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新学期が始まった。
秋から冬にかけての後期は、学校行事も多くて何かと忙しい。
私たちも、授業のかたわら、秋の収穫祭や学科対抗の総合大会に向けて準備をしている。
それなりに忙しい毎日だけど、ユナやファミルとは同じ教室で毎日顔を合わせるし、ガイ君やアンナちゃんとも定期的に会っている。クリスの勉強という口実がなくなっても、私たちはカフェテリアや中庭に集まってたわいもないおしゃべりをするのが習慣になっていた。
だけど、そこにクリスはいない。
正直、こんなに会えなくなるとは思わなかった。
帰って来た日に会ってから、ゆっくり会えたことはない。
騎士科に編入したクリスは、途中編入なこともあって、とても忙しいようだ。
転科にあたって、寮も普通科から騎士科棟に移ったので、ガイ君も全然会えていないそうだ。唯一、騎士科寮の隣の特待科男子寮に住むファミルがたまに寮の入り口で出会うようだが、常に時間に追われているようで、ゆっくり話す暇はないらしい。
みんなと話すのは楽しいけれど、時々いないはずのクリスを目で探してしまう。
そんな私に気づくと、ユナがギュッと抱きしめてくれたり、アンナちゃんが手を握ってくれたり、ファミルやガイ君がお菓子をたくさんくれたりする。
みんな私の気持ちなんてお見通しだ。
流石に、自分でも気づいている。
クリスは、私にとって特別な人なんだーー。
クリスに会えないまま、季節はすっかり秋になった。収穫祭が終わったら、寒くなる前の最後の恒例行事が学科対抗の総合大会だ。原則全員参加で、運動競技で競ったり、芸術関係のコンクールが開かれたり、弁論大会もあったりする。私は、弁論大会に出ることになっていて、チームの仲間との打ち合わせに追われていた。ユナは音楽系のコンクールに、ファミルは剣術戦に出る。アンナちゃんは絵画コンクール、ガイ君は球技に参加すると言っていた。
「お、プラナーさんじゃないか」
今日も、資料をもらいに職員室まで来ていた私に、声をかけて来たのは騎士科のウェルウッド先生だ。
クリスを騎士科の編入試験に誘ってくれたウェルウッド先生は、騎士科の3年の担任で、つまり、転科した後のクリスの担当の先生だ。
「やっぱり、弁論大会に出るんだな。弁論大会は、毎年特待科が優勝してるから、今年くらい騎士科に譲ってくれよ」
冗談めかして言うウェルウッド先生に笑ってしまう。
「騎士科は、運動系の競技でほとんど優勝しているじゃないですか」
「そうなんだよ。さすが騎士科だろ。あ、アドラーは、剣術に出るから見に行ってやってくれよな。もともと騎士科にいる奴を凌ぐ実力だから、いいところ行くと思うぞ」
ーークリスの名前が出て、ドキッとした。
「そうですね。弁論大会の時間と被っていないか確認してみます」
ドキドキしてるのを隠すように努めて冷静に言った。
「まあ、あいつも今、すごい勢いでみんなに追いつこうと頑張っているからさ。ちょっと応援しに来てやってくれよ。この調子で行けば、大会が終われば少しは時間ができると思うぞ」
「え?」
「俺は、若者の青春は奪わない主義なんだ」
じゃあ、頼んだぞ〜と手をひらひら振って、ウェルウッド先生は去っていく。
久しぶりにクリスに会えるかもしれない。期待に胸が膨らんだ。
「あー、弁論とは全然被ってないよ。ほら、エミリと弁論に出るジャスティ。あいつ剣術の方にも出るからさ。クリスのついでに応援してやれば? でも、クリスの次には俺を応援してよ」
ファミルに剣術大会の時間を聞くと、そう言われた。クリスのことは一言も言っていないのに、私ってそんなにわかりやすいのかな。
「じゃあ、アンナちゃんと行くね」
悔しいので、そう言ってやる。アンナちゃんは奥ゆかしいから、一人ではきっとファミルを見に行くのを遠慮すると思う。
「……お願いします」
ファミルが神妙に頭を下げた。
総合大会は、学園内のあらゆる施設を使って行われる。普段、芸術科しか使わないホールとか、特待科の講堂とか、騎士科の武闘場とか。他の学科と交流する一番の機会なのだ。
大会開始早々に行われた弁論大会では、無事我らがチームが優勝してほっとした。毎年優勝し続けるというのは、結構なプレッシャーなのだ。
同じく絵画コンクールに出す作品を仕上げ終わったアンナちゃんと共に剣術大会が行われる騎士科の武闘場にやってきた。
剣術大会は人気の大会の一つで、沢山の生徒が見にきている。ファミルが出てくると、
「あれ、特待科のファミル様じゃない?」
「え? 剣術大会にお出になるの?」
と言う声が聞こえる。うん、意外だよね。ファミルは何でもできるけど、去年までは体を動かす大会には出ていなかった。
そんなファミルを見て、アンナちゃんはガチガチだ。
「大丈夫だよ。ファミル、剣術強いよ」
「うん。でも怪我をしないか心配で」
震えるアンナちゃんの手をそっと握る。アンナちゃんははっと私を見てそっと握り返してくれた。
「始め!」
と言う審判の声で試合が始まる。
一回戦は普通科の男子相手にファミルの圧勝だった。
隣でアンナちゃんがほっと息をつくのが聞こえる。
そして、クリスの出番になった。
今度は私がドキドキしてきた。
場内に現れたクリスは、休み明けに会った時よりも更に大きく逞しくなっているように見えた。
まるで知らない人みたいだ。友達として意気揚々と応援に来た私が急に恥ずかしくなった。
同じ校内のしかも北側にいるのに、嘘のように見かけることのなくなったクリス。そんな人じゃないって知っているけれど、もう友達だと思っているのは私だけかもしれない。
気持ちが沈んで行く。
俯いた私の手を、今度はアンナちゃんがそっと握ってくれた。顔を上げてアンナちゃんを見ると安心させるように頷いてくれる。
勝手に想像して暗い気持ちになっていたらダメだよね。私はクリスをしっかり目に焼き付けることにしてクリスを見る。
ーークリスがこちらを見ていた。
気のせいかもしれない。
でもーー。
こんなに離れているのに、私は大勢の観客の一人なのに、何故だか一瞬ちゃんと目があった気がした。
「始め!」
審判の声が響いた。




