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じゃあまた放課後にね! とファミルは明るく去っていったが、放課後ユナと共に訪れたカフェテリアにポツンとクリスだけが座っていた。


 クリスは私の顔を見るとガタンと音をたてて立ちあがった。まるで初めて会った日のようだ。


「あ、あのーー」

「座ったら、エミリ」


 口を開いたクリスを遮ってユナが私を座らせる。自分は座らず、クリスを見つめている。睨んでいるわけじゃないのに迫力がすごい。


「アドラー二等陸尉の弟さんね」

「は! この度はコーゲンハイト公爵令嬢にまでご迷惑をお掛けいたしまして誠に申し訳ありません!」


 クリスが腰を直角に曲げて頭を下げる。


「エミリは私の親友なの。誠意を持って対応してくれるわよね」

「命をかけて!」


 えーと。確かに仲直りはしたいけど、そんな重い感じはちょっと……。

 戸惑う私をチラリとみるとふふっと笑って、またクリスを見た。


「後ほどエミリからの報告を楽しみしているわ」

「は!」


 ユナはそのまま優雅に去っていく。


 えーと。


「……座る?」

「失礼します!」


 いえ、私は上官ではないので。ってクリスも別に軍人じゃないわよね。


「あはは。クリスったら軍人さんみたい」


 こらえきれず、笑ってしまった。


「あ、ごめん。--昨日もごめん」

「うん。私もごめんね」


 クリスが目の前に腰かける。一昨日もカフェテリアでこうして会ったのに、随分と久しぶりな気がした。


「俺、ファミルから聞いていたんだ。友達のふりして、ノート目当てにエミリに近づく連中がいるって」


 知っていたのか。実はこれまでも私と話してみたいという人は何人かいた。その人たちは、私と何回か話すと必ずノートを貸して欲しいと言った。そしてそのノートは私の知らないところまで回されていつの間にか色んな人が写していた。別にノートを貸すのはいい。ノートに全てを書いているわけじゃないし。でも一言断ってくれてもいいんじゃないか。そう思うともうダメだった。結局その人たちとはそれ以上仲良くはなれなかった。


 そういう人たちに一番怒ってくれたのはユナだった。何も言わなかったけど、波風立てないように何気なくそういう人たちを断ってくれたのはファミルだった。未来の侯爵は本当に人を見る目があった。


 クリスと最初に会ったのも、そのファミルが紹介してくれたから、そういう人ではないと思ったからだ。実際そういう人ではなかったし。


「うん。でもクリスは違うでしょ」


 そう言うと、クリスは少し苦しそうな顔をした。


「ありがとう。俺、勉強教えてくれるって言われて、そういう奴らと同じくくりにされたのかと思ってショックだったんだ」

「そうなんだ。ごめんね。私が急に変なこと言ったから」


「違う、違う! 俺が勝手に勘違いしたんだ。それに--」


 クリスは、自分の手元に目を落とした。


「……それに俺、本当に馬鹿なんだ。かなり幻滅するかも。って、いや、変な意味じゃなくて!!」

「変な意味って?」

「いやいやいやいや! とにかく本当にダメなんだ! 本やノートを読んで勉強しようとしても文字がぐるぐるして全然頭に入ってこないし! 結局テストでも先生の話で印象に残ったところだけしか解けないから、いつも追試なんだ。追試もその前の先生の補講の話を書いてなんとかギリギリなんだ」


 私の実家は町医者で、私も将来は医者になりたいと思っている。この学校を出たら正式に医術学校に入学するのが目標だけど、普段から医学に関する本は自主的に読んでいる。


 クリスは、話していても頭の回転は速いし、友達が多いのもおそらく気の利いた話ができることも関係していると思う。なのに、勉強ができないのって。


「ねえ、クリス。先生の話は覚えられるの?」

「本を読むよりは全然な。本は全然読めないんだよ」


 私は、本を読む練習をしているクリスを見てから自分なりに推測していたことを試してみることにした。


「ねえ、これ読んでみて」


 私はノートを開いて、そこに短い単語を書いた。


「勉強」


 クリスは読んだ。


「じゃあこれは?」


 持っていた本を開いて一ページを見せる。


「えっと、『……この……章……の結り…結論……としては……魔法……』えっと」


 クリスは文字を一つ一つたどりながらたどたどしく読む。


 私はノートで本の2行目以降を隠した


「これだと?」

「えっと、『つまりは、…魔法生物の…存在が…』」

「じゃあこれだったら?」


 ちょっと待ってねと言って、ノートを一ページ切り取る。それに小さな穴をあけ、その紙で本を隠した。


「この紙で単語をずらしながら読んでみて」


「う、うん。『当面の、課題として、魔法、生物、の生息地、ごとの』」


「どれが一番読みやすかった?」

「最後のかな」

「やっぱり!」


 手を打つ私をクリスが不思議そうに見る。

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