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ルゼンテーベ・ストルト  作者: 仁崎 真昼
二章 杖を作る
30/240

030 運動場・三年次組対抗戦・観戦

「受かった!」

 アウェアが得意げに硬貨のようなものを取り出した。鳥と馬の紋様が彫られた銀色の硬貨。端に穴が空いており、首飾りとして身につけられていられるようになっている。メアの見間違いでなければ調停委員のサススが身に着けていたものと同じ。であれば受かったのは調停委員だろう。そのことはメアにもすぐにわかった。

 しかし、メアとレオゥは戸惑ったような表情でアウェアの方を見た。

「おめでとう。……でも、ここ男子寮なんだけど」

 下着姿のヘクセが悲鳴を上げて物陰に隠れた。ヴァーウォーカはメアとレオゥに客かと目で問いかけてきている。メアは慌ててキュッフェの方を伺ったが、起きてきてはいないようだ。

 アウェアは気にした様子もなく、胸を張って講釈を垂れる。

「女子寮に男子は入れんが男子寮に女子が入っていけないという規則はないぞ、ルールス」

「そうなの?」

「ああ。だが女子を無理矢理連れ込んだ場合は一発で退学だ。そんな不埒な輩はこの学校に入れないだろうがな。因みにこの無理矢理というのは女子側の言い分が完全に認められるため、物証さえあれば男子側は終わりということだな。それで脅迫されることもなくないため、性行為には細心の注意を払い、遊びで手を出すことはしないように」

「そういえば、この学校って入学の……」

「いいから話なら外でやってくれ! 痴女か君は!」

 ヘクセに言われ、アウェアはようやく気付いたようだった。やや顔を赤らめてそそくさと廊下へ退室する。そして、扉を閉める直前に顔だけ手だけのぞかせ、メアとレオゥを手招きする。

 メアとレオゥが外に出るとアウェアは腕を組んで待っていた。

「メアとレオゥは同部屋なのか?」

「いや。レオゥが俺の部屋に遊びに来てるだけ」

「頻繁に? 朝からか?」

「いつもは違う。だけど今日は組対抗戦の日だろ? メアが忘れてないか様子見に来た」

「なるほど」

 甲の月、一八日、森刃星。休日ではあるが、司祭委員が企画する特別な行事があり、朝から寮が騒がしい。行事の名前は三年次組対抗戦。運動場で組同士の模擬戦が行われる。刃は潰してあるものの武器あり、等級は制限されるものの魔術ありの、毎年怪我人が大勢出る危険な行事。しかし、娯楽のあまり多くないこの学校では一、二を争う人気の祭りだ。

 改めて見るとアウェアは既に制服を着ていた。当然のように行事の観戦に行く気だ。メアとレオゥも同じであり、既に用意ができていたため、三人はそのまま学校に行くことにした。

 教室までの短い道すがら、メアはアウェアを改めて祝った。

「調停委員になれたんだって? おめでとう」

「当然のことだな。と言いたいところだが、実はおまけの合格らしい」

「おまけ?」

 アウェアはあっけらかんと頷いた。おまけというのはあまり気にせず、入れたという事実を重要視しているらしい。その割り切り具合はとてもアウェアらしいとメアは思った。

 しかし、おまけで合格なんてことがあるのか。かなり厳格な組織ときいているのに、と思い、レオゥはその理由を思い付いた

「もしかして今日の対抗戦が原因か?」

「ああ。本当は色々と準備をしていた今日までが一番忙しかったが、これからも少しばかり忙しくなるらしい。戦いの熱気に当てられる生徒が多いと。あと、やっぱり勝った負けたは大なり小なり遺恨が残る。揉め事が増える。だから調停委員も増やすと」

「まあ増やすのはいいいが、じゃあ落ち着いたら減らしたりするのか?」

「それは、ないと嬉しいが」

 アウェアはその可能性を考えていなかったのか、少し困ったような表情をして首を振った。

 三人が運動場にたどり着くと、そこには巨大な観戦席が運動場を囲うようにして設置されており、既に多くの学生が集まっていた。三階ほどの高さの観客席を埋める生徒は人数にして約三〇〇人、全体の八割近い生徒。メアが想像していたとおりの盛況っぷりだ。

 四組が総当たりで戦うため全六戦。休憩時間、怪我の治療時間、会場の整地の時間。たった六戦とは言え、諸々含めて朝から夕方までかかる行事のため、朝早いというのに開始時間までもう間もない。

 メアは他の二人と空いている席に座り、開始の合図を待つ。すると、観客席でばらばらに座っていた花組の生徒が自然と集まってきて、十数人の大所帯となった。

「いや、なんで集まってくるのさ」

「皆でいたほうが楽しくない?」

「他の組の生徒も集まってるっぽいんだよね。私らの組だけ違うのは仲悪いと思われそうだし」

「組対抗戦だぞ? 当たり前じゃん。再来年は我が身なんだから、一応まとまってみた方が良いでしょ」

「席空いてるんだからいいじゃん」

「モーウィンは邪魔だから一番後ろに座って。ラエマユテも」

「ううううううううぃぃぃぃぃ」

「そんな言い方することなくない? そもそもがヒーカッカアーが背が低いのが悪いし」

「あんだと?」

「はいはい喧嘩しない。喧嘩しないの」

「というか俺はレオゥの解説を期待してる」

「私はアウェア」

「つまりメアのところに集まってきたわけじゃないってこと」

「そっすか」

 侃侃諤諤と喋っていると、石柱や立木の林立する広大な特設会場の中央に司祭委員が立ち、宣言した。

「本日は皆さん、お集り頂きありがとうございます。長々と挨拶してると引っ込めと言われそうなんで、開会のあいさつを終わります。一回戦は、三年羽組対三年魚組です。私が戦場から出たら開始です」

 拡声の魔術により響き渡る短い挨拶を終えて一礼すると、司祭委員はゆっくりと歩いて退場した。

「え? 今の開始の合図?」

 メアが思わずレオゥに聞くと、レオゥは頷きながら戦場を指さした。

「ああ。証拠にほら、陣形が変わっていく」

 レオゥの言葉どおり、各組の陣形はゆっくりと形を変えていった。林立する障害物により戦っている当事者同士は互いの様子がみえないのだが、観客席からは見下ろす形となっているため、メア戦場の様子が良く見えるのだ。

 組対抗戦は二〇人対二〇人の集団戦。戦闘の終了条件は、戦える生徒がいなくなるか、拠点が破壊されるか、時間切れとなるか。時間切れとなった場合は残りの戦闘可能な生徒の人数差で勝敗が決定する。そんな解説がレオゥから行われ、花組の生徒はわくわくと戦場を見守る。

 どうやら、互いに大きな陣形を組むのではなく、少人数の班に分け、班ごとに戦場を駆け回るらしい。能力が個々人ごとにばらばらであるため、そうした方がそれぞれの能力を活かせると判断してのことだろう。アウェアからの解説にメアは頷き、先遣隊がぶつかり合うのを固唾を飲んで見守った。

「始まった」

 誰かの呟き。最初の激突は、中央にある少し開けた場での建設戦闘が得意な戦士同士の斬り合いだった。

 続いてそこに矢や魔術が飛び、それを皮切りに各所で戦端が開かれる。横を抜けようとする班同士がかちあったり、大回りして裏を着こうととした班を迎え撃ったり。空からの偵察や、防御陣地の構築、負傷者の救護など、戦闘以外にも様々に生徒が動いている。

 それらに対する花組の反応は様々だが、特に楽しそうなのはボワだった。まるで目が八つあるかのように点在する戦闘を語っている。それにわかりやすい注釈をしてくれるのがアウェア。大まかな戦略に関してはレオゥがせつめいしてくれている。

 一度始まってしまえば戦闘は短く、一〇息もあればお互いの戦力はほぼ亡くなっており、最終的に片側の拠点が破壊される形で対抗戦が終了した。

 口々に感想を語りながら、休憩、治療、整地を終わるのを待ち、半刻後に二回戦が始まった。

 二組目の戦闘に入ると、メアにも少しばかり戦術的な意図が読めるようになった。あの突出した部隊は潰れ役。防御陣地にほとんど人がいないのは戦力的不利を悟っての短期決戦狙い。となると中央の大集団が見たまま本命で突破狙い。少しでも読めると対抗戦が更に面白くなってきて、メアは興奮にレオゥの肩を叩きながら感染した。

 そうして目を皿にしていると、メアはふと疑問に思った。

「これ、三年生だよね。何組と何組だっけ」

「歌組と雲組のはず。どうかしたのか?」

 メアはからも見えるように戦場の一部を指さす。

「ほら、団長がいる。魔闘連盟の」

「魔闘……あああの自主活動団体か。そういえばメアは何回か稽古つけてもらったんだっけ」

「週に二回くらい」

「思ったより多いな。それ入団した方が良いんじゃないか?」

「そう思ったんだけど、なんかもう入団扱いされてるってさ。特に入団に際しての義務はなくて、活動も良くも悪くも適当だからあんまり意識してなかったけど。あ、なんかレオゥも入団した扱いされてるよ」

「おい。なんでだ」

 レオゥが追求しようとしたとき、一際大きい歓声が上がった。二人が目を離した一瞬の隙に大勢が決したらしい。見るとハナのいる歌組側がほぼ壊滅しており、医療委員が飛び出して瓦礫の下から怪我人を救助している。

 これで決着かとレオゥは話に戻ろうとするが、残った生徒が妙な動きをし始めたのを見て口を噤む。先ほどとは違い、お互いの生徒がずらりと中央に並び、向かい合ったのだ。

「あれ? さっきはこんなのなかったのに」

 メアの言葉にレオゥも首を傾げ、そして思い至った。それぞれの列から一人ずつ前に踏み出し互いに武器を構えたからだ。

「あれじゃないか? 一騎打ち。各々の武練を見せるのが目的だから、行っちゃ悪いが、一方的な展開だっただろ。多少負けた側にも見せ場が必要で、ああして一騎打ちをするんじゃないか、と思う」

「へー」

 見てる間に答え合わせが始まった。進み出たそれぞれの生徒が盛大に名乗りを上げたのだ。

「我が名はヤハノ゠ガソーン! 三年雲組! 山河流、並岩断の剣士なり! 我と一手仕合う勇者はいるか!」

「我が名はハナ゠カウィ゠ラエ! 三年歌組! 魔闘連盟の団長なり! 団員募集中!」

 ここぞとばかりに広報活動を行うハナに、客席からどっと笑いが湧いた。飄々としたハナだから意外ではないが、身内だと思うと少しばかり気恥ずかしさが湧いてくる。

 並んだ生徒の人数を見てボワが唸る。

「うーん、歌組は厳しいなー。三対十か。なあ、メア。あの人強いのか? ハナって人」

 その問いかけにメアは自信を持って頷いた。

「凄い強い。けど、あの大きい盾はみたことないし、本気で相手してもらったことないからどのくらいかは……」

「なんか変なんだよなー。剣使うの上手いんだけどそれだけじゃない感じがするし」

 ボワはしきりに首を傾げる。メアは思わず魔術を使うことを語ろうとして慌てて口を閉じた。これから戦闘がはじまるのだから、ねたばらしは良くない、と。

 向かい合い、二人は構える。ヤハノと名乗った生徒は剣を一本、盾はなし。ハナは小ぶりな剣を右手に、左手には巨大な鐵の盾。

 ハナが何かをつぶやいた。同時に鐵製の盾が四つに分離して宙に浮く。楔型の巨大な鉄片は盾というにはあまりに鋭く、その用途が刃であることが遠目にもわかった。

 鐵の楔が空を滑り、相手の剣とぶつかり合う。硬質な音がして相手はよろめくが、すぐに二の刃、三の刃が襲い掛かる。それは鐵製の嵐であり、一方的な攻撃だった。なんとかそれを逃れハナへ斬撃を浴びせるも、ハナの剣に弾かれ再び刃に巻かれる。メアもやっと理解した。ハナの剣は盾であり、盾は剣だった。

 盾を使ったハナの中距離の支配力は一方的で、近距離も受け太刀に集中しているからか簡単には崩せず、ヤハノは全く太刀打ちできていない。普段のメアとのやり取りを、そのまま殺意で底上げしたかのような戦闘に、メアは思わず乾いた笑いを漏らした。

(そうだよね、近づけないよね。あれずるいよね。うん、わかる。気持ちはとってもわかる)

 二つ同時に襲い掛かった鉄の楔がヤハノの剣を弾き飛ばし、ハナはヤハノの喉元に剣を突きつける。ヤハノは両手を上げて降参し、観客席から歓声が沸いた。

 そのままハナは一人、二人と打ち倒し、五人目に出てきた相手に切り伏せられた。そのほかの歌組の生徒も健闘はしたが、結局歌組は負けてしまった。

 番狂わせを期待した生徒たちは溜息を吐いたが、一騎打ちというわかりやすい余興に、盛り上がりは十分だった。

 メアも盛大な拍手を送り、熱が冷めやらぬまま三回戦、四回戦と感染を続け。

(……あ)

 小さな閃きを受け、自身の剣に目を向けた。

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