52. ふたたび、展示室(4)
あすかはつづけて
「お兄ちゃんも『ツノジカ団の一員として、イチからがんばりなおす』って言ってたよ。
今までお兄ちゃんはコトノハ術がうまく使えないことがあって、なかなか自信が持てないでいた。学校をとちゅうでやめちゃったこととかもあって、おとうさんとうまくいってなかったの。それでツノジカさまをつれだすなんておそれおおいことをしちゃった。
――でも、そんな気持ちはもう吹っ切れたみたい。『みんなとはちがう、自分ができるやり方でツノジカ団のためにがんばる』って、はりきって言ってたよ。おとうさんもよろこんでる」
「そう、それはよかった」
ほほえむヒロユキにあすかは、ためらいながら
「……でも、ほんとうによかったの?シカさまの声を聞こえなくしてしまったりして」
と聞いた。
じつはこの一連の事件のあと、ヒロユキはまた魔女にこっそり会って、精霊の声が聞こえなくなる薬をもらって飲んでいた。
代金としてたましいの半分でも請求されるかなと思ったら「今回はおもしろいものを見させてもらった」とタダでくれた。
(そのときの魔女のすがたは革ジャンを着た小さな少女だった)
小鬼姫といい魔女といい、やはりこの少年はふつうじゃないものに気に入られる体質らしい。
「――うん。ツノキチのガールフレンドを見つけ出すというのぞみもかなったし、もうこんな力は必要ないでしょ。これで、博物館に来てもやかましいことが無くなったよ。耳鳴りか幻聴かと思ってこわかったけど、ただ展示物のざわめき声が聞こえてただけってわかってホッとしたよ……まあ、ツノキチたちとやり取りができなくなるのはちょっと残念だけど、顔を見るだけならいつでも来られるからね」
あっけらかんと言うヒロユキに、あすかは複雑な表情で
「きみはもうツノジカ団にとって特別な存在だよ。ほんとうは、ツノジカ文書にあるように今後もあたしたちをみちびく存在になってほしいって、おとうさんもお兄ちゃんも思ってるのに……」
ヒロユキがツノキチの声を聞く能力を捨てたと知って、ツノジカ団ががっくりしていることは知っている。でも、そこは少年にしてもどうしてもゆずれない部分だった。
(ぼくみたいなただのこどもに、ツノジカ団なんて「かわった」集団をみちびけるはずがないじゃないか。「えらばれしもの」なんかに思われたらたまったもんじゃない。だいたい……)
「ぼくはまだかむのに来て一週間もたってないんだよ。ほかにしなきゃいけないことがいっぱいある。このあいだの博物館見学の感想文もまだ書いてないぐらいなのにさ」
ここ数日の混乱で、ヒロユキはまんぞくに宿題もできていなかった。どうも先生にも転校早々、ちょっとだらしない子だと思われているみたいだ。
「……そうよね。しかたないことだと思う。きみにはきみの生活のつごうがあるからね」
そう言うあすかもなんだか力がない。まだ、なにか言いたいことがありそうだ。
「どうしたの?」
「じつはあたしもおとうさんに、しばらくツノジカ団の活動にはかかわらなくてもいいって言われたの」
「えっ?なんで?」




