44. ツノジカ(8)
ツノジカは目に見えて(いや、ほんとうは人形だからわからないはずなんだけど)おちこんだ。
あすかが、気の毒そうに言った。
「おとうさんが言ってたよね。一体だけメスのぬいぐるみをつくったけど、大不評だったって。みんなツノジカさまみたいなりっぱなオスジカに期待してるから、ツノもついてないメスのぬいぐるみは人気が出なくて……。
それで、なにかのときの来館者プレゼントに回したんだよ」
(えっ?ツノのない?……そのメスジカってまさか)
「――ねえ。もしかしてだけど、そのメスジカってピンク色?」
ヒロユキがうなだれてる(っぽい)ツノジカにささやくと
≪うん!そうだよ!なんできみ、あの子のこと知ってるの?≫
興奮してたずねてくるツノジカに
「知ってるもなにも、たぶんその子、おとうさんが来館一万人目記念にもらったやつだ。おとうさんの持ってるトランクに入ってるよ」
≪なんだって!?ほんとうかい!?おねがいだ!ボクをあの子に会わせてくれ!≫
「会わせてくれって言われても。トランクの鍵はおとうさんが持ってるし、そのおとうさんはいま、おかあさんといっしょに博物館のネズミ団につかまってるから……」
≪なんだって!?じゃあこんなところでじっとしてる場合じゃない!すぐにでもきみのおとうさんおかあさんを助けに行こう!≫
「それがかんたんにできたら苦労しないよ。いま、ネズミ団はツノジカ団とにらみあっているんだから」
≪それはきみ、だいじょう……≫
―――ぴろりろりん。
ヨウスケのスマホが鳴った。
「……うん?これはどういうことだ?おい、見てみろ」
画面に映し出されているのは、ツノジカ団のだれかが動画として送ってきた、混乱して避難するツノジカ団と、それをうしろから追いかけるちいさなもの……
「……えっ?まさか、これって、アンモナイト?」
博物館の展示物のアンモナイトや巻き貝、それに蝶や昆虫などの標本たちがツノジカ団を追いかけまわしていた。
「かむのの展示物って自分で動きだすような、そんな力があるの?」
ヒロユキがたずねると、ツノジカは首をふり(たげに)
≪もちろんないよ。ボクだって動けるんなら、とっととあの子を探しに行ってるよ≫
「まさか、魔女が力を貸したんじゃ……」
あすかの指摘にヒロユキは
「でも、あの魔女はネズミはキライだって言ってたよ」
「魔女の言うことなんて信用できない。うらで手をにぎってるかもしれないじゃない?」
妹のうたぐりにヨウスケは
「いや、ちがうだろう。たしかに、あの魔女はネズミのことを警戒していたようだ。オレにも、はっきりとはじゃないが
『ツノジカの近くでコソコソうごめいているやつがいる。あんなやつに大きな顔をされたら、たまったもんじゃない』って言ってた。
そのときはわからなかったけど、あれはカムノキヌゲネズミ像のことだったんだ。ネズミと手を組む気なら、オレにあんなことを言う必要はない」
「じゃあ、いったい、だれが……」
≪――ネズミが「名づけ」してもらったなら、無理じゃないかもね≫




