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真面目だけが取り柄の特待生は、自由なおぼっちゃまに憧れる  作者: 四葉ひろ


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5/22

 --コンコン。


 控えめなノックの音がする。


 はいと答えると予想通りユナだった。

 夕食の席にいなかったから心配してきてくれたんだろう。


 寮の部屋にも大小があって、私はちょっとだけ特徴があるものの、一番一般的な部屋に暮らしている。ベッドと机でほぼいっぱい.荷物はベッドの下と机に備え付けの棚にしまう。

 もちろん他にテーブルセットもソファも置くスペースなんてないから、ユナは入ってくると慣れた様子でベッドに腰掛けた。


 ユナの部屋は最上級の部屋で、私からしたら部屋というより豪邸で、続きの間なるものにセッティングされた豪華なテーブルセットでお茶をいただいたときなんて感動したものだけれど、普段そんな部屋で暮らしているくせに、ユナはまったく違和感なく私の部屋にやってきて過ごす。


「お腹空いてるでしょ」


 ユナは何があったのか一切聞かずにクッキーを取り出した。汲み置きの水をコップに入れて渡してくるので反射的に受け取る。飲めという目をしているのを感じたので一口飲む。気づかないうちに随分と喉が渇いていたことに気づいた。


「はい、あーん」


 そう言われて開いた口にクッキーを突っ込まれる。自分はいつも完璧なマナーなくせに、私には結構雑だ。でもさすが公爵令嬢御用達のクッキー。とんでもなく美味しかった。涙が出るくらい。

 ユナがうふふと笑いながら私の涙とついでに鼻水を拭いてくれる。この部屋の家賃1ヶ月分くらいなんじゃないかと思う高級ハンカチを汚してしまった私はちょっと慌てた。


 ユナはまたうふふと笑って、クッキーを私に食べさせた。


「……何があったか聞かないの?」

「知ってるもの」


 そうでした。おみそれしました。次期帝国皇妃をみくびっておりました。


「でも、らしくないわね。そこまではわからないわ」


 そう言うのはクリスのことだろう。確かにいつもおどけていて人あたりがいいのがクリスだ。こんなことは珍しい。


「エミリは私より知ってそうよね」


 そう言われてうなずいた。でもそれ以上は話していいものかわからなかった。


「謝ったほうがいいのかな」

「放っておけばいいわよ」


 そう言うとユナは私のベッドに潜り込んだ。

 公爵令嬢なのに、こんなベッドでいいの?と聞いた時、公爵令嬢だからどこででも眠れないといけないのよと言われて、貴族って大変なんだなと思ったのを思い出した。

 今日は落ち込んで絶対眠れないと思っていたのに、ユナの暖かさに釣られていつのまにか眠っていた。


 翌朝、ヒヤッとした風で目が覚めた。


 ユナは起きて、部屋の外で話している。


 公爵令嬢で帝国皇子の婚約者であるユナには学園内でも常に護衛がついている。最初の頃はユナがお泊まりのたびに廊下で夜を明かす護衛の騎士さんに恐縮しきりだったが、学園側が配慮してくれて、隣の部屋との間に続き扉がある部屋に移ることになった。姉妹で入学した人が使う部屋で、完全な個室を一部屋借りるより割安になるらしいが、私はその片方の部屋を普通の一部屋分の値段で借りている。もう一部屋はおそらく学園側か公爵家が持ってくれているのだと思う。続きの間に護衛の方が控えてくれるようになって冬の間も気兼ねなくお泊まりができるようになった。


 公爵令嬢を守る騎士様ともなるともちろん貴族様なので私に気を遣っていただく必要は全くないのだけれど、皆さん紳士でユナの友人としてきちんと敬意を払ってくれる。

 続きの間に控えているのも緊急事態に備えてのことで、これまでに続き扉を使ったことはない。

 今朝も交代の時間なのだろう。新しい騎士様の足音がして一言二言話したあと交代前の騎士様が帰っていく足音がする。


 ユナが戻ってきて、私のベッドに潜り込む。


「あったかーい」

「もう起きる時間?」

「まだ早いわ。でも登校前にファミルが話したいんですって」


 もごもごと私に抱き着いてきたユナは、そのままばさっと布団をはがす。


「だからもう起きて、準備しましょ」


 寮で朝食を食べて、特待校舎前の広場に着くと、ベンチにファミルが座っていた。

 私たちの姿を見ると、立ち上がって私たちに座るように勧める。自分はその横に膝をついた。レディファーストが身についている。


「エミリちゃん、ごめんね。クリスが馬鹿で」

「そうね。だいぶ馬鹿ね」


 そう答えたのはユナだ。ファミルはははっと笑った。


「合わす顔ないって言うからさ。俺がまず謝っとくよって言ったんだ」

「……面倒見がいいんだね」

「まあね」


 ファミルは笑っただけだが、ユナが説明してくれた。


「アドラー家はファミルの家の分領の領主だからね、ファミルの家には庇護する義務があるのよ。でもそれだけじゃなくて、ファミルが幼馴染を放っておけないんだと思うけどね」

「はい。その通りでございます。うちの分家筋がご迷惑をお掛けいたしまして誠に遺憾に感じております。つきましては、謝罪の機会をいただきたく……」

「待って、待って。大げさにしないで! 貴族様に正式に謝罪されたら、父の心臓が止まっちゃう! それに、怒らせたのは私だし」


 私が慌てて遮ると、ファミルはまたははっと笑った。からかったな。


「いや、聞いた限りじゃクリスが悪いよ。エミリちゃんが怒ってないなら、ごめんさせてほしいんだ」

「謝ってもらうようなことじゃ。本当に私が余計なことしたから--」

「あと、やっぱり勉強教えてほしいって」

「え?いいの?」

「うん。それもちゃんと話したいってさ。いい?」

「うん」


 ファミルは、またははっと笑った。暖かい笑顔だった。

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