表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

800文字ショートショート

オシャレは首元から

作者: 一色 良薬

 黒革のソファーに浅く腰掛け、トバリは乾いた喉を己の唾で潤す。そのまま舌先で下唇を舐め、微かに震える息を口端から漏らした。両膝の上で固く握られた拳の内側が滑る不愉快な汗で満ちていく。

 目の前に座る人物はトバリと対照的に異常なほど落ち着いていた。

 目深に被ぶられた帽子から覗く、虚ろな目を持つ女をおずおずと観察する。

 艶やかな黒髪が短く切り揃えられ、服装は神経質さが目立つほどに僅かなシワもない。桜の花弁に近い血色の唇が、質素な部屋の中で華やかさを持たせていた。

「そんなに固くならないで下さい。折角の晴れ舞台です。お力添えになれるようにこちらも善処致します。神様も貴方の姿を見届けられると思いますよ」

「……はぁ」

 晴れ舞台などと言われても微塵も嬉しくはない。トバリは女と自分の間に置かれた、神棚へゆるりと眼を動かした。

 祀られた神はこんな人間など見届けたくないだろう。逃げ出したに違いない神へ、形だけ縋るように手を合わせた。

 そしてローテーブルに並べられた品々にやっとトバリは視線を落とした。数分後に登る舞台で必要な道具が規則正しく並べられている。

 年季の入った藁の縄。羊毛で織られたネクタイ。プレゼント付属されるサテン生地のリボン。どれも見覚えがあり、トバリの身体を嫌というほど震わせた。

「五百五番の最後の儀式ですから、こちらで馴染み深い品をご用意致しました。こちらは貴方が同僚を絞め殺した時に使用した縄。こちらは実父を絞め殺した時に使用したネクタイ。こちらは恋人を絞め殺した時に使用したリボンです。……お間違いないですね」

 言葉にならないうめき声で返事をするトバリを他所に、女は淡々と説明していく。無表情には合わない、明るく穏やかな声が教誨室に響き渡った。

「どうぞお選び下さい。最後の旅立ちに首元を華やかにする装飾品です。償いきれない罪を私が結んであげましょう。そして晴れやかに奈落へ繋がる底に逝ってらっしゃいませ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ