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ルゼンテーベ・ストルト  作者: 仁崎 真昼
二章 杖を作る
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025 教室・生命学基礎・願望

 冒険隊の翌週、生命学基礎の授業。メアは大量の木材を目の前にして眉を顰めていた。

 枯れ木、生木、前腕ほどの長さの枝、足程の長さもある建材といった方が近い木材。種類こそ豊富だが、どれもこれも一長一短。理想の材料には程遠かった。

 レオゥが小声で声をかけてくる。

「どうした、メア。材料は手に入ったんだから作り始めようぜ」

「うーん」

 メアは唸りながら首を傾げると、訥々と語り始めた。

「俺はね、強くなりたいんだ」

「ほお」

 レオゥは相変わらずの無表情。慣れたメアは突っ込むこともなく続ける。

「この前魔法使いにぼこぼこにされた時も思ったんだけど、その時はそこまで強烈に強くなりたいと思ったわけじゃなくて、まあ将来的にはああいうのを相手にできれば良いな、くらいでさ。まあ願望程度だったわけ。けどね、この前の冒険隊で、あの獣に歯が立たなかったのが凄く悔しくて、かなり真面目に強くなりたいと思ったんだ。だって悔しいじゃん。ほら。なんていうか。剣持ってんのに斬れないし、魔術打っても効かないし、それってどうなのって。それ本当に剣持ってるって言えるのか、魔術使えるって言えるのかって自問したら、それ意味ないよねって。持ってないのと変わらないじゃんって。魔術だってねー。うーん。言いたいことが上手くまとまらない」

「ほおほお」

「まあ要するに、強くなりたいってすっげー思った」

「で、それが何か杖と関係あるのか?」

 メアは手を自身の顎に当てて揉むように擦った。

「冒険隊に行くまではあんまり杖作りのことを真面目に考えてなかったんだ。作る理由聞いても役に立たなそうに感じたし。けど、改めて反省してみると、今までそうやって関係ないと切り捨ててきたことにもひょっとしたら意味があって、そうした切っ掛けを切り捨てることによって強くなるための何かを見逃してきたんじゃないかって、そう思って、改めてどんな杖を作るか考え直してる」

「なるほど」

 レオゥは手元の木材を撫でながら言った。

「意外と色々考えているんだな。意外だ」

 レオゥの声に馬鹿にするような色はなかった。だが、メアはその評価には少し文句を言いたかった。

「意外ってなんだよ」

「だってメアって何考えてっかよくわからないから」

「レオゥに言われたくない」

 表情がないだけではなく、声に抑揚もない。常に一定の声量で淡々としゃべるレオゥはともすれば怒っているのかと感じるほど。一〇〇人に聞けば一〇〇人がレオゥの方が何を考えているかわからないと答えるはず。メアはどう反論するか悩み、結局何も言わずに口を閉ざした。

 しかし、直後に予想外の方向から援護射撃が入る。レオゥの前に座るフッサが顔を前に向けたまま背中を寄せてきたのだ。

「そうそう。レオゥはもっと自分の感情を表に出すべきでござる。その無表情は何考えてるかわからなくて威圧感を感じるでござるよ」

 二対一の形勢不利を悟ったレオゥが助けを求めるように周囲を見回すと、メアの隣に座るシャープと目が合った。そして、シャープは力を込めて頷いた。その意味は明白。

「わかった。まあそれはいい。置いておこう。……で、まあ杖のことはメアが考えるしかないとして、強くなりたいんだよな。要するに」

「うん。でも、魔術学基礎の授業はまだ基礎の基礎だし、武器格闘の授業はひたすら走らされるだけだし」

 言い淀むメアに、フッサが振り向き、顔を輝かせた。そして、何かを言おうと口を開いたとき、レオゥとメアが姿勢を正して緊張した面持ちになっていることに気づいた。

「随分と楽しそうだね」

 生命学担当教師。フェーブサ。青白い肌とこけた頬を持つ、非常に体調の悪そうな教師が、フッサの席の横に立っていた。

 流石に授業中に堂々とお喋りをしすぎた。三人は怒られることを想像し思わず身をすくめたが、予想外なことにフェーブサは静かに質問をしてきた。

「僕の授業は楽しいかな?」

「……はは、はい」

「では、現在参考にしているこの生命大全にて定義されている生命の九分類が定義されたのはいつでしょう。ルールス君、答えられるかな?」

「えっと、そうですね」

 メアが視線を漂わせると、隣のシャープが指で教えてくれた。

「オルシン歴、八一〇年、ですかね」

「正解。素晴らしい。約三〇〇年前の分類ということで。まあちょくちょく手は入っているけど、これだけ長く大きな変化がないということはそれだけ優秀な分類だったということを示しるね。三展、五獣、六姿、と来て、現在は九命。だんだん増えているので、次に分類の大改革があったときには十二くらいにはなっているかもしれないね。では、次。タくん」

 びくり、とレオゥが肩を揺らした。難を逃れたと思っていたようだが、そう上手くはいかない。と、先ほど人に助けてもらったのも忘れ、お前も質問されて困れ、と、メアはほくそ笑んだ。

「きみたちは週末に冒険隊に参加したそうだけど……そこで獣に追われたと聞いたよ。では、その獣の系譜、族、種族、種を述べてください」

 レオゥは無表情。しかしどこか焦っているようにも見える。

「あー……毛が生えていたので獣の系譜でしょう。広翼はなかったので鳥ではないです。で、そうですね。足が六本、いや、副足でしょうか。があったので、恐らく臥獣の一族。で、まあ、ずんぐりした体ですし、というか見るからに豚か猪の種族。で、種はよくわかりません」

 レオゥは慎重に考えを纏めるようにして話す。できるだけ授業の内容と絡め、話を聞いていましたと媚びを売るのは忘れない。その如才のなさにメアは思わず感嘆する。

「なるほど。それっぽく聞こえるのでそれでいいよ。僕が教えた通りの順序で実に論理的に分類してくれた。はい、良いと思います」

 のんびりした口調でとんでもないことを言うフェーブサ。それに反応して何人かの生徒が小声で反応するが、フェーブサは気にすることなく

「補足すると、特徴からしておそらく突猪(テア)だね。獣の系譜、臥獣類走助種。血徴は【砕進】。なんにでも食べるしどこにでもいるし気性がいい感じに荒いから、開拓者組合の階級、指標として使われてる生命。覚えておいて損はないと思うよ」

 ちなみにここは試験には出さないよ。フェーブサは本気か冗談かわからない口調でそう言うと、次の質問に移った。

「では、アくん。最後の質問。答えられなかったら留年です」

「はい! ……はい?」

「では、そうですね。ふむ。ああ、ちょっと思いつかないので止めておきましょうか」

「そうしましょう! 某それが良いと思います!」

「留年云々は冗談だよ」

「ですか!」

「ただ、授業はちゃんと聞こうね」

「すみませんでした!」

 どっと笑い声がわく。メアも一緒になって笑ったが、不満そうにフッサに睨まれ、慌てて笑いを引っ込めた。例えフッサが勝手に口を挟んだとしても、メアとレオゥのおしゃべりが発端なのは間違いないからだ。

 フェーブサは力なく手を叩くと、再び授業を始めた。

「まあというわけで、基本的なところは理解してもらえたと思うので、少し詳しい話に入っていきましょう。まずは、竜の系譜から行きましょうか。なんといっても格好いいですからね。竜。一族も少ないですし、具体的な話も覚えやすいでしょう。まず、一族ですが、これは二種類に分けられます――」

 メアが記録を取ろうと炭筆を手に取ると、何かが机の上に投げ込まれた。それは丸められた紙。投げてきたのは前に座るフッサだ。

 ――やはり自主活動団体でござろう。戦闘を主とした活動としている団体に所属するのが手早くないでござるか?

 丁寧な第一共通言語で掛かれている。たまに感じていたことだが、育ちは良いのかもしれない、とメアは思った。

 そして、そんな取り留めないことを考えながら書かれている内容に思考を写す。

(自主活動団体かぁ。剣士會には断られちゃったしなー。なんか授業に忙しくて、結局どこにも入ってないし……あ)

 メアの脳裏にとある三人組の顔が思い浮かんだ。魔闘連盟の三人だ。結局レオゥと二人で入学初週に訪れて以降は一回も顔を出していない。そもそも正式に入団したとも言い難い状況なのだから、そうした義務もないと感じていて、向こうからも接触はなかった。それ故に存在そのものを丸一月の間忘れていたのだが。

「顔出してみるかな」

 剣を教えることはできないと言っていたが、相手をするくらいならしてくれると言っていた。少なくとも一人で剣を振っているよりははるかにためになるはずだ。

 メアは期待に胸を膨らませながら、何度も頷いた。

(一人だと、あれだし、レオゥにも一緒に来てもらお)

 くしゃみをするレオゥを横目に、メアは授業が終わるのを待った。

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