51. ふたたび、展示室(3)
ヒジカタはヒロユキの父と母にかけていた催眠をとき、解放した。
ふたりは訳も分からず、ただ、ぼうっとしていた。
そんな二人にヒロユキは本当の事情、ツノジカ団やネズミ団のことは、いっさいだまっていたのだ。
ヒロユキは
「う―ん。だって、おとうさんとおかあさんが本当のこと知ったらすごく怒るよ。たぶんヒジカタさんたちのことも警察につき出しちゃうと思う」
それはそうだろう。なにせ自分たちをたぶらかし誘拐・監禁したうえ、息子もさらおうとしたのだから。
じっさい、ヒジカタは自首して刑務所に行ってもかまわないと言っていた。
「でも、そんなことしたら、世の中にツノジカ団やツノキチのことが知られちゃう。それだと、あすかちゃんたちもこまるでしょ?」
ツノジカ団の活動は長く秘密にされてきた。それをいまさらおもてに出すのはどうなのかな?とヒロユキはこどもながらに思ったのだ。
「だいいち、シカの像が自分からのぞんで博物館をぬけだしましたなんて言われても、警察の人もこまっちゃうよ。ヒジカタさんも反省してるみたいだし、いいんじゃない?」
いまやツノジカさまの名付け親となったヒロユキの意見をツノジカ団が否ということはない。
ヒジカタは博物館スタッフとして働きなおした。
あすかはヒロユキに礼を言った。
「気をつかってくれてありがとう。それにお兄ちゃんのことも……おとうさんに言ってくれたでしょ。『ヨウスケさんはツノジカの言うことにしたがって動いただけだ』って。きみがあんなふうに言ってくれなかったら、おとうさんはほかの団員の手前、お兄ちゃんをなんらかのかたちで罰しなければならなかったけど、それをせずにすんだ。
そのうえ、きみはツノキチさまの背中にあたしたち兄妹をのせてくれた。あれのおかげで、みんなのお兄ちゃんを見る目がかわったの。なにせツノジカさまの背中にのせていただくなんて名誉なことを経験している団員はほかにいないんだから。あれで、お兄ちゃんがツノジカさまに認められているとみんな思った。
あれがなかったら、お兄ちゃんはツノジカ団のみんなから、いつまでも白い目で見られていたかもしれない。ありがとう」
兄のことを心配していたあすかは、心からヒロユキに感謝していた。
「そんなことないよ」
ふだんクールな少女の、熱っぽいお礼のことばにヒロユキは照れくさそうに手をふった。
ほんとうは、大きなツノキチの背中にひとりでのるのがこわくて、兄妹に声をかけただけなのだ。
なにか良いことをしたように言われても、こまってしまう。




