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ルゼンテーベ・ストルト  作者: 仁崎 真昼
二章 杖を作る
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023 倉庫・材料・助言

 翌日、メアとレオゥはジョンに自分たちの知ったことを伝えた。

「へえ。なるほどだねえ。つまり、僕にとっての槌みたいなものなんだねえ」

 そう言って、ジョンは腰に下げた工具を叩いた。

「それで、メアとレオゥはどんな杖を作るか決めたのかい?」

「俺はなんとなく。レオゥは?」

「んー、まあ、俺も決まった。木製で、そこそこ大きくて長い奴。魔術だけで身を守れるぐらい使いこなせる気はしないから、用途としては武器としての棍に近くするかな」

「金属は駄目かい?」

「熱魔術が暴走したときに金属だと持ってられないだろ? 金属は加工するのも大変だし」

「なるほどねえ」

 レオゥの想定が自分より遥かに明確だったことに、メアは内心焦りを感じていた。メアも似たようなことを考えてはいたが、魔術学の授業がまだ魔力の励起で止まっていたこともあり、自身の魔術との相性などは考えていなかった。加えて、用途を考える限り、メアにとっては杖は剣で代用できるものであり、製作後に実用することを考えていなかった。

 要するに、あまり真面目に考えていなかったのだ。

 そんな三人の会話が聞こえていたらしいテュヒカ、ファン、シャープの三人も会話に混ざる。

「殴るための、杖かぁ。じゃあ折れないくらいしっかりとした柄じゃないとだめかな」

「先端に装飾をつけようと考えていたのですが、止めておいた方が良さそうですね。鐵で鍍金……いや、技術的に難しいですかね。現実的に強度を持たせるなら、加工法が、うーん」

 しゅっしゅと虚空に向かって拳を振るうテュヒカ。

「やっぱり木材だろ木材。手頃な枝を削るべき。炉を借りられるなら鋳造って手もなくはないが、燃料も材料も集められるのかどうか」

「悩む! どうしよう! やっぱ木か! それとも鐵か!」

 頭を抱えるメアを尻目に、ジョンはのんびりと呟いた。

「だとしたら、急いだほうがいいかもねえ。僕が昨日工作館の倉庫に行ったら、もうあんまり良さそうな素材が残ってなかったからさ」

「まじか」

「うん。端材なら多かったけどさ、長くて頑丈な木材って言うと、もうないかも」

 メアとレオゥは顔を合わせて頷いた。

 しかし、教室から駆けだそうとしたとき、機会を見計らっていたかのように鐘が鳴り、ピキピトが教室に顔を出した。

「はいはーい、座った座った。楽しい算術の授業が始まるぞー」

 二人は諦めて席に着き、そわそわと授業を受けることになった。そしてその落ち着きのない態度は、教室と工作館がそれなりに離れていたこともあり、三時限目が終わり昼休憩になるまで続くことになった。

 三時限目の授業が終わると同時に二人は工作館に急いだ。普段ならば混む前に食堂を駆け抜けるところだが、そんなことをしている時間はない。食堂が混む時間帯は中ごろであり、空腹さえ我慢できれば、昼休憩の終わり際に行っても混むのは避けられるため、材料の確保を優先することにしたのだ。

 工作館が在るのは学校の北西端。校舎は南東部、食堂は西部にあるため、人はいない。

 メアが工作館の裏手にある倉庫の扉を開けようとすると、鍵が閉まっていた。

「あ、鍵……しまったな。確認すべきだった」

「どうする? 戻るか?」

「戻っても、メームドーム先生を探しているうちに昼休憩潰れそうじゃない?」

「確かに。メームドーム先生が持っているとも限らないしな」

 メアは少し考え、レオゥの顔色を窺う。

「あの、さ。確か、メームドーム先生は自由に使っていいって言ってたよね」

「ああ。だけど入れなきゃ意味ないな」

 メアは倉庫の扉に手を当て、小声で囁いた。

「回解転々――【解錠(テュービャ)】」

 メアの魂魄が激しく脈動し、次の瞬間には扉からかちり、と硬質な音がした。メアがそっと取っ手を捻ると扉は抵抗なく開く。

 レオゥは何と言うか迷い、結局独り言のように呟いた。

「……古典魔術って便利だな」

「何の話? あ、開いたよ、扉。何かつっかえてたみたいだね。いやー、鍵が開いてて助かったなー」

「ああ、鍵がかかってたと思ったけど気のせいだったな」

「うん、気のせい気のせい」

 内心緊張しながらも、メアは何食わぬ顔で倉庫に入った。レオゥもその無表情をどこか呆れさせながらも、メアに続いて倉庫に入った。

 倉庫は一〇歩四方程の広さで、三方の壁際と中央に棚がある。天井は高いが、広さに反して収められている資材は少ない。精練された様々な種類の金属塊、何かの生命の角や牙が一つの棚を埋めている以外は、大小さまざまな木材と、結晶片の詰まった壺、使い古した工具が床に転がっている程度だった。床に転がされているものを棚に収めたとしても、棚がもう一つ分埋まるかどうかという程度で、倉庫というには幾分物足りなさを感じる。

 メアは木材に近づいて屈みこむ。木材を探してみると、小さなものは掌に握りこめる程度のものから、大きなものは一人で持ち上げることは難しそうなものまで、大小様々な物があるが、肝心な杖として手ごろな大きさの木材は見当たらない。大きい木材から削りだすにしても随分と無駄が出そうで、手を出すには気が引ける立派なものが多い。

 メアはがらがらと木材を漁り、ため息を吐いて立ち上がった。

 しかし、愚痴を言おうとしたメアにレオゥがやや早口で話しかけてくる。

「おい、メア。見てみろ。この牙。この前の巨大な竜種と同じくらいあるんじゃないか?」

 レオゥは自分の胴よりも太そうな牙を撫でて言う。興奮しているのかと顔を覗き込んでみたが、やはり無表情だった。

「楽しそうだね、レオゥ」

「そうか? あ、見ろ見ろ。この金属塊、重さと言い色と言い、翡燧鉱じゃないか? メアの剣の色に良く似てる」

「あ、確かに。けど俺の剣は少し黒ずんでるな。違うものかも」

「まあ剣は大抵鉄との合金だからな。錬金かもしらんが」

「あ、こっちの結晶! すっごい赤い! この前の授業で習った徴石じゃない? だとしたらこれ、この大きさでそれなりのお値段するってことだよね」

「流石に違うんじゃないか? 本物だったらそれ一粒で一〇〇〇〇〇ルティだぜ。酸燭石か仄喜石かも。安いらしいし」

「一ルティって何ボアトだっけ」

「一〇分の一ボアト」

「うげぇ。じゃ違うや」

 二人は当初の目的も忘れて倉庫中を探し回った。最初こそ物足りないと感じた倉庫だが、よく見れば色鮮やかな素材も多く、見ているだけで楽しい気分になってくる。また、授業で習った素材が見つかると、その度に知識が自分の物になってくる気がして、二人はますます宝さがしにのめりこんでいった。

 被っていた埃を拭うと虹色の輝きを放つ掌大の鱗。木材の山に埋まっていた非常に精緻な獣の彫刻。メアを丸のみにできそうな迫力を持った巨大な頭骨。上に載っている工具をどけたらふわふわと宙に浮かびだす金属塊。

 夢中になる二人は倉庫の入り口に人が立つのに気づかなかった。

「あれ? 鍵閉め忘れたっけ」

 二人ともぎくりと動きを止めた。悪さをしていたわけではないが、何分勝手に鍵を開けて入ったという負い目がある。声の主が怒っている気配はしないが、二人の背中に冷汗が流れた。

 扉を開けた赤髪の女生徒は倉庫内の二人にいる気付くと、つかつかと歩み寄った。

「あ、君たち一年生? ここ鍵かかってなかった?」

 メアとレオゥは一瞬で視線を交わし、意思を疎通した。

「いえ。鍵は開いてましたよ」

「入っては駄目でしたか?」

 女生徒はからからと笑った。

「んーん。朝出る時に閉めた気がしたからさ。で、何してんの? 何か作るの?」

 咎められることはなさそうだと安堵すると同時に、二人は当初の目的を思い出した。そして、それが全く達成されていないことも思い出す。

「杖を作りたくて木材を探しに来たんですが、あんまり良さそうなのがないんです」

「ああ、この時期はね、皆欲しがるから。君ら出遅れたな?」

「はい。杖ってのが良くわからなかったので」

 素直に頷いたメアに、女生徒は笑った。

「どんなん作る? 腕より長い? 短い? 結晶とかつけたい?」

 レオゥは自分の作ろうとしている杖について話した。しかし、女生徒が探しても杖に会う材料は余っていなかったようだった。メアとしてはレオゥのように大きなものではなくても良かったが、ここまで来たら一人で楽をする気はなかった。

 一通り倉庫内を見回った後、女生徒は額の汗を拭って言った。

「うーん、これは駄目そうだね。外から新しく取ってくるしかないよ」

「外ですか?」

「うん。あ、敷地内の木は勝手に切っちゃ駄目よ。景観委員にぶち怒られるからね。外ってのは、塀の外、敷地外のこと。外は森だし、近くに町はないから管理している人もいないし、自由に切っていいからさ」

 メアとしても勝手に伐採していいならば望むところだった。斧を使って木を切り倒したこともないわけではない。しかし、外に出ることは禁止されているはず。できそうにないことを言って期待をもたせようとする意地悪な上級生に、メアは文句を言いそうになるのをぐっとこらえた。

 しかし、不満そうな表情が出ていたのか、女生徒は意外そうな顔をした。

「あれ? ひょっとして知らない? 冒険隊のこと」

 メアは知らなかった。レオゥも知らないようだった。初耳だった。

「なんですか? それ」

「毎月の第二週の週末、森刃星に、キケ先生引率で冒険隊が組まれるの。それに参加すると敷地内から出ることが許可されて、冒険隊は結構自由行動できるから、そんときに材料とってくることができるんだ。一年生は少し制限されるかもしれないけど、でもでも杖の材料用意するくらいならできると思う。多分」

 メアは顔を輝かせた。

「詳しく聞かせてください!」


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