50. ふたたび、展示室(2)
べつのこどもが、ツノキチのすぐそばにつられている小さなピンクのぬいぐるみに気づいた。
「おねえさん。あれはなに?」
「あれは、ツノキチくんのガールフレンドの『モモコ』ちゃんです。ながらく行方不明だったのですが、最近発見されました。そして持ち主だった方が、ツノキチくんのそばにおいてやってほしいと寄附してくださったのです」
「ふーん。かわいらしいぬいぐるみだね。でもツノがないね」
「メスのシカですからね」
二頭の作りもののシカは、とても仲むつまじくならんでいるように見えた。
「――さあ、ほかの展示物も見てまわりましょう。この博物館にはほかにもいろいろなものがありますよ」
学芸員はこどもたちを連れていくが、そのあとからも見物客が引きも切らずおしよせて、ツノジカの前は混雑しっぱなしだった。
そんなシカ像を、ちょっとはなれたところから見つめるふたりのこどもがいた。
あすかと、ヒロユキだ。
「うーん。おとうさんがモモコを大事に持っておいてくれたからよかったなあ。おかげでツノキチも素直にじっとしているよ」
もちろん「モモコ」という名もヒロユキがつけたものだ。ピンク……桃色だからモモコ。あいかわらずそのまますぎるネーミングだったが、自分の名前には文句を言ったツノキチも、今度はなにも言わなかった。
あすかは
「名付け親であるあなたが動けと言わないかぎり、動くことはないよ。それぐらい名付け親と名付け子の関係はふかいんだから」
「そうかなあ。ツノキチのやつ、全然ぼくのことバカにしてるよ、ちっちゃいニンゲンだって。『自分がちょっと大きいからってバカにしやがって』って言うボナパルトの気持ちも、ちょっとわかるな」
「ふふ。でもネズミ像も、あの場所にいることで満足してくれているから、よかった」
ツノジカのすぐそばに新設された『古代のほにゅうるいのコーナー』には、ボナパルトことカムノキヌゲネズミ像が、古代の森を再現したジオラマのなか、それこそナポレオン皇帝のように前足を上げ、まわりをにらみわたすかのように、りりしく立っていた。
「わあ、やだぁー。このハムスターかわいい」
という女性の声にも、ご満悦のようにみえる。
公園のたたかいのあと、降伏したヒジカタたちネズミ団は解散することになったが、そのための唯一の条件が、博物館の中にネズミの展示場所をあたえてやってくれということだった。
「そうだねえ。あれならもうかむのを支配しようなんてこと思わないだろう」
そう言ってわらうヒロユキを、あすかはふしぎそうに見つめて
「――なんで、きみはおとうさんおかあさんにほんとうのことを言わなかったの?」
と、たずねた。




