追放された聖女は追放した聖女より幸せになる
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また、気になる箇所があるようでしたら遠慮なくお知らせ下さい
この世界には5人の創造神がいると考えられています
大地
空
火
風
そして、水
この世界には5つの国があります
大地の国
空の国
火の国
風の国
そして、水の国
わたくしはその中でも水の国に住む者です
わたくしはかつて水の国ではなく火の国の王女である人物でした
過去形になっているのは、今はもう王女ではないからです
わたくしは火の国の王女、水の聖女そして双子の姉という3つの役職を背負った者として生誕致しました
申し遅れてましたね
わたくしの名はサリーナ
サリーナ・タイシス
水の聖女です
火の国の王、ユリアス・タイシスの長子にございます
双子の妹はカリーナ・タイシス
彼女は火の聖女です
聖女とは、創造神が5つの国に1人ずつお与え為さるいわば神の使いというものです
彼女たちは、自国のために一生を尽くします
わたくしと妹の場合、異常なのです
1国に2人も聖女が産まれてしまいました
しかもそのうちの一人は自国の聖女ではない
本来ならわたくしは産まれて直ぐに水の国へ連れて行かれ、水の国の国民として生きる運命だったのですが、
幸か不幸かわたくしの両親はわたくしを火の国に留めておいたのです
さて、わたくし達姉妹2人はどちらもとても美しかったのです
透き通るように白い肌
上品な艶のある葡萄色の髪の毛
ガラスのように美しい黄金色の瞳
双子ですから同じ顔、ですが、2人は全く違う性格だったのです
わたくしは庭園の手入れなど自然に触れることが何よりも好きでした
妹の方は、剣術など、男性の方が嗜むような物事を好んでいました
妹は社交的で人懐っこく火の国の聖女ということもあり、仕事のため国を回ったりしており、国民からの支持率が高かったです
対するわたくしのほうは内向的、そして水の聖女なので国民の前にも滅多に現れず、わたくしを好んで支持するような方はいらっしゃいませんでした
また、カリーナは頭が冴えている子だったのですがわたくしはどちらかと言うとあまり頭が良くない劣等生でした
ここまで差がついてくるともう妹が世継ぎということは確定していたようなものでしたからあまり派閥争いなどはありませんでした
こんなにも違うわたくしたちでしたが、意外にも大変仲が良かったです
わたくしは困ったことがあったら真っ先に妹に相談に行きました
わたくしにとって、彼女は最も信頼のある人物だったのです
カリーナの方もきっとそうだったでしょう
ですが…わたくしたちはある出来事をきっかけとして仲違いしてしまう結果となりました
あれは、わたくし達が14の頃でした
「お姉様!
聞いて下さる?
わたくし本日やっとイースに勝てたのです!」
薔薇のお手入れをしていると、
カリーナがわたくしの元に駆け寄り、そう言いました
イースとは、我が国の宰相のご子息のことです
「良かったですね、カリーナ!
努力がやっと報われましたね
今宵はお祝いを致しましょう」
カリーナはイースに負けてから三年間、今までずっと頑張ってきてました
彼女が勝てたというのはわたくしにとっても喜ばしいことです
祝福すべきこの時に伝えるべきか悩みましたが…言っておいた方が良いでしょう
「カリーナ、ちょうどよかったです
わたくしも今からそちらに向かおうとしていました
イースのことなのですが…」
「お姉さまっ
イースがどうなさったの?」
「イースは…水の国に婿入りすることが決まったそうですよ」
「イースがですかっ?
嘘ですわ!わたくし、イースと結婚すると約束しましたのに!」
「あら、貴女いつのまにそんな契りを…」
「別にいいではないですかっ」
「あらあら、ごめんなさいねふふ
イースのことは本当ですわよ
お父様が隠に告げていたのを見ましたもの」
「お父様!
お姉様に聞かれては隠に告げる意味はないのでは!!
いえ、そんなことより、イースは今日一回もそのようなそぶりは見せませんでしたし、
そんなこと仰いませんでしたよ?
なんで仰ってくれなかったのでしょう…」
「きっとイースは貴方に悲しんで欲しくなかったからでしょう」
「わたくし、隠される方が悲しゅうございます!
今からでもイースにお叱りをしに行きますわ!」
そう言うと、カリーナは全速力でイースを探しに行きました
「待ちなさい!カリーナ!まだ話は終わってないですわよ!」
イースは、まだ彼方に行くことを受理したわけでもありません
つまり、此処に残る可能性もあるということです
わたくしはそれを伝えるべく、彼女を追いかけ始めました
ですが流石カリーナ、常日頃から運動していることもあり体力はあるようで、直ぐにバテてしまったわたくしとは違い未だに全速力で走っているようです
「はぁ、はぁ、全く…カリーナったら…はぁ、はぁ」
「どうしたのですか?サリーナ王女
淑女らしくないですよ」
「イース!
お恥ずかしい姿を見せてしまい申し訳ございません
何故ここに?」
「別に…散歩していただけですよ?
それより先程の質問に答えて頂きますか?」
「あら、申し訳ございません
カリーナが貴方を探しているのです
そしてわたくしはカリーナを追いかけているのです」
「私をですか?」
「えぇ、ここで待ってて頂戴ね」
「畏まりました」
イースを待たせて、再度カリーナを追いかけ始めました
「カリーナ!はぁ、はぁ」
「お姉様!
イースが見つからないのですがどちらにいらっしゃるか分かりますか?」
「はぁ、はぁ、カリーナ、イースはあちらよ」
「ありがとう!お姉様」
そう言って、妹はイースの元へ走って行きました
彼女は疲れを知らないのかしら…
息を整えてから、わたくしも歩いて彼らの方へ向かいました
しばらく歩いていると、2人が見えて来ました
2人に声をかけようとした瞬間、見てしまいました
2人が深く口付けをするところを
「カリーナ…ふふっ
風の心よ彼らの心の外を運んでおくれ」
わたくしはとっさに身を隠し、風の魔法を使い、二人の会話を聞き始めました
わたくしも一応少女ですから恋物語くらいは興味があります
「…カリーナ…私は君とずっと一緒に居たい
水の国になんて行きたくはない」
「イース…わたくしも、わたくしも貴方と一生を遂げたい
水の国になんていかないで」
「カリーナ…」
「イース…」
2人は見つめ合い、別れを惜しんでいるようです
「これは今日の日記に書くべきことですわ…ふふふ」
あとでカリーナをいじろうと仮作していると2人の会話が再開しました
「…イース、わたくし思いつきました
貴方がわたくしと共に過ごす方法を」
「カリーナ?
そんなものがあるのかい?
争い事だけはやめておくれよ」
「いえ、そんな馬鹿な真似は致しませんよ
お姉様を…水の聖女であるサリーナを水の国にやるのですわ!」
「確かに…
王たちはただ同盟をさらに強く結び付けたいだけだ
私が行っても、あいつが行っても変わりはないだろう」
「そうよ!
誰にも必要とされてない、愛されてないあいつが行くべきなのよ
あいつはわたしよりも頭が悪い、ただの足を引っ張ることしか能がないんだから
なんでわたしが妹なのよ
もう可愛い妹を演じるのは耐えられないわ
向こうに行ってくれたらうれしいくらいよ
イース、わたくし今からお父様に話してきますわ」
「こんなにいい子で可愛いカリーナを困らせるやつなんて…
うむ、私もついて行こう」
…なんということ…
カリーナは、わたくしを、実の姉をイースより価値がないと言いました
わたくしは…本当に誰にも愛されてないのでしょうか…
お父様を信じましょう
わたくしにはどうすることもできないのですから
夕食時、わたくしはお父様に呼び出されました
「サリーナ、そばに来なさい」
部屋にはカリーナとイースもいました
「はい、お父様」
「サリーナ、貴様は急遽カリーナの婚約者であるイースの代わりに水の国に向かうことが決まった」
「…っ…………畏まりました
わたくしは、何方に嫁ぐのですか?」
「サリーナ、貴様は向こうの辺境貴族であるシャーシ侯爵に嫁いでもらうことが決まった」
シャーシ侯爵…というと向こうで一番の貧乏貴族ではありませんか
王族であり、しかも水の聖女であるわたくしにこれ以上の屈辱はありますでしょうか
「国王陛下、発言をお許し下さい」
「イース、なんだ」
「サリーナ王女はカリーナ王女に伝えるべきことを伝えておりません」
「ほう、なんじゃ、申してみよ」
「はっ
彼女はカリーナ王女に私が水の国に行くとは伝えました
しかし、それ以上のこと…私が行くかどうかはまだ決めていないということはつたえておりませんでした
つまり…彼女は私たち2人の仲を引き裂こうとしていたのではないでしょうか」
「サリーナ、それは誠か」
「お父様…わたくしがそんなことをすると思いますか?」
「知らぬ
貴様が2人の仲を妬ましく思いそう行動した可能性もあるだろう」
「お姉さま…
何故、そんなことを、そんな卑劣なことをおやりになったのですか!?」
「カリーナ、わたくしはやっておりません!」
「黙れ!
貴様がそう言ったことは私の耳で聞いておる!
私が証人だ!
陛下、此奴から貴族位を剥奪し、先ほどの縁談も白紙にし、水の国へ追放してください!」
「イース、貴様、本当に聞いたのだな!」
「はい!
火の創造神に誓って、嘘は吐いていないと宣言致します!」
「その言葉、承った
それが誠ではなかったら承知しないからな
聖女を返すというだけで、同盟はまた強く結ばれるだろう
よし、
サリーナ、貴様から貴族位を剥奪する
そして、永久国外追放の命を出す!」
「お父様……」
わたくしは倒れ込んでしまいました
二人の計画は上手くいったようです
わたくしはもうこの国に居ることはできません
一刻も早く水の国へ向かわなくては
身支度をし、部屋の外を出ました
わたくしは、同盟を強める一手段として国を追い出されます
それを計画したのは実の妹
それを決断したのは実の父
こんなにも酷い家族が他にいるのでしょうか…
親しくして下さっていたお友達に文は出しました
育てていたお花に別れも告げました
もう未練はひとつもございません
「サリーナ様…
わたしはお嬢様がそんなことしてないって信じております
わたしはお嬢様について行きます」
幼い頃からずっとお世話をしてくれているミゼがそう言ってくれました
「ミゼ…
ありがとう」
わたくし達は夜の闇に包まれながらひっそりと火の国を経ちました
水の国に着くと、検問がありました
「名を告げよ」
「サリーナと申します」
「出身はどこだ」
「火の国から参りました」
「位は」
「…平民です」
「証をだせ」
お父様から渡された片道の証を出し、手渡しました
「入って良いぞ」
街は王都ということもあり、とても賑やかでした
しばらくぼうっと眺めていると、ミゼが紙を拾い上げました
「お嬢様、ご覧ください」
【水の聖女、水の国に還る】
と紙に書かれていました
水の聖女…つまりわたくしのことでしょう
「どうしたんだい、姉ちゃん達、こんなところで突っ立って
今から聖女様のお迎えパレードが開かれるのに
早く行こうさ」
「パレード?」
「なんだい、しらないのかい?
火の国にいらっしゃった水の聖女様がここに来るんだよ」
「あの、坊や?
水の聖女は、わたくしのことを指すのよ?」
「ふん、嘘だね
聖女様はまだここにはいないよ
だって今日の晩に来るんだもん」
「えぇ、予定では晩頃に着くはずだったんだけど、早くついたのよ」
「ふーん?
じゃあ聖女だって証明して見せてよ」
「証明?」
「ほぅら、できないじゃん」
「出来ないんではなくて、分からないのよ
どうやって証明すればいいのかしら?」
「そんなの簡単さ、ちょっと着いてきてよ」
「え、えぇ」
どういう訳か、わたくしが聖女であることを証明しなくてはならなくなりました
「おっちゃん、村に連れてって」
「何だ坊主、村を手伝う気になったのか?」
「うん、まあそんなところさ」
「ははははは
分かったよ、連れてってやる」
「これは…風の魔法陣?」
「そうだよ、よくわかったね」
「んじゃ、いくぞ
空と風の心よ
彼らを行くべきところへ連れて行け
空は包み込め
風は運べよ
水の心の元にありし生命を」
先程のおじさまは魔法使いだったようです
魔法陣が働き連れてこられたのは、小さな村
村には畑が沢山ありますが、どこも実っているように見えません
畑の脇には枯れた作物が積み重なっています
「みんな!
聖女様を連れてきたよ!
これで作物も生き返る!」
「ええ、なんだって?
聖女様がわたし達の作物を蘇らせてくれるだって?」
「なんという創造神のお導きだ!」
村人は何だかよくわかりませんがすごく喜んでいます
「坊や、どういうこと?」
「ねぇ、その坊や呼びやめてくんない?
俺一応10歳だよ?
俺はサシ
あんたは?」
「サリーナよ、14歳
サシ、この状況を説明して頂戴」
「ふーん、聖女様と同じ名前だ
まあ、それより
水の聖女なら加護を使って作物を蘇らせれるだろうってことさ
地面は無理でも植物は専門だろう?」
「え、えぇたしかにそうですけど」
「これで上手くいったらあんたを国民代表として聖女と認めてやるよ」
「分かったわ、やってみます」
サシはわたくしを畑のそばに放置されている作物の所へ連れて行きました
わたくしは息を深く吸い込み、祈りのポーズをとりました
「黒く染まれよ大地の心
白く染まれよ空の心
黄色く染まれよ風の心
紅く染まれよ火の心
蒼く染まれよ水の心
大地は命を躍動させ
空は命を包み込み
風は命を運び
火は命を広め
水は命を分け与えよ
心を失いかけている生命を
青く染め命を分け与え給え」
水の聖女の最高位呪文を唱え終ると、作物の束が青く輝いた
「すっ、すげぇ、本物だ」
「だから何度も言ってるでしょう、聖女だって」
「サリーナ、俺、感動した」
「あら、そこまで?ふふふ
サシ、いえ、水の国の皆さん、長らく帰って来られなくてごめんなさいね」
やっと、やっと聖女として認められた気がします
あの後、兵士がやってきて、城へ連れられました
水の国王はとても歓迎して下さいました
「何ということだ、実の娘より何処の馬の骨かもわからぬやつの方を信用するとは…」
陛下はわたくしがここに来た経緯を聞くとわたくしのために怒ってくださいました
「よし、わかった、国が再建したら同盟を破棄しよう
他の国にも伝えておく」
「大変ありがとうございます」
「さてサリーナ、君に託したい仕事がある」
「なんでしょう、陛下」
「君にこの国の再建を手伝って欲しいんだ
というのも、君が向こうにいた14年間、聖女の力がなかった為か、今この国は色々な意味で危機に瀕している
昼にやったように、作物に命を与え、国民を幸せにしてやって欲しい
欲するのなら、貴族の位も与えよう、家も与えよう、婿も与えよう、宝石も金貨も与えよう」
「陛下、わたくしは何もいりません
この国の人々を幸せにできる
それが1番の褒美です」
「そう言ってくれて安心したよ
ものすごく高価なものを頼んで来るんじゃないかとヒヤヒヤしたよ」
「ふふふ
そんなことは致しませんよ
では明日から早速農村へ向かいますね」
「うむ、頼んだぞ」
わたくしは水の聖女として、ようやく活動することができるようになりました
火の国では、火の聖女だけを必要とするため、水の聖女であるわたくしは仕事がありませんでした
妹の方が仕事をしているせいか、国民からの風当たりもきつかったです
やっと必要とされる場所を見つけたようでとても安心致しました
付き添い人には、サシとミゼを選びました
貴族では無いので、歩いての移動になりますが、サシは興味深い話をしてくれるので苦ではないです
国民を幸せにし続けて8年が経ちました
隣国である火の国王が崩御されたそうです
世継ぎはカリーナになるでしょう
国法上婿入り、あるいは嫁入りした者は王にはなれないのです
まあ、カリーナとイースは結婚して1年も満たずに別れを告げたそうですからイースはどちらにしろ無理でしょうけど
何でも、イースが商人の娘と浮気をしていたとか
あの国はどうなるのでしょうか
今のわたくしには関係の無い話ですが
ちなみに、わたくしは4年前にサシと晴れて結ばれました
今はサニエルという4歳の息子が一人います
そして、お腹の中にももう一人
「サーナ、外を眺めてどうしたんだい」
「サシ、なんでもないわ
夕陽を眺めていただけ」
「母さん、母さん、いつものようにお花を生き返らせて」
「サニ、ごめんね
母さん今お腹の中に赤ちゃんがいるから魔法は使えないのよ」
「サニエル、今魔法を使うと母さんは死んでしまうかもしれないんだぞぉ、それでもいいのか」
サシがサニエルに嘘をつきます
「えっやだぁ
母さん、死なないでぇ」
「ふふふ
冗談ですよ、サニ
サシも幼い子に嘘を吐くのはおやめなさい
それに、母さんは死にませんよ
母さんは聖女だもの
創造神様が見守って下さってる限り死ぬことは無いのです」
「すごい…サニエルも聖女になりたい」
「ふふふっ
聖女になれるのは女の子だけですよ、サニエル様
さ、奥様も風邪をひいてしまわれます
中へお入りくださいまし」
「ミゼ、いたのね」
「わたくしはずぅっとここにいましたよ?」
「おほほほ
ごめんなさいね、さあサニ、サシ、中へ入りましょう」
カリーナ、見ているかしら?
見えてないでしょうね、こんなに遠くにいるのですもの
貴方が追放したわたくしは今水の国で幸せになっています
追放した貴方は今、幸せですか?
わたくしを追放して良かったのか、最初からもう一度よく考えてご覧なさい
そして、わたくしより幸せになってみなさい
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