ぬるい缶コーヒーの代わりに
息を吐けば、辺りが真っ白に染まるこの頃。
コートの制服にマフラーと手袋までした「完全装備」な防寒をしている女子高生が自販機とにらめっこしていた。
「寒いんだけど〜温かい飲み物が飲みたいな」
独り言を呟いていると隣から、
「相変わらず寒がりだな」
と聞き慣れている声が聞こえたので彼女はびっくりした。
「ちょっ……びっくりさせないでよ」
「びっくりしたのはこっちだ。飲み物を買おうとしたらお前がいたから」
そう冷たく言う彼は薄着だった。
それを羨ましげに彼女は見つめながら、
「私まだ決められないからさきにどうぞ」
と譲る。
彼は、小さく頭を下げると迷わずに「温かい」とかかれている缶コーヒーを購入した。
「……それにしたんだ」
「何か問題でもある?お前もこれにすれば」
「え」
思わず彼女はそう呟いていた。
実は、彼が買ったその缶コーヒーとゆずレモンで迷っていたのだ。
彼が缶コーヒーを買ってしまったので何となく同じのを買うのは気が引ける、と思っていたら「これにすれば」と言われてしまった。
「べ、別に……私は同じの買わないし。ゆずレモンにするわ」
「本当はこれが買いたかったんだ」
「違う! もう決めてた!」
「え、決められないからって言ってただろ。これとゆずレモンで悩んでたってことだろ?」
「……ソウデスケド」
目の前で缶コーヒーを見せながら意地悪に微笑む彼を見て彼女は認めるしか無かった。
「買えば」
「……っ、買いますから!」
結局、彼と同じ缶コーヒーを買うことにした。
そこでふと思う。
別に彼のことはただの腐れ縁としか見てないのになぜ同じ缶コーヒーを買うだけでドキドキするんだろうか──と。
そんな考えをぶんぶんと首を振って捨てると缶コーヒーに口をつけた。
「ぬるっ」
思わずそう言ってしまった。自動販売機の不調か、少しぬるかった。
そこへ、サッと差し出される開けられた缶コーヒー。
「……え」
「俺のめっちゃ熱いぞ。飲めば」
澄ました顔で渡してくる彼。
もう口をつけたのか、少し量が減ってる。
一瞬、フリーズした彼女は。
「はあああああ!?」
と叫んだ。
そして、彼女の顔に赤みが帯びる。
「何の罰ゲームよ?」
「え、本気なんだけど。いいよ、飲んで」
「な、何が本気なの……!?」
彼は、わざとなのかわざとじゃないのか小さく笑っていた。