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ルゼンテーベ・ストルト  作者: 仁崎 真昼
二章 杖を作る
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026 運動場・魔闘連盟・手合わせ

 放課後、メアは第三教育棟に訪れ、魔闘連盟と描かれた札のつり下がった部屋の扉を叩いた。

「こんにちはー」

 返事がないので恐る恐る部屋に入る。すると、中にいた二人が一斉にメアの方を見た。

 一人は青髪の少女、ディベ。もう一人は団体の長、ハナだ。二人の間には何種類もの木駒と升目の入った板が広がっていて、何らかの遊戯に興じていたことが分かる。メアの地元にはそうした遊戯がなかったため詳細は分からないが、これが卓上遊戯というものなのだろうとメアはあたりを付けた。

 来訪者がメアだと気づくとハナが笑顔と話しかけてくる。

「やあ。いつぞやの。メア君だったかな。いらっしゃい」

「よく来た少年。どうします団長。この少年を混ぜてもう一度やり直しますか? この対戦は無かったということで」

「いやいや、あと三順で終了なんだから終わりるまで待ってもらおう。なに、大した時間じゃないだろう」

「でもせっかくの新入生ですよ。結局今年は一人も新人が入っていませんよ。このままじゃ今年の活動費がもらえないですし、来年は団体が存続しているかも怪しいですよ。今が好機ですよ。雑な対応して候補生を逃している場合じゃないですよ」

「ふむ。それもそうか。おっと済まない。メア君。とうとう我が団体に入団する決心がついたのかな」

 今のやり取りを見て入ろうと考える生徒はいるのだろうかとメアは不思議に思いながらも、できるだけ丁寧な言葉遣いを心掛ける。相手は上級生、歳上であり、今日のメアはお願いをしにきたのだから。

「入団するか、とかそういう話は取り合えず置いておいて、少し相談というか、お願いがあるのですが、聞いてもらえますか」

「ふむ。話を聞かせてもらおう」

 メアは嬉々として駒を片付けているディベを尻目に、花と向かいの椅子にすわる。そして、腰の剣に無意識に手を当てながら事の経緯を離した。

 たまに合いの手を入れながらそれを聞いたハナは顎に手を当てる。

「つまり、強くなりたいから稽古につきあってくれと」

「まあ、そうです。以前お断りされましたが、もう一度頼んでみようと」

「別に断ってはいないさ。手合わせくらいなら付き合うよ。なんてったって新入団員の頼みだ。団長としては後輩を可愛がってやらなければね」

「まだ入ってはいませんか」

「細かいことは気にしない気にしない。運動場に行こうか」

 ハナは立ち上がり、椅子の背にかけていた剣を手に取る。メアは予想外に軽い了承に戸惑いながら、その後ろをついてゆく。

 少し遅れてディベもついてくる。扉に鍵を掛けたりしている様子はなかったが、防犯上の問題はないのだろうか。メアは他人ごとながら少し心配になった。

 運動場には多くの生徒がいた。二十人ほどで飛球をやっている生徒。木材を背負って走り続ける生徒。巨大な車をいじくりまわしている生徒。中々活気はあるが運動場は広く、メア達が剣を振るえる空間はそれなりにある。メアたちは運動場をぐるりと回って隅の空いている場所に向かった。

 何やら意味の分からぬ声を出しながら走っている集団を眺めながら、ふとメアは思いついたことを口にする。

「そういえば、ハナさんはどの程度、剣を使えるんですか?」

 ハナはそのにこやかな笑顔を崩さず、少し困ったような声を出した。

「剣はそうだね、剣を使って戦うのを剣士と言うならば、剣士としては、三年生の中で十番くらいには入るんじゃないかな。ただ、僕のことを剣士だと認めない生徒は多いし、僕もあんまりそこを主張したりはしない。戦うのに剣一本にこだわる意味は無いと思うしね。だから、うーん。まあそこそこだよ。そこそこ」

「団長は強いよー。私じゃかなわないもん。本気の取り合いで団長に勝てる三年生は少ないぞー。二年じゃほとんどいない気がする」

「あんまり持ち上げるのはよしてくれ」

 照れ臭そうに笑うハナ。ディベの評価にいくらかの身びいきが入っているにしても、かなりの高評価。メアの期待は高くなっていく。

 メアは腰の愛剣に手をかけ、ふと気づいた。

「木剣でやりますか? 用意してないですけど」

「いやいや、真剣でやろう。その方が色々とやりやすいだろう。僕は君の実力を知らないけど、だからこそ実力は知っておきたい。だから、才所は本気で、だ」

 メアの剣を握る手に力がこもる。緊張だ。真剣での手合わせということは、いくら注意していても死の危険がある。怪我の可能性も高い。とはいえ、臆したりはしない。

 そんなメアに対し、ハナとディベが頷きあい、すすすとディベがにじり寄ってくる。

「な、なんでしょうか」

「防具はつけるよ。大丈夫」

「え、でも防具なんてどこに」

「こう」

 魔術の波動が走る。ディベはメア眼前に掌を突き付ける。メアは避けようかと迷ったが、どう見ても敵意は無かったのでされるがままに手をじっと見た。手はそのまま首、脇、胸、股間へと動き、特に何かすることもなく。ディベは再び魔力を練るとハナに対しても似たような動作を下。

「何の魔術ですか?」

 待ってましたとばかりにディベは得意そうに答える。

「時空魔術、空属性空魔術。【超断裂空(ルウォイフシデス・)無敵(ジョッヅ・オーサ)盾鎧(・ジョア)】さ!」

「【超断裂空無敵盾鎧】!」

「空属性魔術だよ。空間の魔術だ。中々適性がある魔術師は稀だが、ディへはその使い手だ。かなり独特な名称の魔術ではあるけど、こう見えて応用技術を二つも組み合わせている。その剣で僕の首を突いてみてくれ」

 メアが言われるが儘に恐る恐る首を突くと、まるでそこに固い粘土があるかのような抵抗と共に剣は止まり、ハナの首に刃が届くことはなかった。

「これが、じくう魔術。ですか」

「そう。急所は固めてもらったから不慮の事故にも安心だね。医療の先生も呼んでると完璧なんだけど、ちょっと面倒だからこれだけで始めちゃおう」

 メアが自分の首に触れようとしたが、確かに触れなくなっている。他の急所も確認しつつ、自分の動作に問題がないかぐるぐるとて足を動かし、問題ないと理解した。

「やり過ぎは注意だ。魔術が維持できなくなる。あと、空間を切り裂くことができるくらいの剣士にはこの鎧は無意味だね。まあそんな剣士この学校にも一人か二人しかいないが」

「へー、凄いんですね」

 よくわからないがメアは頷いておいた。

 メアは剣を抜き、両手でその柄を握り締める。ハナもそれを見て自分の剣を抜いた。ハナの剣は般的な剣よりやや短めだが刀身の分厚い剣。刃先が刀身に対して直角という変わった形状の片刃の剣。それを片手で持ち、もう片方の手は空けている。

 ハナも構えた。そして、柔らかな笑顔を少しばかり引き締め、メアの目を見た。

「じゃあ、始めようか。最初は剣だけで」

 即座にメアは全力で切り込む。できるだけ速さに重点を置き、威力は二の次。狙うのは脳天。読まれることは織り込み済み。

 ハナはそれをあっさりと打ち払う。それも片手で。

「うん、重いね」

 そういう割には涼しい顔。メアは続いて二撃、三撃と打ち込むが、やはり打ち払わさぺる。

「悪くないよ」

 渾身の唐竹。その手首をへし折るくらいの気合で叩きつけた剣戟は、しかし、するりと流され、メアは虚を突かれる。

 鋭い逆胴。メアは咄嗟に跳ね、腰に差した鞘で受ける。

「ん。良い反応」

 メアの反撃をハナは上体を逸らすだけで躱す。そして、すぐさま反撃。今度はメアはきちんと剣で受け、はじき返す。

 メアのぐらぐらと上体の揺れる曲芸的な受けに、ハナは思わず顔を綻ばせた。メアの剣の技術は拙い。しかし、なんとも柔軟な発想で危なげなく対応している。しかも、本人に焦っている様子がない。

「ほい。うん、中々固いね」

 メアは言葉には反応せずに、深く踏み込む。そして、下がろうとするハナのつま先を踏みつけ、首筋に向かって剣を振るう。それにも素早く反応するハナ。二人は至近距離で剣を押し付けあう。

 体勢はやや背を逸らしているハナが不利。おまけにメアが両手で持っているのに対し、ハナは片手持ちであり、お互いの剣の重量さもある。しかし、二人のつばぜり合いは拮抗し、僅かな間ができる。

「……メアは闘技は使えるかい?」

「いえ」

 メアは闘技というものの存在を知っていたが、それがどういうものかは知らなかった。どのような原理で発生し、どうしたら修得できるのか。そうしたことは誰に聞いても曖昧な答えしか返ってこなかったからだ。

 苦笑するハナ。

「まあそういうものさ。出す出さないというのも変な言い方だしね」

 ぎゃり、と硬質な音と共に剣が捻られ、二人はすれ違う。ハナはメアに対して半身で足元へと斬撃を切り出したが、メアはそれを軽く跳んで避ける。

「ん、足元の反応も良い」

 急所への気配りはばっちり。受けの後も決定的に体勢を崩したりはしない。しかし、打ち込みが非常に弱い。正しく受ければ片手でも十分に受けられるほどに。ハナはメアと打ち合いながら分析をする。

 ハナは空いている左手を剣の鞘へと伸ばすと、少しばかり距離を取った。

「じゃあ、魔術解禁しようか。好きに使っていいよ」

「古典魔術もですか?」

「へえ。良いよ良いよ。団体の活動ということで後で許可を貰っておく」

 ハナがスッと左手から何かを放った。それは黒色の金属球だった。大きさは握りこぶしより二回りほど小さいほど。

 玉属性鐵魔術。ハナの手を離れても宙に留まるそれは、ハナの意のままに飛び回る飛び道具だ、というのを一目でメアに理解させた。

 ひょっと投石程度の速さでメアへと飛び、辛うじてメアはそれを弾く。しかし、すかさず踏み込んできていたハナの斬撃には対応しきれず、先ほどとは逆に、メアが不利な姿勢での鍔迫り合いとなる。

 メアがなんとか逃れようと力を籠めようとすると、メアの後頭部で重い音がして、メアの視界に火花が散った。

「はい、まず一点」

 鐵球が弧を描きながらハナの手元に戻った。勢いはそれなりにあったようだが、痛みがないのはティベの魔術のお陰か。メアは多少の安堵をしながらも、あまりにもあっさりと攻撃を受けてしまったことに少しばかりの悔しさを感じる。

 メアは剣を構えたまま、詠唱をする。

「雪は冷たく氷は鋭い――【霰玉】」

 こぶし大の氷塊が飛ぶが、ハナはそれを軽く弾く。続いて踏み込んでいたメアの斬撃も同様。

「古典魔術は発生が遅いからね。単文節じゃ大した威力もないし、特にこういう単動作系はあまり実戦的じゃないよ。まあ、それもおいおいか」

 ふっとハナはの体から力が抜ける。しかし、それは次の攻撃のための予備動作だった。

 本日最速の踏み込み。メアは辛うじて反応するが、それを受けきることはできなかった。

「通断ち」

 受けた剣に衝撃が走り、それは余すことなくメアの両腕に伝わる。それは先日の獣の突進とそん色ないほどの威力だ。当然だが、メアは剣を取り落とす。

 メアの首筋にハナの剣が突きつけられる。

「はい、二点目」

「……今のは」

「闘技。っても、まあまだ扱いきれてないんだけどさ。一応、一番得意な片手袈裟だよ。痺れた?」

「凄い衝撃でした」

「ははは」

 メアは剣を拾い、構える。どうやら手首を痛めたりはしていないようだ。

「まだやるよね?」

「はい、お願いします」

「その意気」

 そう言って二人はしばらくの間、剣と魔術を交わし合った。

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