったが、強度の方が重要だった。

「何を作りたいかだよ。そこさえ押さえとけば大きな問題にはならないと思うよぉ」

 ジョンは木材を撫でさすっては奇声を上げた。どうやら初めて見る木材もあったらしかった。

 メアは今まで木材の強度を気にしてきたことはなかった。どれも大して違わないと思っていたのだ。しかし、実際に触ってみるとまるで違った。引っ張ると裂けるもの。力を加えるとよくしなるもの。軽く叩いただけで凹んでしまうもの。鑿を押し付けても傷一つつかないもの。それぞれの木材にそれぞれの使い道があるという。メアは授業で聞いたことと実際に触って実感したことでは天と地の差があることを実感した。。

 次にメアは材料の下準備をした。ジョンの助言だった。木材は乾かさないと縮んだり腐ったりしてしまうらしいのだ。授業でもその話は出たらしいが、余り真面目に聞いていなかったメアは完全に忘れていた。

 色々と方法はあるらしいが、期日を考えると少しばかり乱暴な方法を取るしかないらしい。しかし、それは当然素材が損傷する危険もある方法だ。もし予備も含めて壊れてしまうと杖を作ることができなくなってしまう。悩むメアに助力を申し出てくれたのは、倉庫で会った冒険隊のことを教えてくれた先輩だった。

「まあまあ、そのくらいなら手伝っても怒られないでしょ。折角ものづくりを頑張ろうって後輩を見捨てることはできないって。任せとき!」

 本来は最低でも半月は掛かるそれを、先輩は三日で行ってくれたのだった。

 そして、メアは設計図を引く。教わった通りに寸法を測り、誤差と遊びを考慮して図面を書き、小まめにメームドームのところに持っていっては助言を求めた。メームドームは山のように図面を添削した。メアは思わず真顔になってしまった。

「手を抜くな。これでいいだろうなんて妥協するな。徹底しろ。そうすれば最後までやり切る助けになる。後で泣きたくないだろぉ?」

 にんまりと笑うメームドームの部屋で、メアは一から図面を引きなおしたのだった。

 そして、材料の切り出し、削り出しが始まる。ここでまた問題が発生した。木材が固すぎて工具の歯が立たないのだ。

「気合い」

「丁寧に少しずつ削るしかないかなぁ。今期は必要だけど、時間はまだあるし、がんばろぉ」

「木材にも筋があるのよ。しっかりみてごらん? きっとわかるはずだから」

 正しい方向に、正しい角度で力を籠める。そうしたことを徹底し、決して一度に削ろうとはせずに、薄皮をはがす様に少しずつ削る。途方もなく根気の必要な作業だったが、少しずつ形が出来上がっていくこと自体は楽しかった。その面白さは時間がたつごとに、その形が明瞭になるごとに増していった。

 このころになると、レオゥもメアが何を作っているのかを理解した。相変わらず無表情だが、どこか呆れたような声でメアに問いかけたが、メアは意思を曲げず、レオゥ自身の杖作りも余裕はなかったため、二人は無心に手を動かした。それこそ授業以外の時間もだ。

 削り出しがおわったら組みつけを行う。寸法が一部間違っていたため最初は上手く組み合わなかったが、余裕のある造りにしていたため、片方を余分に削ることによって何とか合わせることはできた。メアはほっと胸を撫でおろした。

 最後は、仕上げだ。表面の加工と、飾りつけ。後者はある種不要な作業でもあるが、メアは手を抜くことはしなかった。なんとなく紋様を彫ってみる。音もなく森をかける狼。大木をもへし折る猪。自由に跳び回る鳥。列を作り歩く人。思うように上手くは彫れなかったが、思ったよりは上手く掘ることができた。

 あっという間の一月だった。

 期日である創作実学の時間を、メアは心臓を鳴らしながら迎えた。

 創作実学のその日の授業は各自が作ってきた杖の発表会だった。各自が作ったものを全員の前で見せ、材質、製法、どうやって使うのかを語る。真面目にやってきた生徒は興奮と好奇に満ちた様子で待ち、適当に済ませた生徒は居心地悪そうに座る。

 最初に発表する生徒はレティだった。

「私の杖はこれ! 木の材質は倉庫にあったのを適当に使ったので調べてません! 製法? 削って作りました! 用途は殴ることです! 以上」

 メームドームも、その他の生徒たちもなんとも言い難い表情をした。その理由は単純で、杖の出来がそれなりに良さそうに見えたからだ。角も荒れもなく、丁寧な表面加工、削り出しがされた柄。均整の取れた比率。可愛らくもどこか芸術的な猫の頭部が模られた把持部。それに、偶然かは分からないが、材質も固く、殴るという用途に向いている。説明は雑、何も考えていないことは言葉の通り。なのに、杖としてはそれなりのものができてしまっている。

 メームドームは頭を抱えそうになりながらも、念のために訊いた。

「それ、お前が作ったんだよな?」

「うん? 勿論ですよ先生!」

「あーじゃあ、まあ、星をやる。頑張ったな」

「もちろんです! 可愛いでしょ猫ちゃん! にゃー!」

「はいはい可愛い可愛い。んじゃ次の生徒」

 最初の一人が思いっきり発表の基準を下げてくれたからか、他の生徒は幾分か肩の力を抜いて発表できるようになった。少しだけ軽くなった雰囲気の中、次々に生徒たちは杖を発表していく。

 ヒーカッカアーは背丈ほどもある巨大な杖を掲げる。飾りはなく、長物の柄のような簡素な白い杖。

「材質は骨です。軽さと対燃性を重視しました。竜種の尾骨です。杖としての間合を重視し、俺が取り回しが可能な範囲で最大の長さに斬りました。危険なものを突っついたりするのにも使えます。余計なものがついてないか一目でわかる様に表面は磨いて、余計な彫刻はなし。骨剣ではないです。ありのまま自然の素材です」 

 ニョロはまるで指揮棒のような小ぶりな杖を胸の前に持つ。何本もの溝が円筒面をくるりと回る様に刻まれている

「杖の役目は、照準器と思われます。または、計測器。現代魔術師は、その高速化によりある程度の接近戦にも対応できるようになってきましたが、やはり戦闘で役立てるのであれば、中・遠距離での戦闘を考慮すべきです。で、その際に気にすべきは、距離です。この杖は、私が腕を伸ばして垂直に立てることで、標的との距離が測れるようになってます、溝の位置で、わかります」

 ジョンは金属製の杖を、生徒たちの前で伸ばした。どうやら伸縮式らしく、金属特有の光沢のある節が乾いた音を立てた。

「材質は鐵です。やっぱり、転変を考慮するのなら、鐵が一番安定してるので。杖のことは考えれば考えるほど長いのが良いのか短いのが良いのかわからなくなったから、長さを状況によって変えられるようにしましたぁ。ちょっと強度は落ちちゃったけど、これで叩く予定はないのでいいかなぁ、と。製法は、叩いて伸ばして、鐵魔術。図面はちゃんと作ったので赦してほしいです」

 各自の発表を見て、メアは感動した。想像以上に皆ちゃんと作ってきている。星が貰えなかった数人意外は、店で売ってあってもおかしくないと思えるようなものばかりだった。

 そして、ついにメアの番が来た。

 メアは腰に吊った剣を鞘ごと掴み、胸の前に掲げる。そして、すらりと剣を抜き、鞘の方を振って示す。

「これが俺の杖です」

 レオゥ以外の全員が首を傾げ、思わずと言った様子でフッサが呟いた。

「杖って言うか、鞘でござらんか?」

「そうとも言う」

 そう言ってメアは自身の剣を収めた鞘を。何度かひっくり返して見せた。

「材質は、検剣樹。採ってきたものの中からとにかく硬い物を選びました。製法は見ての通り、削り出した二枚の板を合わせました。で、用途というかなんでこんな形状にしたかという話ですが、、杖の役目は、間合を伸ばすことで、そのためには常在魔力を満たす必要があります。つまりは常に持っている必要がある。剣を持ってる俺は杖まで吊るわけにはいかないので、鞘にしました。また、これは非常に硬いので、殴ることもできます。投げたりとかもね。以上です」

 そう言ってメアはメームドームの採点を待った。

 大丈夫だと、星を貰えるという自信はあった。しかし、無言でメームドームに見つめられ、心臓は激しくメアの胸を叩く。

 五脈ほどの間の後、メームドームは軽い口調で宣言した。

「んー合格」

 胸を撫でおろし、剣を収めるメアに、メームドームは不思議そうにつぶやく。

「でもひねくれてるね。わざわざ頑張って鞘にするなんて」

「杖ですよ杖。先生だってそう思ったから星くれたんでしょう」

「それを杖と呼ぶと色々な人から怒られそうなので、保留とします。が星はやる。ルールス」

「はい?」

 メームドームはにっこりと笑った。

「頑張ったな。その調子で真面目にやれよ」

 その誉め言葉は驚くほどメアの胸に響き、メアは深々と頭を下げた。

 こうしてメアは杖を作り、この学校に来て初めての星を貰ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ