43. ツノジカ(7)
うなだれる兄にあすかは泣きながら
「お兄ちゃんが、本当は一番熱心なツノジカ団員だってことはみんな知ってるよ。おとうさんを尊敬して、立派な団員になりたがってたのも。
そりゃ、今はちょっとぐらいあたしのほうがコトノハ術を使うのが得意かもしれないけど……でも、おとうさんも言ってたでしょ。術をつかえることばっかしが立派なツノジカ団員になることじゃないって。ほかにいくらでも団の役に立つ方法はあるんだから、できることをしっかりこなしていけばいいのに、ヨウスケはそのことをわかってないって」
妹の言うことを兄は、ただうなだれて聞いていた。
はたのヒロユキもなにも口をはさむことなどできない。
ただ、テーブルの上にいる小いやつは、ヒロユキにしか聞こえないと思っているからか、おかまいなしでベラベラとよくしゃべる。
≪――いやはや。まったく、はやとちりだよね。こまっちゃうなぁ~、ボクは神様でもなんでもない、ただの博物館精霊なのにさ。ただちょっと外に出たかっただけなんだよ、いやんなっちゃう≫
そのかるいもの言いにヒロユキは、カチンと来て
「そんな言いかたよくないよ!もともとは、きみが外に出たいってつぶやいたから、こんなことになったんじゃないか?うちのおとうさんおかあさんもつれてかれちゃったんだよ!もうちょっと責任を感じたらどう!?
だいたい外に出たかった、出たかったって、いったいなんなのさ!?なんか見たいものでもあったの!?」
ヒロユキのとつぜんのシカへの説教を、兄妹はおそれおののき見ていた。なにせ、ツノジカさまにそんな無礼なもの言いをする人間など、ツノジカ団には一人もいないのだ。
シカは少年の剣幕に、自分がうかれすぎたと反省したらしい。ちょっとシュンとして
≪……ごめん。ただ、ボクには外に出て探したい子がいたんだよ≫
と静かに言った。
「さがしたい子?いったい、だれそれ?」
ヒロユキが問うと、シカは
≪……うん。あのね、ボクは博物館創立二十周年記念事業のひとつとしてつくられたんだけど、そのとき、いっしょにいろんな種類のぬいぐるみがつくられたんだ。そして、そのぬいぐるみのなかに、一頭のかわいい「メスジカ」がいてね≫
そこでことばをいったん切ると、照れくさそうに
≪……へっへ。その子は展示室のそばに飾られてたから、ボクのほうから話しかけて、すっかりなかよしになったんだけど、ある日突然、どこかに持っていかれてしまった。ボクはそれがかなしくてねぇ。
なんとかもう一度彼女に会いたくて、外に出たいと思ったんだよ≫
ツノジカの説明を聞いて、ヒロユキはあきれた。
(なーんだ。このシカはただ、いなくなったガールフレンドを探すために外に出たがっていたのか。陰謀でもなんでもなかったんだ。ちゃんと事情が分かっていれば、みんなこんな苦労をせずにすんだだろうに、まったく近所迷惑な話だ。
でも、ツノジカがまわりに言いたいことがうまく伝わらないのはしかたなかっただろうし、好きな子とはなればなれになるなんて、かわいそうな話だ)
ヒロユキはヨウスケとあすかに、そんなメスジカにおぼえはないか聞いてみた。
「――たぶん、それはうち(河野製造)が記念事業に合わせて作ったノヴェルティ・グッズだね。だいぶん前の話だし、一回しか作らなかったはずだから、どこに行ったかはわからない」
≪――そんな≫




