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雨の音

作者: かななる

 シトシト、ザーザー、ピチャピチャ。雨の音は(わずら)わしく耳につく。降っているぞと主張する。


 灰が折り重なる曇天の幕の下。学校からの帰り道、少女は俯いて歩いていた。今日は学校で嫌なことがあった。少し粗相をし、教師にこっ酷く怒られたのだ。


 雨音が(うるさ)く、少女に絡みつく。


 少女は雨が嫌いだった。こんな日は歩くのも億劫になる。その上、今日は傘を忘れてしまった。びしょ濡れになった頭は自然と沈む。


「はぁ……」


 大きなため息を吐いた。その音は、すぐに雨に貫かれ、消えた。


 視界には沢山の水たまりが広がっている。水面の波紋は絶え間ない。雫に打たれるたびにポチャンポチャンと音を鳴らす。


 水たまりの合間、アスファルトに落ちた粒はポタポタと、また違う音だ。


 車が通る。水たまりを蹂躙(じゅうりん)して走る。バシャンバシャンと派手な音だ。


 周囲の家の屋根が打たれると、パラパラと軽い音を。トタン屋根だと更に軽く。


 様々な音が混ざり合って、音楽を奏でる。だが、天が生み出したその大合奏は、気持ちの沈んだ少女には自分を嘲笑う声のように聞こえる。


「はぁ……」


 またもや、大きなため息を吐いた。だが、今回は消え去る前に誰かに届いた。


「そんなにため息吐かないでよ……お姉ちゃん」


 顔を上げると、傘をさした少女が佇んでいた。妹であった。


「お姉ちゃん、傘忘れたでしょ、びしょ濡れじゃん。届けに……ってあれ?私もお姉ちゃんの傘忘れてきちゃった……」


 頬を掻いて、妹ははにかんで笑った。


「お姉ちゃん、一緒に入ろ」


「うん」


 姉妹で一つの傘に入り、帰路に着く。


「お姉ちゃん、学校でなんかあった?あんなに大きなため息吐いて……」


「うん、少しやらかしちゃってね……」


 水に濡れない傘の下。そこでも雨の音ははっきりと聞こえる。だが、そんな小さな空間に二人きり。それがなんだか安心した。


 学校での出来事を話して、妹の話も聞いて、他愛もなく会話を重ねて歩く。その惰性的にも思われる行動が、少女の心を少しづつ晴らしていった。


 家に到着するころ、雨は止んでいた。もちろん、あの耳障りな音も。


「ただいま」


 扉を開け中に入ると、二人が口を揃えて言った。扉の隙間には、大きな虹が広がっていた。


 雨の時には、音がする。


 だが、晴れた時には、音がしない。


 それでも確かに晴れている。


 雨の後には虹が出る。


 そこに音がしなくても。

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