表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドキドキ!?魔王城大文化祭  作者: グラニュー糖*
3/4

ドキドキ!?魔王城大文化祭3

「ふ〜〜」


 とてもスッキリして戻ってきたあと。あの人はお手洗いの外で待っていた。


「おかえり」

「うん。ただいま」


 シャレットより背が低いけど、アスターやミゲルよりかはまだ上だ。これくらいが普通なのだろう。


「バルディくんの部屋はどこなんだい?」

「んー……ナイショ!」

「え〜ツレないなぁ」


 カリビアの部屋も同じだから知られるわけにはいかない。


「お化け屋敷は……っと」

「この向こうだよ」

「いつもあそこなの?」

「いや、あそこはいつも展示だったかな。なんでも、4班の人たちがみんな問題児ばかりだから接客をさせるのには危険すぎるとか何とか……。今年も展示の予定だったけど、急にお化け屋敷に変更されたから場所が取れなかったみたいだよ」

「あはっ……あはは……そうなんだぁ……へぇ〜」


 絶対グドーたちのことだ。絶対そうだ。


「さぁ、着いたよ」


 部屋の前には少しだけ長い列ができていた。2列に分かれている。確かに2人1組のようだ。


「もう少し待とうね」

「うん」


 1組、また1組入って、出て行く。

 みんなの反応を見る限り、なんか……怖がって出てくるのと、嬉しそうな顔をして出てくるので分かれてるんだけど、一体どういうこと?


「んー、次…………あ、バルディ。待ってたぞ」

「ア、アイザー!?なんでここに!?」


「なぜここにいるのか」とは、彼は隊長、副隊長クラスなのでメイドカフェにいるべきだし、アイザーはトランプで騒ぐグドーたちを部屋から追い出すほど、人付き合いと騒音が苦手なのになぜ人付き合いの塊である『受付』なんかにいるのだろうかということだ。


「なんでって、そりゃ4班だからな」

「いやいや、そうじゃなくて」

「手紙は書けたか?」

「書けたけど……」

「なら良し。2人ちょうどだな、入れ」


 パパッと手際良くエントリーを済まされる。


「アイザ〜〜!」

「…………ハァ。嫌だったんだよ。カリビアがウチ以外にチヤホヤされるのを見るの」

「えぇ……そんなことで?」

「そんなことじゃない!だから毎年フラフラしてたのに、急にお化け屋敷やるだなんて言い出すから……」


 ブツブツ言い始めたので、オレは適当に切り上げようとした。


「わ、わかったから!行きましょう!ね!」

「ん、頑張れよ〜」


 アイザーの応援を背に、黒い布で塞がれた部屋の中に入る。入口には作り物の蜘蛛の巣や、色を間違えたのかカボチャのような何かの絵が吊り下げてあった。

 おじさんはカリビアの名前を聞いてアイザーの方を見たが、『カリビアたん』のファンではないと知るやいなや前を見た。


「……真っ暗だね」

「ちょっと怖いかも……」

「ちゃんと腕を掴んでいてね」

「うん……」


 少し進むと、体が急に動かなくなった。それはもう一人も同じようだった。


 これは……金縛り!?やっぱりホンモノ、いる!?


 そう思っていた矢先だった。


 ──パン!パンパンパンッ!!


 急にライトがついた。いや、ライトがつくのはおかしいが、どこからか点灯したのだ。少し、いやかなり眩しい。


「Ladies and Gentlemen!!」

「この声は!」


 少し離れた場所にはちょっとした台があった。その上には……。


「えへへ、やっと来たね♪」

「ミゲルだ!」


 まるでマジシャンのような服を着ておめかししたミゲルが、マントを翻しながらウインクをした。頭には大きな帽子があり、下手すればすっぽりハマってしまうかもしれない。


「お友達?」

「うん!!」

「これから、このお化け屋敷の説明をするね。バルディとお兄さんには、この先の扉を抜けたらあるいくつかの試練を超えて、ゴールを目指してもらうよ。途中には怖〜いお化けたちが立ち塞がっているけど、頑張って切り抜けてね!もし限界が来たり、怪我をしたときは誰でもいいから呼んでね。もちろん僕でもいいし、外のアイザーさんでもいいからね」

「あ、あのっ!」

「何ですか?」

「カリビアたんは……」

「カリビアたん……ああっ、あのメイドカフェのアイドルだね!ちょっとわかんないかな……!でももしかすると来るかもしれないよ!」


 さすがミゲル。話術がすごい。


「ミゲル、その服……」

「良いでしょ?グドーの部下さんのうち、1人のお下がりらしいからかなり魔力があって大変だったんだよ」

「へぇ……!」

「さぁ!おしゃべりはここまで!行け!勇気ある者たちよ!闇を払い、光へと進むのだ!」


 そう叫んだ瞬間、ミゲルの姿は消え、ライトも消え、その代わりにオレの手の上にはポン!と黒い木箱がテレポートされた。


「わっ」

「あの子、悪魔なのに面白いね」

「たまに悪魔らしからぬことを言うんだよ」

「そうなんだ。ならあり得そうだね」

「おじさんもなかなか悪魔らしからぬことを言ってるけど……。マリアナ海溝とか」

「マリアナ海溝は人間界にあるものなんだよ」

「へぇ〜」


 また1つ賢くなった。

 グドーに知ってるか聞いてみよ。


 扉を開いてキチンと閉じる。これはシャレットに学んだことだ。


 開けた扉はキチンと閉めること!

 そうすると、危険を察知した魔族の動きを少しだけ遅延することができる!その隙に仕留めるんだ!……だってさ。


「あ、目の前に看板があるよ」

「なんでこんなとこに……。…………んん?」

「読めないかい?これは……『魔物注意』……?」


 看板の漢字を口に出して読んだ、その時だった。


「グルルルルル……」

「まっ、魔物!?」

「いやっ、この声は……ひゃっ?!」


 生暖かい風、そして血生臭い匂いが充満している。扉1枚でこんなに違うはずがない。ミゲルの光も見えないし、さっきはオレたちだったから長かっただけで、次の人は短いはずだし、もう説明に入っているはずなのに全く声がしない。もしかして、これもグドーの世界の技術なのだろうか?その、『世界に闇を固定する』、グドーの世界の最もポピュラーな魔法ってやつ……。


 いやいや、理由がわかったところで、目の前の問題は全く解決していない。おそらく唸り声を上げているのはアスターだ。しかし、ミゲルは『試練』と言っていたし、もしかするとマジックアイテムや何かの影響で相手が誰だかわかっていない、『この空間という鎖に繋がれた危険な魔物』というものになっているのかもしれない。た、大変だ……!


「しっかり掴まってて!」

「う、うう……」

「グルルルルル……」


 ガサガサッ……ガサガサッ……。とまるで周囲に本当に草が生えていて、その中を走り回っているかのような音が聞こえる。まさかとは思うがグドーの世界の技術とミゲルの魔法という最も出会ってはいけないものが合体した結果なのではないかと疑うまで出てきた。


「グアアッ!」

「痛っ!?」

「大丈夫っ!?」


 おじさんにぶつかったのか、体が大きく揺れる。アスターが攻撃したのだろう。


「大丈夫だけど……。やっぱりこの班は問題児が多いようだね。客に怪我させるなんて」

「ミゲル、呼ぶ?」

「いいや。ここを切り抜けない限り、呼ばないよ。どうやら小柄な魔物のようだ。大人を甘く見ると、どうなるか教えてやる……!」

「おお……燃えてる……」


 あのスライディング土下座は何だったのか。あの時とは打って変わって、強く出ている。アスターがピンチになったらアスターにちょっと手を貸してあげよう……。


「グルルルルル……」

「まずここの試練は何なんだろ?」


 さっきの看板の元に向かう。さっきのはただ『魔物注意』って書いてあっただけだったから、試練のことではないはずだ。


 ……下に小さく書いてあった。ちゃんとひらがなだ。魔法の文字ってことは、ミゲルがちゃんと見ていてくれて、オレが読めないのを思い出してひらがなにしてくれたのだろう。


「……『魔物が護る秘宝を奪え。それが鍵となる』……。珠をはめ込むのかな」

「秘宝?って、あれのことかな?」


 正面の足元に落ちている、光り輝く赤い珠。きっとあれのことだ。アスターだから赤いのかな。わかんないや。


「でも、アスターより向こうにあるよ!」

「あの子も友達なのかい?」

「うん!いつも戦い方を教えてくれるんだ」

「なら話が早い」

「え?」

「それならあの子の動きをよく観察すれば、いつもの動きに見えてくるはずだ」

「いつもの……。あっ!」


 急いでおじさんの顔を見る。おじさんは優しくうなずいた。


「よーく観察して……」


 ガサガサと動き回るのは、恐怖を煽るため。それを頭から消して……。動きを考える。


 いつもの、左右に大きく動くやり方と、同じ!


「今だっ!!」


 バーッ!と走り抜ける。

 いつもよりスピードは上がっているみたいだけど、この強さは見たことある!初日の模擬戦だ!あの時に見せたものと、ほぼ一緒!

 暗示か何かで能力は上がっているみたいだけど、やはりアスターはアスターだ。おそらく、これはオレに向けた[[rb:試練>テスト]]……。オレが成長できているかのチェックなのかもしれない。


「グアアッ!」

「グッ!」


 鋭い爪と鋭い爪が、まるで剣のように弾き合う。圧倒的にアスターが有利なのはわかっているけど、今はそうじゃない!目的は、違うところにある!


「えいっ!!」


 足元にあるものを後ろ側に蹴り飛ばす。


「お願い!」

「任された!」

「グルルルルル!」

「させないよっ!」


 転がっていったものをキャッチし、次の扉にある台に載せる。ちょうど窪みがあり、台が少し沈んだと同時に扉が開いた。


 ──ギィ。


 小さな音が鳴る。


「やった!」

「……よくやったな」

「アスター!」


 正気を取り戻したのか、元から正気だったのかはわからないが、アスターが手を下ろしながら話しかけてきた。


「正直ここまでとは思ってなかった。明日からのメニューを考え直さないとな」

「えへへ……火事場の馬鹿力だよ」

「それを本番で発揮されたらタイマンで耐えることができるかわからない……。俺たちも成長しないとな」

「お手柔らかにお願いします……」

「おーい」

「あっ、呼んでる」

「行ってこい」

「またあとでね!」


 オレはタタタッと駆け寄る。その背中を見て、アスターは小さく呟いた。


「…………あの男は……」


 __________


 _____



 次の部屋には、奥へズラリと並ぶ障子があった。木の床は全て真っ黒で、天井に等間隔にある電球は真っ白だった。障子周辺が青いことで不思議な不気味さを醸し出していた。


「やっぱり部屋の中の大きさが変わってる……。いつも使えばいいのに」

「お祭りのためにみんな張り切ってるんだね」

「そっか!ならいいや」


 一歩進んでみる。


 ──ぐにっ。


「?」


 もう一歩。


 ──ぐにゅ。


「は、はひゃっ!?」

「重い重い」


 腕を掴んで、足が床に触れないようにおじさんの足に絡みつく。全体重をかけている。


「ごめんなさいっ!でも、気持ち悪い!」

「どれどれ?」


 オレが離れたあと、おじさんも一歩踏み出してみた。納得したような顔をしている。


「ど、どう?」

「あはは、これは『バルーンハウス』みたいなものだね」

「ばるー……?」


 聞き慣れない言葉に首を傾げる。


「ボヨンボヨンしているのがそうだよ。慣れないと難しいかもね」

「へー」


 おじさんの服をガッシリと掴みながら足をつけてみる。


「うぅ……。………………おお」


 両足をつけることができた。これなら歩けそうだ。


「ようし、進むぞ!」


 何度も前に倒れそうになるが、必死にバランスをとって前へ進んでいった。


 __________


「…………バルディは次のところに行った?」

「行ったよ」


 バルディが見知らぬ人と一緒に次の部屋に進んだと聞き、僕はアスターのところに顔を出した。ちょうどバルディの前で10分間の休憩が入るところだったが、『バルディ』だということで延長することになった。


「なぁ、ミゲル、アスター」

「あれ、どうしたの?」


 4班のおばけ役の1人が話しかけてきた。白い布に身を包んでいる。


「アスターのとこの鍵が開いたって反応が出たから待機したのに、姿が見えないんだけど」

「ええっ!?そんな事はないはずだよ!だって、この空間は僕とグドーとマリフさんとじいやさんとで作った最高傑作の試作品だよ?!」

「最高傑作の試作品……」

「アスターは黙ってて!」


 空間と空間の間の接合はバッチリのはずだ。なのに、なぜ?


「それはわかってるんだけど、どうも変なんだよ。入ってきたのに姿が見えないというか、姿が消えたというか」

「姿が消えた?」

「あぁ。アスターのとこの次は俺のとこのはずだろ?なのにいないんだよ。っかしいなぁ〜」


 彼は首を傾げながら持ち場に戻った。


 何かおかしい。いつもと違うのは、あの人の存在だ。


 ……もし、あの人が何やっていたのだとすれば……。


「……アスターは副隊長のところに行ってきて。お化け屋敷は一時休止。人命が一番大事だ」

「わかった」


 アスターは『人狼』をモチーフとした服のまま、入口から出ていった。僕は魔法を確認しなくては!


「…………僕が、1人にしたから……」


 僕の手は、震えていた。


 __________


 _____


「よいしょ、よいしょ……」


 足にまとわりつくブルンブルンしたものに苦戦しながらも、4ぶんの1くらい進むことができた。その途中でも障子の向こうで「ゔぁあ〜」とか「ゔぅ〜」とかいう声が聞こえるし、変な影も見えるがそれどころじゃない。きっとこれは、沼に遠征に行ったときに帰ってくることができるかどうかのテストなんだ。そう言い聞かせていた。


「なんかっ、どんどんっ、深くなってないっ!?」


 最初と比べ、どんどん深くなっている。最初は足の裏だけブルンブルンだったのに、今じゃスネにも当たっている。


「つ、疲れた……」


 少し休憩しておじさんに助けを求める。


 ……が。


「……あれ?おじさんは?」


 あの人は隣にいなかった。


「バルディくん」


 まるでこのどす黒い『沼』から聞こえてくるような声が頭の中に響く。


「おじさんっ、オレ、疲れちゃって……」

「そうかい。なら……」

「!」


 突然おじさんが隣に現れた。

 悪魔だもん、そういうことはするよねと思ったが、どうやら違ったようだ。安心したのは一瞬だけ。オレは背筋が凍った。


 おじさんがいるところは、本来障子がある場所だ。つまり、おじさんは障子を貫通していることになる。


「え、えっ」

地獄(ここ)で一緒に暮らそうよぉ〜…………!」


 ゴポゴポゴポ!と音を立てながら、皮膚が溶けていく。髪もズルッと抜け落ち、みるみるうちにその顔は髑髏へと変化していった。


「い、あ……ぎゃあああああああっ!?!?!?」


 強い腐敗臭に、鼻が曲がりそうになりながらも必死にブルンブルンを進んでいく。

 元おじさんはカタカタと音を鳴らしながら、たまにグチャッと水音を鳴らしながらオレを追いかけてきた。さっきのテレポートをしないところを見るに、あいつは手を抜いているのだろう。なんて奴だ!オレを騙していたなんて!


 オレは恐怖より怒りが勝り、ドラゴンソウルの手で障子を壊し、持てる最大の大きさの障子を両手で持って上からバシバシと叩いた。が、全く効き目は無いようだ。


「効いてない!?」


 オレはさらに焦る。と、ここで気づいた。


 オレ、飛べるじゃん!!


「えいっ!」


 翼を広げ、飛び上がる。ブルンブルンの圧が強かったが、力技でなんとかした。


「さよなら、おじさん!楽しかったよ!」


 グングンと進んでいく。

 その間、もっと恐ろしいことが後ろで進んでいた……。


「ゔゔ〜……」

「あ゛あ゛〜……」

「……?やけに声が大きいなぁ」


 振り返ってみると……。


「うげっ!?」


 たくさんの『幽霊』や『妖怪』が、さっき取り払った障子から出てきていた!


「な、なんでこうなるのー!!ミゲルっ、助けてー!!」


 叫んでも、幽霊たちの恨み言にかき消されるどころか、闇に吸い込まれるように声が消えていく。当然ミゲルはやってこない。


「ぐすっ、やだっ……なんで……」


 この数は圧倒的に不利だ。おそらく魔王軍のみんなもこんな量を相手にしたことはないだろう。


「ミゲルぅ……アスタぁ……」


 口元がガタガタと震える。

 涙を拭い、前を見る。


 このまま扉を開けば、もしかすると隣の部屋になだれ込んでしまうかもしれない。そうなると、みんなに迷惑をかける。むしろみんな殺されてしまって、魔界が崩壊してしまう……!?


 ダメだ!それだけは避けなくては!


「ううう……!」


 それでもスピードを上げる。

 最悪、ドラゴンソウルを発動させて、吹き飛ばす!


 一回振り返って、見てみる。

 まだ追いかけてくる!

 でも、もう扉だ!


「開けぇえええっ!」


 ──バコッ!!


 ヤバい音を出しながら開く扉。開いたのだからいいじゃないか!


「ゔゔ〜……」

「あ゛あ゛〜……」


 見えない壁があるのか、幽霊たちが出口に向かって押し寄せる。その数は増えていき、押し潰される者も出てきた。


 置いていかないでくれ。

 見捨てないでくれ。


 そう訴えるかのように、口が裂けそうになりながら叫び、オレの目を見つめてくる。


「……ごめん……」


 オレは肩を落とし、次の試練へと向かった。



 目の前には横長の棚がある。その上には、いくつもの日本人形(怪しげな人形)が並んでいた。

 看板には『正しき順に並べろ。さすれば道は開かれん』という後半にはどこかで見覚えのあるような文章が書かれていた。


「わぁ、お人形だ。落としたら呪われそう……」


 黒い毛の間から覗く細い目がこちらを恨めしそうに見ているような気がして、思わず振り返ってしまう。当然誰もいない。


「………………」


 どうしよう、全然わかんない。


 赤い服、青い服、黄色い服。どれがどこなのかわからない。とりあえず適当に置いてみようかな。きっといつか正解を当てるはず!ちょっとセコいけど、こうするしかない!


「まずは青と黄色を変えてみよっかな」


 トン、と置く。


 ……無反応だ。どうやらハズレのようだ。


「うう……。黄色、赤、青……」


 ……無音。これもハズレ。


 この部屋がまるで世界から切り離されたかのように無音なので、さらに不安になる。

 魔界のお化け屋敷といえど、これはやりすぎだ。試練の内容は軍の行動を元にしているのが多いようだし、2人1組というのも軍で動くときは2人1組だということを元にしているので『お手軽魔王軍体験』って感じなのだろう。でも……やりすぎだって!


「んー……これかな?」


 残り2回を残して試すのは『青』、『赤』、『黄色』だ。


 ──ガチャッ。


「やった!」


 なぜ正解だったのかはわからないが、どうやら当たりだったようだ。


「早く次に行こう!」

「…………ゔぅ……」

「ひゃう?!」


 後ろから誰かのうめき声がする。オレはビックリして心臓が飛び出そうになった。


「ど、どなたですか……?」


 まさかさっきの幽霊が襲ってきたんじゃ……。


「カエ……シテ……」

「ひいいっ!?」

「人形……カエ……シテ……」

「はっ、はいぃ!!お返ししますっ!!」


 置いた人形を全部掴み、後ろに向けて突き出した。


 そこには……。


「ぎゃああああああっ!!!?」


 真っ白で、大きな物体が!!


「……ソウ、コレガ………………って、バルディ?」

「ひぃいっ!助けてっ、助けて…………」


 オレは頭を抱えてうずくまる。

 目の前にいるのは同じ班の人なのだが、オレはパニックになって理解ができていない。彼は少し笑ったあと、優しく話しかけてくれた。


「大丈夫。大丈夫だよ。俺だ。ほら、顔を見て」

「うぅ……うぅ……。…………あれ……」

「落ち着いたかな。よしよし、怖かったな。ごめんな、やりすぎちゃったか」

「うぅ……」


 白い布にダイブするように体重をかけて、落ち着くように専念する。


 ……しばらく経って、ちゃんと立てるまでになった。


「……こんなに時間かけて……ごめん」

「大丈夫だよ。ここはちょっと特殊で、どれほど時間をかけても、外からは1部屋大体1分ずつ過ぎているように感じるんだ。だから、無理せずに落ち着いてくれ」

「わかった……。でももう大丈夫だよ。ありがと」


 オレは立ち上がった。


「そうだ、この人形の謎、わかったか?お前くらいだぞ、全部試していったのは」

「いや……あはは……」


 はぁ、とため息をつき、トントンと置いていく。その間オレはさっきの部屋が気になってその方向をチラチラと見ていたが、ここの特徴として入口が見えなくなっており、あの幽霊たちの姿は見えなくなっていた。見えない方が不安なんだけど……。


「これはすべて魔法を意味しているんだ。『赤』は『ほのお』、『青』は『みず』、『黄色』は『かみなり』だ。左から、文字数に並べると……答えだ」

「でもグドーの雷は黒だよ?」

「それはあいつが変なだけだ。普通は黄色だぞ。ほら、ライルお嬢様も黄色だろ?」

「うん……」


 だからわからなかったって……言い訳になるかな?


「わかったな?ほら、次に行きなよ。正しいところに置いたら開くんだから、このまま移動させるわけにはいかないし」

「うん。ありがと!」

「頑張れよ〜」


 オレは扉を開いて次の部屋に入る。

 ……全員とお話ししてる気がする……。まぁいっか。


「ここは……」


 見渡す限り、オレ、オレ、オレ!

 これは……鏡だ!

 紺色っぽい縁に、金色の装飾が施されている。1枚1枚が高そうだ。これもじいやさんが持ってきたのかな。


「えっと、看板は……『Labyrinth of Mirrors』……鏡の……迷宮ってことかな?そのままだ……」


 とにかく迷路をクリアしよう。


 足元に注意して、鏡に頭をぶつけないように慎重に進む。たまに突き指しない程度に前に手を出しながら進む。手首を上下に動かして、当たらないかを確認する。


 こうやって、ゴールまでスムーズに行けたらいいなと思っていた。


 でも、違っていた。


「…………ん?」


 奥の方に、誰かの気配を感じる。

 もう、やめてくれ……。


「き、気のせい……だよね!うん、そうに違いない!そうに、違いない!!」


 言い聞かせるように首を縦に振るが、前を見るたびその姿は目に入る。あ、あはは……だってさっきのところは越えられなかったし、おばけなはずないよ……。


「………………」


 チラ、と振り返る。


 さっきより近づいてる気がした。

『それ』は左右にユラユラとしており、ずっとうつむいていた。


「ひっ……」


 早くここから抜け出さなきゃ。

 迷路なんだし、さっきも出口から出てきていた人もいたんだから必ずゴールはあるはずだ。とんでもなく大ボリュームのお化け屋敷、1人でもゴールしてやる!


 ──ゴンッ。


「…………痛っ!」


 ──ガンッ!


「〜〜〜!!」


 焦りからなのか、急ごうとすると頭や腕をぶつけるようになった。

 後ろから迫りくる脅威に、そちらへの意識が薄らいでいる証拠だ。


 オレを取り囲む鏡には、当然自分の姿が映る。そのうち、1枚にだけオレの背後にある鏡にはその謎の姿が映し出されていた。向きを変えても、必ず真後ろ。超常的なものだろうとはすぐにわかった。


「…………血……を……」

「ひいっ!?」


 喋った!?


「その血、その肉……うまそうだ……」

「ひゃああああ!?」


 さっきからもずっとブツブツ言っていたのだろう。でも、聞こえるようになったということは、それだけ近くにいるということ。さっきのホンモノのこともあり、どれがホンモノか、どれがニセモノかわからなくなっていた。


「はやくっ、出なきゃっ」


 足がもつれ、うまく歩けない。

 近づくにつれ、その姿はハッキリ見えてきた。

 黒い上下の服に、見るからに血色の悪い紫の肌。額には何か細長い紙がついてあった。


 ゆっくり、また一歩。

 大きな影は、その体を大きく揺らしながら、時にガクン!と硬直しながらこちらへと向かってきていた。


「げっ!?」


 行き止まり!?戻らないと……!


 そう思って振り向いた時だった。


「…………捕まえた」


 肩に手を置かれ、耳元で聞こえた声にオレは全身の毛が逆立ったような感覚に襲われた。


 そうか。後ろに回るんだったら一番近い鏡に入るということで、『目の前』が『真後ろ』になるんだ。だから、それは真後ろに来れるんだ。


 ……当然、そんな考えはオレの中に生まれることはなく。


「ぎゃーーーー!?!?…………あうう」

「あっ!?嘘、マジかっ」


 オレは叫んだあと、前に倒れてしまった。


「…………起きるまで待っておくか」


 彼もその場に座り込み、オレの頭を膝に乗せた。


「……この気配……お前、まさか……」

「…………ぅ、うぅ……」

「お、早いな」


 わりとすぐに目が覚めると、彼の顔が見えた。

 血色の悪い、紫の肌。

 目の下の黒いアイライン。

 尖った耳。

 額についている細長い紙。

 闇夜に輝きそうなオレンジ色の瞳。


 オレは固まった。


「俺だよ、俺!グドーだって」

「グドー…………」


 なんだ、と胸をなでおろす。


「様子がおかしいから観察するためにゆっくり来たんだけど……。その様子じゃお前、幽霊に取り憑かれてるだろ」

「取り憑かれて……?でも、逃げ切ったのに……」

「逃げ切った?」

「うん……」


 結界を越えられないのはもう見た。だから幽霊や妖怪からは逃げ切ったはずだ。


 でも……よく考えてみると、あの結界に阻まれたなかに、おじさんの姿は確認できていない。


「やっぱりな。ここから出たらお祓いをして、お前を苦しめる幽霊をメッタメタにしてやる。もう1つだけだから我慢してくれ」

「うん……」


 疲れよりもおじさんに裏切られたことのショックが大きく、うわの空の反応しかできなかった。


「よし、結構な返事だ。立てるか?」

「頑張る」


 グドーの手を借りて立ち上がった。

 体はまだしも、心はもうグチャグチャだ。まさかこんなことになるとは思わなかったけど、いざとなればみんながいてくれるし、オレは信じることにした。


「大丈夫。ちゃんと見ていてやる」

「うん」


 オレは脅威のなくなった迷宮をゆっくり確実に進んでいく。振り返ると、グドーがちゃんと見てくれていた。


「……出た!」


 ゴール!と書かれた看板がある。

 俺はその方向に向かい、次の扉に手をかけた。


 ……ここで体に異変が起こる。


「っ、ぐぅう……!」


 グドーと完全に別れたあとなので、助けは来ないのはわかっている。でも……苦しい。熱い。寒い。視界がフラフラだ。


「……負け、るかぁッ!」


 気合いでなんとか扉を開く。

 ザアッ……と空気が変わった。

 今度はどうやら教会のようだ。パイプオルガンの音が響いている。


「………………」


 椅子が並ぶ部屋の中心で、大きく太い本を面白くなさそうに読んでいる男がいる。


 ストレートな金髪が片目を隠している。

 誰がどう見てもシャレットだった。服と髪型が違う以外、だが。


「シャレット!」

「ようやく来たか」


 シャレットはいつもと違ってちゃんと服を着ているからか、雰囲気がまるで違った。


 神父のような服に身を包んだシャレット。本を閉じて椅子に向かって放り投げる。彼は薄く笑い、こちらに近づいた。


「グドーから聞いたぜ。取り憑かれてるんだってな」

「………………」


 一歩進めば、一歩下がる。

 シャレットは不思議そうな顔をしてもう一歩進んだ。オレも下がる。


「……。荒療治になるぞ」


 シャレットが走り出し、オレはあっという間に組み伏せられる。


「は、なせ……!……!?」


 オレの口から変な声が出て、思わず口を閉じる。


「フン、出たな。早すぎるんじゃねぇの?」

「うるさい、黙れ小童……!」


 オレの声と重なって、低い声がする。オレは必死に首を横に振りながらポロポロと涙を流した。


「そんな口を叩いていられるのも今のうちだぜ!」


 シャレットは近くに用意していた袋を逆さまにした。塩や御札、鏡や何かの像がドサドサと落ちてきた。


「……ハ?」

「全部試して、除霊してやる!我慢しろよ、バルディ!」


 そう言って塩をぶちまけられた!

 わかってない!この人、わかってないよ!!

 それからも手当たり次第の物を叩きつけられる。


「ぐっ!」

「はんっ、効いてるのか?小童とか言っていたのに、お前が弱いんじゃねぇの?」

「言わせておけば……!」


 シャレットを睨んだ途端、ジュウウ……と札は焼き切れ、聖水は乾いていった。


「こいつ、まだそんな力を……!」


 シャレットは狼狽えて少しだけ起き上がる。だが、決心したようにポケットから銀色の物を取り出した。


「ゔっ!?」


 体が燃え上がるように、熱くなる!


「やっぱこれだな。『十字架』ってヤツか」


 シャレットはいたずらっ子のようにニヤリと笑う。ミゲルのSっ気が感染ったのか、それとも元々で隠していただけなのか、ハイになっているだけなのかはわからない。


 頭はひどく冷静だ。多分身体が動かせない代わり、脳が処理しやすくなっているのだろう。


 ふと、身体が動くようになった。


 だが……!


「熱い!熱いよ!近づけないで!」

「バルディ!?」

「油断したな!」


 オレの手が勝手に動き、シャレットの首を掴む。あろうことか、ドラゴンソウルの手で掴んだので爪が食い込み、ただでさえ脆い人間であるシャレットは苦しそうな声を上げた。皮膚と爪の間に、赤いものが滲む。


「っ、ぐぅ……!」


 そのまま横に転がり、オレがシャレットに馬乗りになる。

 オレの顔の半分は皮膚が透けたようになり、骸骨のような『幽霊の顔』が露わになる。


『形勢逆転、だな』

「おまえ、は……なぜ……こんなことを……!」


 体は動かせないし、声も自由に出せない。なのに視界だけは鮮明に、苦しむシャレットを映し出す。


『これから死ぬんだ、知る意味もないだろう』

「ゲホッ!……このぉっ!生きてる人間を、ナメんなアアッッ!!!」


 シャレットは手に持った十字架を、勢いよくオレの体に押し付けた!


『ア゛ア゛……ア゛ア゛ア゛アアアアッ!!!』


 表面はなんともないのに、体の奥が熱い!熱くて、息が浅くなってきた…………。


「うおおおおおおおおっ!!!」


 シャレットは見たことない必死な顔をしている。

 力を入れすぎて身体が前に反っている。そのぶん、首にかかる負担は大きくなるのに。なんで、そこまで……。


『恨めしい……恨めしい!なぜ我々は排除されねばならぬ!呪ってやる……貴様ら『悪魔』を、呪ってやるウウウウ!!』

「ゲホッ……あいにくオレは『人間』でな……!」


 一瞬、体の制御を取り戻す。

 オレは急いでシャレットの首から手を引き離した。


「シャレット!トドメ!」

『ヤメロ……ヤメロォ!!』

「テメェは……やりすぎた!!」


 シャレットはもう一度十字架を突きつける!

 背中から何かが引っ張られるような感じがして、怖くなってシャレットの服を握る。

 シャレットは微笑んでオレのドラゴンソウルじゃない方を握った。


『ア゛アアアアアアア!!!』


 …………。


 …………………………。


 静寂が訪れる。その場にはパイプオルガンの音だけが鳴り続けていた。


「…………大丈夫か」


 シャレットは床に大の字になって呟く。

 オレはそんなシャレットの上にうつ伏せになって動けずにいた。立つための力が入らないからだ。


「……うん。ありがとう」


 オレは広がったシャレットのくすんだ金髪を力なく見つめる。


「当然のことをしただけだ。……あーあ、ここでは普通の神父のフリをして、近づいてきたところでモンスターを従えて驚かせるって作戦だったのに、こっちの方が怖いじゃねぇか」

「なんか……ごめんね」

「いい。これで安心して文化祭が続けられるから」

「……シャレット……」


 肩を震わせる。

 もし、こんなに強い人がいなかったらオレは……オレは……。


「泣かないでくれ。泣きたいのはこっちなんだ」

「シャレットも怖かったの?」

「そりゃな。幽霊とタイマン張るなんて、自殺行為だ」

「……ごめん」

「だから謝るなって」


 シャレットは天井を見たまま、顔色1つ変えない。怒っているのかと不安になった。


「まずは治療をしなきゃ」


 よい、しょ……!と立ち上がろうとするが、なかなか力が入らない。体力が限界を迎えているのだ。


「ありがたいけど無理はするな。それに、これくらいどうってことないさ」


 シャレットは一息ついて起き上がる。オレはズルズルと背中を反る形になった。


「ははっ、まるでヴァンパイアに噛まれちまったみたいな傷ができたな」

「でもシャレットは人間のままだよ」

「そうだな。……神父がヴァンパイアねぇ……。『あっち』ではたくさん見かけたのに、『こっち』では見かけないのは何か理由があるのかもしれないな」


 シャレットはオレについた塩を払いながら呟く。オレも思い出して一緒に払った。


「……オレこそごめんな。必死になって抵抗した結果がコレだよ」

「ううん。謝るのも、お礼を言うのもこっちだもん。せっかくここに来たのに、みんなに心配させちゃった……」


 オレは持てる力の全てを使い、立ち上がった。横に並んでいるたくさんの椅子に座って、一息つく。シャレットも隣に来た。


「………………ふぅ。よし」


 シャレットはすぐに前の方に行き、机の前に立つ。机の中をゴソゴソしているかと思いきや、いかにも手作りみたいな縦長のものを取り出した。


「バルディ、ミゲルに箱を貰っただろ。出してみな」

「あ……これ?」


 木箱を見せる。


「そう、それだ。……『聖なるかな。汝に祝福を。永遠の加護を。栄光を、安らぎを、豊かさを。聖なるかな。聖なるかな。聖なるかな──』………………」


 最初に読んでいた本を閉じると、こちらにやってきた。木箱を開けるようにジェスチャーしたので、開けて差し出すとその中に鍵のようなものを入れた。


「それが出口の鍵だ。これをあの扉で使うと、外に出られるぜ」

「ありがとう」

「悪魔にこんな儀式、してもいいのかよって思ったけどな、どうやら効かないらしい。エクソシストが泣いちまうよな!」


 あはは!と笑うが、悪魔を相手にする勇者がそんなことを言っていいのだろうか?


「ま、疲れが取れたら外に出るといい。オレも、用意されたぶどう酒でも飲むかな……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ