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消えたツノジカ―ヒロユキとツノジカ団―  作者: みどりりゅう


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49/53

49. ふたたび、展示室(1)

「――はい、自由観覧のみなさん。こちらが、かむの市立博物館の自然展示室『いまのかむののすがた』です。ゆっくりごらんになってください」


 日曜日のかむの市立博物館は、おおぜいの人でにぎわっていた。

 あのふしぎなツノジカの盗難事件、そして公園でのなぞの集団乱闘さわぎによって、市立博物館はいま、再注目の(まと)なのだ。


「ねえ、おねえさん。ほんとうにこのイタチのはくせいが動いたの?」


 こどもの、ためらいのない素直な問いに学芸員は

「『もちろん』そんなことはありませんよ。その日は急に気温が上がったせいで、公園にいた人たちの頭がぼうっとしちゃって、ヘンなまぼろしを見ちゃったのね」


 先日のツノジカ団とネズミ団のたたかいは、前もってツノジカ団が臨時の改修といつわって公園ごと立ち入り禁止にしていたため、気づいたものも少なかった。

 しかし木のあいだなどからのぞき見たわずかな目撃者が、博物館展示物とニンゲンが争うその異様な光景におどろき画像をアップしたせいで、一時ネット上で大きなさわぎになったのだ。


 ツノジカ団によるすばやい画像削除がなかったら、公園でのたたかいを本当だと思う人は、もっとふえていたかもしれない。


「――まったく。『インチキ』の映像をのせる人がいるからこまります。みなさんもかんたんにネットの情報を信じないように気をつけてくださいね」

 学芸員はピシャリと言いきると、見学者を中央ホールに誘導した。

 もちろん、彼女もツノジカ団の一員だ。


「そして、こちらがこのたび無事に帰ってまいりました当館の人気者、カムノオオツノジカの『ツノキチ』です」


「うわあ、おおきいなあ」

挿絵(By みてみん)

 中央ホールのまんなかには巨大なシカ像が以前のように、でんとそそり立っていた。


「このツノジカ像も、ぬすまれたという『まちがった』うわさがひろまってしまいました。

 事実はまったくそうではなく、その日、補修の業者さんが入ってこの像を一時撤去することを警備係さんが知らなかっただけなのです。そのとき『たまたま』警備カメラがうまく動いていなかったのもまちがった情報がひろまった原因ですね。

 このツノジカ像は盗まれてなどいません。すべて『かんちがい』でした。あやまった情報をおさえられなかった当館にも問題がありました。それはもうしわけなく思っています。

 でも、さわぎになったことで、かえってツノジカさ……ツノジカ像に興味を持って見学の方が増えたのはよろこばしいことです」


 事件後、ツノジカ団と博物館はツノジカ像の盗難などはじめからなかったことにすることに決めた。

 それが一番、いろいろなことを秘密にしておけるという判断からだ。


 ツノジカ団がそうすると決めたら、警察でもマスコミでもなんとかなってしまうのが「かむの」という土地だった。



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