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ドキドキ!?魔王城大文化祭  作者: グラニュー糖*
4/4

ドキドキ!?魔王城大文化祭4

「外だ〜〜!!」


 鍵を使って外に出ると、恋しかった太陽の光がオレを照らした。


「お、泣いて出てこなかったな」


 入口にもたれながらアイザーがニヤニヤしている。


「大変だったんだぞ!」

「まぁまぁ。あ、アスターが走っていったんだけど、何かあったのか?」

「え?アスターが?」

「あぁ。それに調整した時間より1分長かったんだけど……」

「そ、それは……」


 中であったこと、アイザーは知らないんだ。


「まぁいいや、ここで待っていれば戻ってくるはずだ。仲の良い他のメンバーは、みんなここにいるからな」

「うん……」


 しばらく待っているとアスターが息を切らして戻ってきた。


「あれ!?バルディ、囚われたんじゃなかったのか!?」

「え?……あ、あぁ……もう大丈夫だよ。シャレットが頑張ってくれたんだ」

「そっか……。怪我はしてないか?」

「うん。シャレットはちょっとだけ怪我しちゃったけど……。もうそろそろ出てくると思うよ」

「あぁ……良かった…………」


 アスターはへなへなと座り込んだ。本気で心配してくれていたんだろう。でもなんでわかったんだろう?


「横にいたオッサンが怪しくて、何かされていないかって心配だったんだ。変な気配を感じたからさ。本当に大丈夫か?」

「大丈夫だって!アスター、走り回ってくれてありがとう」


 ニコッと笑う。

 アスターは顔をそむけてクールに取り繕ったが、いつものように耳と尻尾は嬉しそうに揺れていた。


「2人とも!」

「ミゲル!」


 入口からミゲルが出てきた。お化け屋敷の服のままだ。


「あれ?アスター、副隊長は?」

「そういえば見なかったんだよな。休憩中なのかな……」

「おーい!ミゲル!!」

「あ、噂をすれば」


 みんなで声がした方を見る。

 カリビアはものすごく焦っていた。人目を気にせず、メイド服のまま猛ダッシュしていたのだ。


「医務室だ!医務室に来い!」

「ど、どうしたの!?」

「お前の妹が、大変なんだ!!」

「え……!?」


 急いで医務室に向かう。一番心配なのはミゲルのはずなのに、少しでも同じ時間を過ごしたオレは最悪な結果を頭に思い浮かべてしまい、不安で吐きそうになった。


 ──ガラガラッ!


「…………やぁ、キミたちか。早かったね」


 勢いよく開いた扉の音に反応し、振り向いたのはマリフさんだった。平静を装っているようだが、どこか我慢しているようだった。


「妹は?」

「………………」


 マリフさんは無言でベッドから離れる。

 ベッドの上には、苦しそうな妹さんの姿があった。


「おに……ちゃ……」

「大丈夫。お兄ちゃんはここだよ」


 ミゲルはしゃがんで妹さんの手を握る。


「いつもの発作だ。今日は無理しすぎちゃったんだね」

「ごめんなさい……」

「たくさん楽しんだんでしょ。悲しい気持ちになって、楽しい思い出を上書きするのは間違っているよ。だから、楽しんでやった!って胸を張ればいいんだよ」

「うん……」


 ミゲルは妹さんの頭を撫でる。


「あのね、夢の中でメイド服の男の人がいたの……」

「そっか」

「………………っ」


 隣でカリビアが顔を赤くする。


「それでね、お兄ちゃんは魔法使いみたいな服を着てて……」

「うん」


 ミゲルが側にいて安心したのか、だんだん眠そうになっていく妹さん。

 朦朧とする意識と、夢を勘違いしているのだろうか?


「………………」

「……。行こう」


 ミゲルは立ち上がり、こっちを見た。


「もういいの?」

「うん。あとは眠れば治るはずだよ。マリフさん、ここに運ぶのを優先してくれてありがとうございます」

「いつものことだろう?身構えていたからね」

「僕がもっとしっかりしていれば良かったんですけど……」


 ミゲルは悲しそうな顔をする。


「ミゲル、それはフリかい?さっきキミが言ったことを今度はボクが言ったほうがいいかい?」

「え……」


 マリフさんは腕を組んでミゲルを見下ろす。


「こんな楽しい日の思い出を、そんな後悔で塗り潰すのかい?」

「そ、それは……」

「カリビア、アスター、バルディ」

「「「はっ、はい!」」」


 マリフさんはミゲルの方を見ながらオレたちに話を振った。


「今すぐミゲルを連れて、祭りを回りな。ミゲルのその辛気臭い顔が無くなるまで、戻ってくるんじゃない」

「で、でも……」

「この娘はボクが看る。なに、頼りないお兄ちゃんより、同じ女の方が安心するだろう?」


 正論を言われ、何も答えられなくなった。


「……わかりました。行くぞ、みんな」


 カリビアは扉に向かう。アスターも続き、ミゲルも部屋を出ていった。


「お前もだよ」

「…………マリフさん」

「ん?」


 マリフさんの頭に乗せているゴーグルが反射して輝く。


「魔除け……というか、幽霊除けみたいなの、作れますか?」

「……できなくもないけど。あまり意味は無いと思うがね」

「そうですか……。ありがとうございます」


 オレは頭を下げる。そして部屋を出ていこうとした。


「バルディ」

「はい?」


 振り返る。

 マリフさんは斜め下の床を見ながら口を開いた。


「ドラゴンソウルはボクでも治すことはできない。当然マジックアイテムでもだ。この娘の不治の病のように、魂にこびりつくような……ね」

「…………」

「キミは『ただの悪魔』だ。強くもなく、弱くもない。一番難しいんだよ、そういうのが」

「何が言いたいんですか?」

「この先、キミがボクを頼ることはないだろう。断言……いや、予言してあげるよ。むしろ、キミはボクに殺意を抱くだろう……。今ではない、いつか……ね」


 マリフさんはそのまま近くの椅子に座り、ミゲルの妹さんの看病に戻った。

 彼女が何を言いたかったのかは正直わからない。でも、もしオレが忘れたとしても、マリフさんが覚えているか、運命に委ねるか。結果が同じなら、こんな予言、捨ててやる!


「……忠告ありがとうございます。では」


 拳を握り、外に出た。


「何話してたの?」

「他愛もないことだよ。それで……どこ行く?」

「グドーとシャレットを迎えに行こう。朝からずっとお化け役をしてたから、お腹空いてると思うし」


 率先してミゲルが歩いていく。

 オレとカリビアとアスターは顔を見合わせた。


 みんなも思っているのだろう。「一番つらいのはミゲルなのに」って。「本当に強い人なんだな」って。

 オレならわんわん泣き喚いて、周りに迷惑をかけるかもしれないのに、ミゲルは我慢している。オレも、こんな風になりたい。


「……おっ、どこ行ってたんだよ?」


 グドーはお化け屋敷の出口にもたれかかり、シャレットはまだ疲れが抜けきっていないのかその場に座り込んでいた。


「ちょっとね。2人とも、行きたいところとかある?」

「はいはいっ!オレりんご飴行きたい!」

「ご飯系のあとにしようね。グドーは?」


 グドーはオレのチラシを流し読みしている。


「……わたあめフロート……?なんだこりゃ」

「確か飲み物の上に綿菓子が乗っているものじゃなかったかな。行ってみる?」

「オレも喉乾いた!行こうぜ、グドー!」

「あっ!ちょ、引っ張るな!」


 ズルズルと引きずられていくグドーに、皆が苦笑する。ミゲルの顔には少しだけ笑顔が戻った。


「シャレットってば、酔ってる?」

「あ、あはは……」


 あの戦いのあと、少量だがぶどう酒を飲んでいたなんて口が裂けても言えない。


「そうだ、バルディ」

「ん?」

「中で何があったの?」

「………………」


 ミゲルとアスターが心配そうな顔をする。


「1人で出てくるのはおかしいからな〜」


 と、アイザー。

 ここまで人がいるもの、隠しきれないよね……。


「…………。実はね、」


 おじさんが幽霊だったこと、取り憑かれたこと、ブニブニグニュグニュのこと、たくさんの幽霊たちのこと、そしてシャレットと戦ったこと(もちろんぶどう酒のことはナイショ)……。全部を話した。


「あぁ、それでか」

「アスター?」

「途中で消えたって話があってな。消えたあとは、その『障子だらけの異空間』に閉じ込められたんだな」

「うん。そうなると思う」

「しっかし、アイツが幽霊だったとはなぁ……」


 カリビアが腕を組んで呟く。

 一番のファンがまさか敵だったとは誰も思わなかっただろう。


「あんなに隊長たちがいたのに、誰も気づかなかったのも変だよね」

「それは力不足だってことはわかってる。しかし、本性を露わにしないと幽霊だということはわからないからなぁ……」

「魔界の外のことに詳しかったのは、幽霊だったからってこと?」

「その可能性は大いにある。幽霊や妖怪は、その命が死んだ、もしくはこちらに封じられたということだからな。何か大きなショックがない限り、記憶は全て失われていない。だから誰を呪う、誰を、何をどうすべきかを理解しているんだ。知識のぶんだけ、手強いんだよ」

「へぇ……」


 難しいけど、一応覚えておこう。


「さ、休み時間だろう?幽霊騒ぎもあったことだし、もう少し延長されるはずだ。楽しんでこい」

「副隊長は来ないのですか?」

「安全確認をしないといけないからな。なに、すぐに追いつくさ」

「わかりました。行こう、2人とも!」

「「うん」」


 オレはミゲルの後ろを歩く。

 オレたちの姿が見えなくなったあと、カリビアはお化け屋敷と向かい合っていた。


「……限定的、しかも割り込み結界か……」

「カリビア。ウチもついていくよ」

「アイザー……。フ、断りたいところだが、付き合ってくれるか」

「もちろん!行こう!」


 __________


 _____


「あっっっま!!なにこれ!」

「おーい!シャレット!」

「お!やっと来たか!」


 シャレットはストローが刺さったドリンクを片手にこちらを向く。それは、青いドリンクの上にモコモコした綿菓子が乗った、わたあめフロートだった。


「どうも」


 グドーは受け取っている最中だった。


「グドーは何の味にしたの?」

「ん?いちご味」


 いちご味!?とビックリしていると、シャレットがずい、とこっちに差し出した。


「飲んでみろよ」

「これは?」

「えっと……ブルーハワイ?ってやつ。青くて面白いだろ!何事もチャレンジだぞ!」


 あまりにもニコニコと笑うので気圧され、一口飲んでみる。甘い!!


「ははは!甘いだろ!なんせ、綿菓子を溶かしたからな。さらに甘いぞ」


 ブルーハワイに似た色をした瞳の持ち主が豪快に笑う。

 一方、グドーは飲み方がよくわからないのかチラチラとシャレットを見ていた。


「どうしたんだ?」

「えっ!?いや、何でもないぞ」


 そう笑って引っこ抜いたストローで綿菓子を突き刺し、全てをドリンクに混ぜる。じわぁと綿菓子が消え、ドリンクの中には謎の渦のようなものが発生していた。


「お、おい……やりすぎだぞ」

「甘っ!?」

「全部入れたら当たり前だろー!」


 ケラケラと笑うシャレット。

 それでも飲み続けるグドー。


 やっぱり平和だなぁ。


「見てよ!このグルグルの揚げ物!」


 アスターの姿が見当たらないと思っていたら、長い串にグルグルしたポテトが巻き付いているものを人数分買ってきていた。


「はい、1本ずつ取ってくれよな」

「これ、あとで見に行こうと思ってたんだ!サンキュー!」

「これは……なんだ?」

「あれ?グドー、知らない?」

「ジャンクフードってのだろ」

「それはまとめて言ったものだよ!いいから食べてみて」


 わいわいと騒ぐ3人を見て、オレはミゲルの方を見た。


「どうしたの?」

「グドーって、何年もここにいるんでしょ?なのに食べたことなかったんだ?」

「うん。いつも妹を優先にしてくれてたからね。僕は知っての通りみんなと同じ班じゃないから店番があったんだけど、みんなの班は問題を起こしたら大変だってお店を出させてもらえなかったんだ。だからグドーも暇してたみたいで。妹を連れ出してくれたときも、アスターやシャレットは満喫してたみたいだけどグドーは遠慮してたんだって」

「そうだったんだ……」


 グドーもいろいろ考えてたんだ。


「だから、ああやってみんなと同じものを食べるグドーが珍しいんだ。今年からは王様だからちゃんとしなきゃって言ってさらにギチギチになるかと思ってたけど、その逆で安心したよ」


 ミゲルはまた笑顔になる。

 ミゲルの心配事がほぐれていってるようで、安心した。ミゲルはみんなのことをよく見てて、心配してるんだ。……オレの心配事も、あるのかな。むしろ、オレのせいで倍になっていたりするかもしれない。


「……ごめんね、ミゲル」

「ん?」

「オレ、ミゲルに迷惑かけてないか心配で……」

「…………。もう友達でしょ。そう言うなら、心配じゃなくて一緒に考えようよ。頼ってほしいな」

「うん」

「ほら、ミゲル、バルディも!」


 アスターがさっきの長いのを渡してきたので受け取る。その時、アスターが他にも色々買ってきていたのに気づいた。自分のぶんだろう。いつもたくさん食べるからね。


「ありがとう」

「一番元気を出さなくちゃいけない2人が、こんなに後ろにいるなんておかしいだろ!ほらほら!」


 ぐいぐいと背中を押される。オレとミゲルはグドーたちの隣に来た。


「シャレット、その傷大丈夫なのか?」

「へへ、実はちょっと痛い……」

「ああっ!雑菌が入ったらどうするの!しゃがんで、シャレット!」

「おおっ!?も、持って、これ」

「仕方ないな」


 ミゲルはポテトを横向きにして咥え、シャレットの首に治癒魔法をかけた。

 オレがやったのに、シャレットは怒ってないし、誰も責めてこない。……あの『悪友』といたときは、責任の押し付け合いだったのに……。


「ん、治ったよ」

「サンキューな!やっぱ持つべきは友!ってな!」

「あはは、言いすぎだよ」

「次はあっち行ってみねーか?」

「うん」


 シャレットとミゲルは移動を始める。オレとグドーとアスターはその後ろを歩き始めた。


「グドーのメイク、すごいね」


 オレはおそらく全身紫の肌になったグドーを見る。ご丁寧に耳の形まで変わっている。あの時は焦りすぎて『ヤバいのが迫ってきている』としか思えなかったけど、かなりグドーに合っているメイクだ。


「ん?これはいつもの変化を解除しただけだぞ?」

「えっ?」

「見せたことなかったっけ。『あっち』では、この姿が本当の俺だ」

「え……」


 頭からつま先まで見ていく。


「ええーー!?」

「ちょ、叫ぶなって」

「ご、ごめん」

「いいよ。良い反応が見られて満足だ」


 ニヤニヤと笑う。もしかしてシャレットも……。


「あ、姿が違うのは俺だけだぞ」

「そ、そうなんだ」

「…………。うん、ちゃんと抜けているようだな」


 グドーは一度止まり、オレの肩に手を置いた。


「何が?」

「何って、幽霊がだよ。あの時はたまたま『追いついたら手を置く』って決まりだったから置いただけだが、まさかもう1つの魔力の流れを感じるとは思ってなかったからな」

「じゃあ……」

「おっと、お前に幽霊が取り憑いていることはもう知っていたぞ。怪しいって報告が来ていたからな」

「でもあの人と行くようにって言ったのはカリビアだよ?」


 あのスライディング土下座でマリアナ海溝のときだ。


「……化かされたんだろうな。精神的介入もあったんだろう。きっとダブルパンチで落ち込んでるだろう。あとで励ましてやらねーとな」

「ダブルパンチって……そういえばグドーもあの『メイドカフェ』に行ったんだよね?」

「ブフッ!?」


 飲んでいたわたあめフロートを吹き出しそうになっている。


「だ、大丈夫!?」

「あぁ……。それより、なんで知ってるんだよ」

「だってみんな行ったことあるみたいな言い方してたから……」

「あは!バルディも行ったんだな〜」


 シャレットが後ろ向きに歩いて話す。


「シャレット!危ないって!」

「だ〜いじょ〜ぶだって!」

「いたっ!」


 シャレットが誰かにぶつかり、驚いて前を向く。そこには、オレと同じくらいの男の子がいた。先行していたシャレットとアスターは立ち止まる。


「あっ!ごめん!」

「…………大丈夫……」


 その子は赤い目をして、黒とグレーの服を着ている。その手にはオレンジ色のカボチャカップケーキがあった。どこかのお店で売っていたのを見たことがある。

 次に目についたのは黒い髪だった。黒髪の悪魔は珍しい。


「………………」


 彼は無言で去っていった。


「あの子、どっかで見たことがあるな……」

「毎年来てるんじゃないの?」

「そうか?……そうか」

「そうだよ!次、どこに行く?」

「そうだな……」


 考えていると、視界の端にカリビアの姿を捉えた。すぐさま彼に居場所を伝える。


「おーい!カリビア!」


 彼は「おっ」という顔をしてこちらに近づく。やっぱりメイド服のままだ。


「楽しんでいるようだな」

「おかげさまでね!」

「お化け屋敷内の異空間はオレたちが排除した。もう大丈夫だぞ」

「異空間って……あの障子の?」

「あぁ。あんな量の幽霊なんて、どこから漏れたんだろうな……。ま、過ぎたことは考えないようにしよう。今は、羽を伸ばすとしますかね……!」


 カリビアは伸びをする。その口の中に、すかさずシャレットはストローを突っ込んだ!


「あ!?」

「飲んでみて」

「ん…………甘ッ」

「疲れた体に糖分が一番〜♪なんてな!」


 シャレットが前を向いて歩き出す。

 ……と、周りが騒がしいことに気がついた。


「あの人たち、お化け屋敷の……」

「わ、みんなイケメンじゃない」

「仲良しなのかな」

「あれ、メイドカフェの『カリビアたん』じゃない?」

「小さな子もいっぱいいる!」


 お化け屋敷にメイドカフェ。オレたちのことだ。


「オレだけ名前割れてるんだが……」

「まぁまぁ。あのメイドカフェはここに来る人たちが必ず1度は通る道だし?」

「それに俺たち4班は初めての出店らしいからな。注目されてたんだろうよ」

「こんなにお客さんが来てくれるなんて……」


 チラシを配っていたときはみんな冷たい目をしていたが、こうやって盛り上がっているところを見るととても嬉しくなってくる。


「バルディが頑張ってくれたおかげだな!」

「えへへ」


 カリビアはオレの肩に腕を回す。ちょっと背伸びしてるの、知ってるんだぞ!


「今日は楽しかったか?」

「うん。もっと早く魔王城に来ればよかった」

「はは!この先、何度でも何度でも機会は来るはずだ。そのためには、オレたち魔王軍が頑張らなきゃいけない……。みんなの命を守って、その笑顔を見て。明日から頑張るぞって決意を固めるのも、オレたちの仕事だ」

「あー、副隊長!カッコつけちゃって〜」

「と、当然のことを言っただけだ!そんなこと、微塵も意識していない!」

「はいはい。いつも聞いてることだ。よくわかっていますよっと!」


 シャレットがからかい、カリビアが怒る。ミゲルがヒヤヒヤしているのを、アスターはクールに構えているフリをして見る。グドーが呆れながらも、何かが起こらないようにと目を光らせる。


 これがいつものオレたち。

 最初から、何1つ変わらない。


 ──パシャッ!


「ん?何の音だ?」

「みなさーん!」


 小さな女の子の声と、弾けるような音。

 ライルだ。ライルが何かを手に、駆け寄ってきた。


「ライル嬢!」

「走ったら危ないぞ〜」

「だいじょうぶです、カリビアさん、シャレットさん!」


 カリビアより頭2つぶんくらい小さなライル。ニコニコしている彼女の手には、カメラがあった。


「何してたんだ?」

「しゃしんです!こういうときしか、たくさんのひとたちをみることができないので……。なので、しゃしんにのこすことにしたんです」

「さっすが!オレにはそんなこと、考えられないぜ」

「シャレットのところにもカメラくらいあったんじゃないの?」

「持ち運べるサイズじゃねーんだよっ」

「ホントに〜?」


 シャレットの方を見て目を細めていると、グドーが口を開けた。ずっと飲んでいたのか、若干疲れ気味ではあるが。


「それは本当だ。台の上に乗せたりしないと重くて撮ることができないんだ」

「しかも何分もかかるし……。その間動くなっていうのもなー。拷問だぜ拷問。全くよぉ」

「ならこっちから新しいカメラを持ってって、広めればいいのに」

「技術が足んないのさ、技術が。病気にかかれば即死!だったからな」

「それは……脆すぎるのでは?」

「う、うるせー!疫病とか何だのいっぱいあって、その度たくさんの人間が死んでんの!悪魔と同じものさしで考えてもらっちゃ困るぞ!」

「そ、それは……ごめん」


 シャレットの怒り具合を見て、すっかり萎れてしまった。


「こら、こんな時にまで喧嘩をするんじゃない!ライル嬢の前だし、祭りなんだぞ!」

「「……ごめんなさい」」


 カリビアの一喝でオレとシャレットはとりあえず仲直りをした。1分後にはシャレットの頭の中から『言い争いをした』ということは消えるのだが。


「すいません、ライル嬢」

「いいんですよ。みなさんがおげんきなのは、わたしもうれしいことなのですから」


 ニコッ!と笑う。何度も言うが、まるで太陽のようだ。全てを許してくれるなんて、心が広すぎやしないか。


「ありがとうございます。次にお会いする時までにはもっと躾けておきます」

「ふふふ、たのしみにしています!」

「では……」


 カリビアが頭を下げて、みんなも下げる。オレもつられて下げた。それから別れようと向きを変えて進もうとする。


「ま、まって!……ください」

「おおっ!?」


 カリビアのスカートを掴む。カリビアは驚いてグラついた。


「おしゃしん!いいですか?」

「もちろん、良いですよ。……良いよな?みんな」


 オレたちは当然だというように首を縦に振る。


「ありがとうございます!では、いどうしましょう!そうですね……じょうへきのうえの、みはりだいのとなりなんてどうでしょう?」


 彼女が言っているのは、魔王城の周りをグルッと囲む城壁の端っこにある、隠し扉の奥にある石でできた螺旋階段を上り、そのさらに上には見張り台があるのだが、そこまでは行かずに右手に進むと城壁の上に行くことができる。そこのことだ。ちなみにオレは行ったことがない。


「危ないですが、わかりました。行くぞ、みんな」

「城壁の上かぁ!デカいよな!」

「風で吹き飛ばされんなよ」

「大丈夫だよ。帽子、ちゃんと押さえてるから」

「装備が軽くて助かった」


 それぞれ話しながら上っていく。ライル嬢は急な階段だということでグドーにお姫様だっこされていた。本物のお姫様が、魔王にだっこされている……。なんて光景だ。


「わぁ!高ーい!!」


 やっと上までたどり着いた!

 緊急用なので鍵は付いておらず、そのまま扉を開けることができた。オレは駆け寄り、その光景に思わず声が出た。


 魔王城の周りはほとんど何もなく、平原が続いている。しかしこれほど何もなければ、敵襲などはわかりやすそうだ。もっとも、敵は幽霊とかなんだけど……。


「こらこら。あまり近づくと落ちるぞ」

「大丈夫!羽あるもん」


 オレには立派な立派なドラゴンの翼がある。オレの身長と大差ない大きさなので、落ちても大丈夫だ。一番心配なのはシャレットなのだが。


「ひ、ひえ……!手すりとかねぇのかよ!」

「俺の手でも握ってろ」

「両手!!」

「はいはい」


 シャレットも大丈夫そうだ。


 ……多分。


「バルディはこのくらいの高さ、いつも飛んでたんじゃないの?」

「そうだけど、みんなでいるからいつもと違うもん!」

「ふふ、そう言ってくれて嬉しいな」


 ミゲルは帽子を押さえて笑った。

 ここはちょっと風が強い。シャレットとミゲルのためにも、早く戻らなきゃ。


「く、くれぐれも尻尾、踏むなよ……?!」

「ならこっちこっち!端っこの方がいいよ」

「僕もマントがあるから端っこにするね」


 ……と、奥からアスター、シャレット、オレ、カリビア、グドー、ミゲルの順で前後に分かれて並んだ。


「ならんだようですね!では、とりますねー!」


 ライルは当たり前かのように宙に浮いている。さすが魔王の娘。魔力量は凄いし、使い方も熟知している。


「へへーん、いえーい」

「怖いんじゃなかったのかよ」


 いい笑顔でピースするシャレットに、さっきまで怖がっていたのは誰だよとグドーが呆れた。


「まだ握ってるもーん!それに、落ちたら助けてくれるだろ?」

「当たり前だ」

「……こうやってみんなで仲良く並ぶの、夢だったんだ。嬉しくてニヤけちまうぜ」

「もう顔に出てるぞ」

「嘘っ!?」

「グドーさん、シャレットさん!とりますよ!」

「「あっ、ごめんっ!」」


 ライルの声に、静かになる2人。

 地味に怖がっているのと、このメイド姿ができるだけ写らないようにと工夫するカリビアを、グドーは引き寄せた。


「とりまーす!さん、にー、いちっ!」


 ──パシャッ!



 __________


 _____


『こんなに楽しくて、みんなが笑顔になれる毎日が続くといいな。と、常々思っております。


 ミゲル』


 5枚目の手紙を読み終え、丁寧に、折り目1つつかぬよう封筒に入れ直す。

 蝋燭の火が揺れ動き、私の視線もそちらに移った。


 1枚目は、バルディという者(子供の文字)だった。初めて書いたのか、消し跡が目立っていた。しかし、努力は凄まじいもののように思えた。文字のわりに文章はしっかりしていたので、おそらく誰かに手伝ってもらったのだろう。


 2枚目は、アスターという者(少し荒々しい文字)だった。読めなくはないが、ところどころ文章がおかしなところがあった。『こちら』にも、読み書きが不安な種族がいるので彼らに似た種族なのだろう。紙の端が、何かで切れたような鋭い切れ目があった。


 3枚目はカリビアという者(堅苦しい文章)だった。どうやら他の者の教官の立ち位置のようだ。この名前はマリフという者から度々聞いていた名前で、どんな人物かはほとんどわかっていたが、この手紙を読んでさらにどのような人物かを理解した。彼になら任せても良いでしょう。


 4枚目は……私でもわかる。シャレットだ。シャレットという名は私にも伝わっている。あの忌々しい勇者……。なぜぼっちゃまと共に行動しているかは不明。しかし私への手紙を苦手ながらも書いてくれたということで読んでみると、彼もなかなか葛藤していたようだ。ですが闇討ちしなかっただけ、評価してあげましょう。


 今読んだ5枚目はとても丁寧に書かれていた。彼……ミゲルはなんとぼっちゃまの最初の友達なのだとか。さらに文章も字も上手。いつか城に招待してやりたいほどだった。彼には愛する妹がいるようで、不治の病に侵されているらしい。治す薬をプレゼントしたいのだが、残念ながらこちらにも特効薬となるものは無い……。本当に悔しいとはこのことなのですね。


「……グドーぼっちゃまは、とても楽しんでいるようですのぅ」


 次の封筒も丁寧に開く。


 紅茶を用意し、月を見ながらぼっちゃまのご友人の手紙を読む。これほど贅沢な時間は存在しません。ぼっちゃまの成長こそが我が生き甲斐であり、私にとってもとても幸福なこと。ぼっちゃまの一番の願いである『友達が欲しい』は無事に叶ったようですね。あぁ、じいやは……じいやは、感動の涙が止まりませぬ!


『拝啓、じいやへ』


「……おや」


 これはグドーぼっちゃまのものだ。


『もうみんなの手紙は読んだかな。それとも、これが1枚目かな。

 今回、じいやに手紙をよこしたのは、いつも手を貸してくれるじいやのために手紙で感謝の気持ちを伝えたいからだ。


 俺も、じいやには感謝してる。ここまで育ててくれて、ありがとう。


 ……恥ずかしいけど、帰ったらもう1回礼を言わせてほしい。


 俺は楽しくやってる。毎日共に上を目指す仲間がいる。時に優しく、時に厳しく指導してくれる副隊長もいる。危なっかしいけど、必ず磨き上げなきゃいけない原石だっている。


 だから、帰るのはもう少し遅くなりそうだ。でも帰るときはできるだけみんなも連れてこようと思っている。そっちだったら、幽霊や妖怪なんていう危険なものはいないし、安全に暮らせると思うから。


 もっと立派な魔王になれるよう、勉強してくる。その時まで待っていてくれ、じいや。


 グドー




 P.S.

 マリフさんは最近体の調子が良くないらしく、能力が勝手に発動してしまうときがあるらしい。治す方法がどこかにないか、探してほしい。痛みを伴って目から血を流す彼女を、放ってはおけない……。』


「グドーぼっちゃま……。立派になられましたな……。傍若無人で誰も寄せ付けなかったあなたが、ここまで人のことを心配するなんて……」


 ハンカチーフで涙を拭う。


「この手紙たちは大切に保管しておきましょう」


 封筒を手に取ると、中にもう1枚何かが入っていることに気がついた。取り出して見てみると、どうやら写真のようだった。


 獣の特徴を持つ、赤い少年。

 少し恥ずかしそうにしながらも、優しい眼差しを向ける青い少年。

 恥ずかしいのか、逃げ腰になっている茶髪の少年。

 そしてそんな彼をカメラに写るように支えるぼっちゃま。

 良い笑顔をするくすんだ金髪の青年。

 何かを見て嬉しそうな顔をする軍服姿の少年。しかし、その彼に似合わない鱗の手を見て、とても悲しくなった。こんな子供にも、このような病気のようなものがあるなんて。これが噂に聞く『ドラゴンソウル』。微力ではありますが、彼に幸福が訪れますように。


「この幸せな写真は額縁に飾っておきましょう。そうです、もしものために複製もしておきましょう」


 私は窓の外をチラ、と見る。

 永遠の夜を繰り返す街。

 魔族による魔族のための闇の街。


 もし、勇者が戻ってきてここを攻める時が来れば……額縁のガラスは砕け散ることになるでしょう。




 完

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