53. ふたたび、展示室(5)
「ツノジカさまはぶじにもどって、しかも名前までお持ちになったし……お兄ちゃんが率先してツノジカ団の活動をすることになったから、あたしはもう無理しないで、ふつうの小学生らしい生活をしたらいいんじゃないかって。お兄ちゃんなんか『いままであすかはじゅうぶんすぎるぐらいがんばってきた。あとはオレにまかせろ』なんて言うんだよ……
でもあたし、ずっと放課後はツノジカ団のことをしてたから……いまさら、なにしたらいいかよくわかんない」
いままでずっと大人にまじって活動をしてきた女の子が、急にこどもらしいことをしろと言われて、とまどっているらしい。
ヒロユキは思いきって
「ひまになるんなら、ぼくとあそぼうよ。ついでに、かむののことも教えて」
「……できるかな?あたし、いままでずっとツノジカ団のことばっかりで、ふつうのことをしてきてないから」
「だいじょうぶだよ。ただ、あそぶだけなんだから。ちょうどぼく、いまからジェーンとあそぶ約束してるし……」
「ジェーン?――それって、あの小鬼のこと?」
「そう。あすかちゃんがなかなかつかまえられ……」
――キッ。
そのことばに、あすかの目がけわしくなった。
かくれんぼでジェーンをつかまえられなかったことが、よっぽどくやしかったらしい。
「……あれは、ちょっとした油断がまねいたまちがいよ。二度とあんな失態はおかさない」
その目は負けん気で青くかがやいている。
ヒロユキはたじろぎながら
「じゃ、じゃあいっしょにあそぶの、いいよね?」
「いいけど、いつから?」
「えーっと、もうすぐここに来るはずなんだけどな」
最初からヒロユキは、ジェーンと遊ぶのにあすかも誘うつもりだった。彼女なしのひとりでは、とてもあの小鬼姫の遊び相手などつとめられないとわかっていたのだ。ロビーにかかる時計を見ながら
「もう約束の時間なんだけど……」と、つぶやくヒロユキに
あすかは
「……ちょっとヒロユキ。その光ってるのはなに?」
「えっ?」
あすかがゆびさすのは、ヒロユキがジェーンから『ともだちのしるし』としてもらった腕かざりだ。
そこには、あのオナモミの実が見おぼえのある点滅を……
「イロユキ、見つけた」
声がしたと思った瞬間に
ドカ――ン!
爆風とともに、大量の煙がロビーに充満した。
止め金がこわれたガラス窓からひょっこり顔を出すのは
「あそぼオヨ、イロユキ」
ゴーグルをかぶった子鬼のプリンセスだ。
ほこりを頭からかぶったあすかは、わなわなとふるえて
「あなた!こんなことして、いいと思ってるの!?」
「……うん?『こんなこと』ってなんだ?この前とおんなじところにいるから、イロユキまたつかまってるのかと思った。でも、ここのガラスけっこう強いな。あんまりわれなかった」
「われなかったって、ヒビが入ってるじゃない!どうする気!?」
「どうもしない。あらたなガラス欲しいなら、用意するよ?安くしとく」
「安くって、売りつける気?まずあやまって、それから弁償しなさい!」
「ベンショー?なに、それ?そんな日本語、ジェーン知らない。ジェーン、イロユキたす
けただけ」
と言いつつ、なにか自分がつごうの悪いことをしでかしたと気づいたらしいジェーン嬢は、そおっと顔を窓の外に引っこめる。
「まちなさい、こらっ!……ところづら!」
あすかはほこりまみれの頭のまま、コトノハ術をくりだしたが
「なんだ?今度は鬼ごっこ?人間のメス。テメエが鬼だな」
わらいながら、ジェーンは追いかけるつるから器用に身をかわす。
それを見て、さらにいきりたったあすかは
「もう!ぜったいにつかまえてやる!」
人間ばなれしたいきおいで、小鬼とヒトの女の子は博物館をとびだしていった。
「……ああ、ちょっと!置いてかないでよ!われたガラスどうするの!?」
とびだすふたりのあとを、あわててホコリまみれで追いかける、こちらはもうただの小学四年生のヒロユキの後ろから、ツノジカの「ヒュイヨー」とわらうような鳴き声が聞こえた気がした。
今回2021.6.12公開分で「消えたツノジカ」は終了です。
目を通していただいた方、ありがとうございました。
このエピソードは完結していますが、キャラクター自体は今後もほかの作品に登場しますので、ごらんいただけるとうれしいです。
明日からは、半年ぐらいほったらかしてた「あやしの診療所」の続編の更新を再開します。
そちらもよろしくお願いします。




