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真面目だけが取り柄の特待生は、自由なおぼっちゃまに憧れる  作者: 四葉ひろ


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8/22

 クリスとの勉強もだいぶ進んできた。

 ある日、勉強を終えてテキストを閉じると私はクリスに提案した。


「じゃあ、この小窓の小さいほうで普通のテキストは読めると思うから、これをテストのときに持ち込んでいいように、先生に交渉しよう?」

「え? 先生に?」

「うん。アンダーソン先生って魔法学のアンダーソン先生でしょ。特待クラスでも教えているから、私、知ってるの。お願いしに行こう」


 え! 先生と直接話すの? とクリスは狼狽している。特待クラスは、質問に行ったりするし、課外の活動もほとんど生徒主催で運営していて先生と交渉することも多いので、先生に提案や交渉をすることには慣れているんだけど、普通科はそんなことはないらしい。クリスが、かもしれないけれど。

 とにかく私はクリスと一緒に職員室へ向かった。




「そんな、一人だけ特別扱いはできません」


 アンダーソン先生は、メガネを押し上げながらにべもなくそう言った。

 ここは、北エリアの職員室。普通科以外の先生が共同で使っている部屋だ。

 年齢不詳で影で「不老の魔女」と呼ばれているアンダーソン先生は、30代にしか見えないのに40年以上前から学園にいると言う噂の魔法学の主任先生だ。お堅いことでも知られている。


「でも、工夫をすれば、劇的に変化があると思うんです。じゃあ、テストを口頭試問にしていただくのはどうですか」

「もっとダメです。前例がありません」


 取りつく島もない。


「プラナーさん。あなたが成績優秀でお医者様になってご実家を継ぐことを目指していらっしゃることは知っています。素晴らしい心がけだと思うわ。だけど、同級生を勝手に診断して良いことにはなりません」

「はい。すみません」

「先生。プラナーさんは俺のことを思って……」

「では、アドラーさん。普通にテストを受けても良い点を取れる『工夫』をしたらどうですか」


 ひどい。私は手を握り締めた。

 その私の袖をクリスが引く。


「もういいよ。エミリ」

「でもーー」


「興味深い話だな」


 その時、突然割り込んできた声があった。

 振り返ると、若い男性の先生が立っていた。大人の男性でここにいるから、先生だと思う。多分。


「まあ、ウェルウッド先生。その格好はなんですか!」

 アンダーソン先生が目を吊り上げる。やっぱり先生だったんだ。ボサボサの髪からは、水がポタポタと垂れていて、下着かと思うような簡易的なシャツに薄手の下履のようなものを履いている。これで外を歩いていたら、普通に不審者だ。


「いやあ、すみません。生徒と訓練をしていたら、熱くなりすぎちゃって水浴びできたところだったんです」

「だったら、更衣室で身なりを整えてからいらっしゃい!」


 見た目の年齢はあまり変わらない二人だけど、やはりアンダーソン先生の方がだいぶ先輩らしい。

 そんなことを考えていたら、ウェルウッド先生がこちらを向いた。


「君、特待科のプラナーさんだよね。そっちは普通科のアドラー君」

「あ、はい。私たちのことご存知なんですか」

「うん。プラナーさんは成績優秀者表彰されてるし、アドラー君も普通科での剣術の成績はトップだからね」


 そうなんだ。運動神経いいなと思っていたけど、クリス、そんなにできるんだ。


「で、アドラー君は剣術や体術以外の成績はさっぱりって聞いてたけど、プラナーさんの言う工夫をすれば、成績は上がりそうなんだ」

「はい。試しに一科目だけでもいいので、次の試験で試させてもらえませんか」

「しつこいですよ。プラナーさん。ダメだと言ったはずです」

「まあまあ、アンダーソン先生。じゃあ、これまで通りに試験を受けて、追試になったら、それは口頭試問で受けるって言うのはどうかな。他の子も追試になった子はこれまで通りの形式と口頭試問を選べるようにすれば、一人だけ特別扱いってことではないでしょう」

 子どもたちに可能性があるならやってやりましょうよ。と明るく言ってアンダーソン先生に笑いかけるウェルウッド先生に、合わせて、私はもう一度頭を下げた。


「お願いします、アンダーソン先生」

「お願いします!」


 隣でクリスも頭を下げる。頭上から、アンダーソン先生のため息が聞こえた。


「わかりました。では、次の試験の魔法術のテストで試してみましょう」


「ありがとうございます!」

 私たちは、手を取り合って喜んだ。


「でも、おかしな点を取ったら、一回限りですよ!」

「はい!」

「よかったなー、お前たち」

「はい、ありがとうございます。ウェルウッド先生」

「ウェルウッド先生は、着替えてきてください。職員室をなんだと思っているのですか!」


 ウェルウッド先生は肩をすくめて、更衣室に向かった。背中に向かってもう一度お礼を言う私たちに手をひらひら振りながら。



 次の日から、クリスとの勉強にはますます力が入った。


「とにかく、追試になっても、そこの口頭試問で点数が取れればいいんだから、このノートを繰り返しやって、とにかく覚えよう。魔法術の試験で結果が残せれば、他の科目でも考慮してくれるかもしれないし」

「うん。とにかく、出来る限りやってみるよ」


 クリスも真剣な顔だ。授業の合間を縫って貸してもらったテキストで、次の試験範囲のノートは作り終わった。

 平日は一日一回くらいしか投稿できないと思います。なるべく毎日投稿できるよう頑張ります。

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