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ルゼンテーベ・ストルト  作者: 仁崎 真昼
一章 学校の始まり
18/240

018 運動場・組活動・飛球

 週の五日目、冥真星。翌日は休日。授業が始まって最初の週最後の日。

「今日の授業は、皆さん既に分かっている人も多いでしょうか、組活動となります」

 エフェズズがにこやかに宣言した。教室のざわめきは収まる気配がないが、気にせずに続ける。

「具体的に何を目的としているかと言うと、組の面々と友好を深めるための時間です。他の授業の補講のために使用されることもありますが、基本的にやることは担任の教師に一任されています。まあ授業と名のついた休憩時間ですね。午前中いっぱい使えるのは一年生の間のみなので、まあ目一杯遊びましょう」

 メアはレオゥと顔を合わせる。こんな授業あるんだ。あるみたいだな。二人は目で語り合う。

 すっとまっすぐに天井に向かって腕が伸びた。組代表であるシヌタが発言の許可を求め、エフェズズはそれを許可する。

「今日は何をするんですか?」

「皆さんに任せます」

 そうして教卓横の自分の席に座るエフェズズ。またか、という顔をしてシヌタは教卓の前に立った。

「じゃあ、相変わらずエフェズズ先生は生徒の自主性を重んじてくださるようなので、私が司会で進めようと思います。因みに、この司会役やりたい人います? はい、いないようなので私がやります。というわけで、皆さん何がしたいですか。何かやりたいことを思いついた人は挙手してください」

 花組の生徒は近くにいる生徒と顔を見合わせる。皆発言を迷っているようだった。いきなり自由と言われても、どの程度のことまでならしていいのか、加減がわからないのだ。

 そんな中、一人の生徒がすっと手を挙げる。

「自習」

 教室に沈黙が広がる。

 一番早く我に返ったのは司会をするシヌタだ。困惑の表情でエフェズズに問いかける。

「いや、それは……ありなんでしょうか。先生」

「皆さんでやるというならばそれはそれで」

「あ、全員でやらなければいけないんですね」

 それを聞いた瞬間、さっとフッサが手を挙げる。

「勉強は嫌でござ、嫌だ!」

 まだ始まったばかりというのに、もうフッサは勉強というものに苦手意識を持っているようだった。自習、という単語から微かに漂う勉強の気配に拒絶反応を示している。

「ですけど、他に意見が出ないようでしたらこれになりますよ。別の案を出しましょう。じゃないと決められない」

「じゃ、じゃあ運動場で体を動かすでござる。こう、模擬戦とか、どうでござるか!」

「はい。じゃあ、模擬戦と。他に何か意見ある人はいますか?」

「勉強は嫌――ぐぇっ」

 再び挙手し、必死の形相をするフッサを黙らせたのは後ろの席に座るアウェアだ。手段は、フッサの頭を叩くという原始的なもの。だが、効果は十二分にあった。

 続いて、おずおずと眼鏡をかけた女子、ニョロが手を挙げる。

「あの、あんまり運動はしたくないです。特に模擬戦とか怪我をしそうなことは、ちょっと嫌です。私は別に戦士とか魔導兵になりたいわけでもないですし。授業はまじめに受けますけど、それ以外では、武器格闘の授業以外では、あんまり」

「えぇー! いやいや、戦闘技術は――ぐぇっ」

「黙れ」

 再びアウェアは後頭部を叩く。ニョロはそんな二人を一顧だにもせず、シヌタに向かって言う。。

「なのでそうですね。自習と似ているかもしれませんが、図書塔での読書を提案します。みなさん、まだ一度見学しただけですよね。蔵書がどんなものなのか把握できていないでしょう。これから授業で必要な書物があるとき、それが図書塔にあるのかないのかというのを知っていた方がいいと思います。以上です」

 メアは一理あると思った。しかし、直後にニョロが図書委員であることを思い出し、もっともらしいことを言っているだけでただ図書塔に行きたいだけなのではと疑った。

 同じことを思った生徒がいたのか、茶色い耳を持つ獣人、ヒークが手を上げずに不満そうに言った。

「えー、それニョロが行きたいだけでしょ、やだよそんな退屈そうなの。普通にもっと勉強っぽいことしようよ。魔術の訓練とかさ。絶対そっちの方が面白い」

同感(どうい)だね。実戦に勝る(かつ)ものはない()

 ヒークの耳の間でばちばちと光が瞬く。力属性電魔術。ヒークは既にある程度現代魔術を習得している生徒のうちの一人だった。他の魔術が得意な生徒も何人か頷いている。

「自習、模擬戦、図書塔での読書、魔術の訓練……なるほど」

「あ、別に模擬戦じゃなくてもいいぜ、普通に運動するだけでも。飛球とか棒球とか、そういう球遊びでも良いし、外出て冒険するんでもいいし。とにかく勉強は勘弁。体動かしてないとなまっちゃうんだよね」

 肩を回しながらそう言うのはボワだった。メアはその言葉が意外だった。キケに大してあれだけの戦闘技術を見せたのだから、もっと修行僧のような戦士かと思っていたからだ。玉遊びなどしている暇はない、とでも言うのかと想像していたのだ。

 場が温まってきたの感じ、メアも挙手した。

「あの、外出るのは大丈夫なんでしょうか。基本的に学校の敷地内から出ることは禁止されてますよね。授業でなら外に出れたりとかは、しないですか?」

 メアは元々暇があれば近くの禁域、つまり局所的な未開拓領域で遊んでいただけあって、最近の生活に満足はしつつも、少しばかり緊張が足りないと考えていた。大丈夫なら冒険をしたい。そういう願望があった。

 エフェズズは少しばかり困ったように微笑んだ。

「組活動で、ということならば可能であるという答えを返します。しかし、事前に目的と計画を明確にしたうえで申請を出し、それが許可されたならば、という条件付きです。この近くの森にはそれなりに危険な生命がたくさん棲んでいますから、そうした冒険には戦闘技術の高い先生が同伴する必要があるわけですね。私は戦闘技術の高い先生というわけではないので許可が出せないんですよ。後、今回は侵入者の件もありますし。ね」

 はっと全員が思い出す。あまりにも学校の雰囲気が変わらないせいで気が緩んでいたが、今は非常時でもある。

 メアはテュヒカの様子を窺う。白い顔がいつもより白い気がする。同じように気遣っているらしいファンと目が合った。ファンもやはり心配そうな顔をしていた。

 少し重くなった空気を吹きとばすかのようにアウェアが挙手した。

「私は飛球がやりたい」

 その言葉には、花組の大多数の生徒がぎょっとした。アウェアが常に大斧を担いでいること。初日にエナシと小競り合いしていたこと。女性らしからぬ口調と紳士的な態度。武器格闘の授業でキケに吹き飛ばされ頬が倍に膨らんでも、全く気にせず鍛錬をするような彼女が、球遊びをしたいと言っている。その意外さはボワ以上だった。

「私は飛球をしたことがない。だから一度は経験しておきたいと思ってな」

「ええっ、したことない? 本当に?」

 教室がざわめく。

「アウェア北の人でしょ? したことないって」

「したことがない」

「別に十八人そろえてとか、そんなちゃんとしたのじゃなくてもいいんだよ。一回もしたことないなんて」

「ない。飛球用の球を見たことはあるが、触ったことはない」

「うっそだあ」

 メアも手を挙げる。

「俺もやったことないんだけど」

「俺も」

「私もー」

 他にも数人から同意が上がった。それを信じられない、と言った顔をするのは大体が北の人だった。特色が出ていて面白い、とメアは頷く。

 乱れる空気を纏めるようにレティが言う。

「じゃあ、せっかくだし遊ぼうよ。あれは大した準備もいらないし、緩く遊べるし。大人数用だよ。ね、先生、運動場って使っていいんですか?」

「ほかの授業で使ってなければ大丈夫です。一年生同士で被った場合は、早い者勝ちですかね」

「決まり!」

 勝手に事を進めるレティに司会を奪われたシヌタは口を開きかけるが、花組が纏まっていることを見て口を噤む。数名、主にエナシは嫌そうな顔をしていたが、特に発言をすることはなかった。

 決まれば早かった。飛球用の球を所持していた生徒が寮に取りに帰り、他数名が運動場の様子を見に行く。球も運動場も無事に確保でき、皆でぞろぞろ移動。

 整然と整列することもなく、緩い塊を作る花組に対し、ボワが説明を始めた。対象となるのは、一度もやったことのないメアたちだ。

「よっしゃ。じゃ、俺が代表して飛球の遊び方を説明するぞ」

 ボワが手にしているのは人の頭部と同じくらいの大きさの球だ。材質は木。しかし、木を削りだして球状にしたのではなく、木の皮を編み球状にした、内部が空洞のものだ。とても軽そうに見える。それが二つある。

 ボワはその球をぽんと上に投げた。

「まず、基本として掌で球に触れるのは禁止な。指も駄目。本来は掴むっていう動作を禁止していたんだけど、競技として広まるうちにわかりやすく規則が定められて、掌で振れること自体が禁止になった。あと、体の二点以上で同時に触れることも禁止。これも持つことへの対策のため。けど、それ以外なら何しても可。突いたり蹴ったり殴ったり」

 落ちてきた球を太ももや手の甲、肩や頭などを使って器用に操るボワ。跳ねる球が地面に落ちそうになると、爪先や踵がまた跳ね上げる。

「んで、地面につけるのも禁止。落としちゃった場合には最後に触った奴とは違う組の奴が手で拾い上げて再開。飛球だからな。落としちゃ駄目だ」

 頭に球を乗せて器用に静止。花組の一部の生徒から拍手が湧く。

「二組に分けて、それぞれの組が適当に陣地を書いて、相手の陣地に球を落としたら得点。試合時間を決めておいて、時間切れになったときに得点の多かった方の勝ち。単純だろ。質問あるか?」

 メアが挙手。

「魔術の使用は?」

「人と球を傷付けない限り、可。だが、力属性魔術、特に火や電はそこの判定が難しいから使わない方がいい。というか使っても利点ないしな」

「だよな」

 何人かが頷く。雰囲気として、禁止はされていないがあまり推奨もされていない。そんな空気感をメアは感じ取った。

 アウェアが挙手。

「身体接触はどこまで許容される? 体当たりとかの話だな」

 ボワは親指を立てた。

「基本はなし。掌打蹴り体当たり全部禁止。尻相撲くらいなら大丈夫だが、それにかこつけて女子にすけべなことはしないように。な、フッサ」

「ししししないでござるよ」

 視線が泳ぐ。女子の視線は冷たい。

 首を傾げるメアに対し、レオゥの補足説明が入った。

「フッサは一度女子寮を覗きに行ってな。アウェアに叩きのめされたらしいんだ」

「なるほど。それでずっとあんな感じの扱いなのか」

 弁明しようと近づくたびに女子に避けられるフッサを見て、メアは単純に可愛そうだと思った。しかし、手抜きの結晶、という諺もある。報いにはそれなりの理由がある、という意味だ。それを踏まえ、メアはああならないように気を付けようと思った。

「んじゃ、組み分け。飛球得意な奴、挙手」

 ボワが得意だという面々を適当に割振り、その後男女が均等になるように初心者組を分けた。審判を買って出たファンを覗いて、十二対十二の飛球がはじまる。

「最初の一打は組代表として私シヌタにやらせていただきます。――【風蹄】!」

 ごう、と上昇気流にも似た突風がシヌタの周囲で発生し、球が空高く舞い上がった。

「試合開始だ!」

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