42. ツノジカ(6)
「オレはたまたま大そうじの時にその日記を見つけて知っていた。だから魔女に相談をしに行ったんだ。オレが会ったときの魔女は、ヒロユキのときとちがって、毛皮のコートを着た金持ちのおばさんっていう見た目だったな。
魔女には、こまかいことは何も言わなかった。ただ、大きなものをこっそり運ぶのにいい術は無いかとたずねたんだ。
魔女は最初はしぶってたけど、じいさんの名前を出すと協力してくれた。なんでも吸血鬼との戦いのとき、じいさんに命を救ってもらったらしい。
『くやしいが、おまえの家には義理がある』って言ってたよ。そして、チビリタンXをくれたんだ。――でも、やっぱり魔女はオレがなにをする気なのか、うっすらわかってたんだろうな。わかれぎわに言われたよ。
『なにをしようとあたしの知ったことじゃないが、あんたがヘタをうったら、ヨウゾウは悲しむだろうね。あの男にはさんざんやりこめられてきたから、その方があたしにはいい気味だが』」
ヒロユキには、皮肉なものいいをする魔女のすがたが目にうかびそうだった。にくまれ口はたたくけど、あの魔女はやっぱりそんなにわるいものじゃないように思えた。
「オレは魔女のことばなんか気にしなかった。オレは正直言うとうれしかったんだ。オレはツノジカ団の団長の家に生まれたのに、コトノハ術をまんぞくに使うこともできない。いま、ツノジカ団みんなが博物館にかけつけているこんな時でも、オレは戦力にならないからと家で留守番だ。
学校も中退して家でぶらぶらしているだけで、役立たずと団員のみんなに思われているのも知っている」
「そんな!そんなことないよ」
なみだぐんで首をふるあすかに、しかしヨウスケはことばをつづけた。
「そんな役立たずのツノジカ団員のオレが、父さんにも聞こえないツノジカさまの声を聞いたんだ。ツノジカ文書にある『えらばれしもの』になるんじゃないか、ヒーローになれるんじゃないかとオレは思った。そして、思いきってツノジカさまをはこびだしたんだ」
しかし、そこでことばを切ると、ヨウスケは下を向いた。
「……でも、そうやって苦労して連れ出したのに、それからオレにはツノジカさまの声がいっさい聞こえなくなった」
≪そうなんだ。こっちはいっしょけんめい話しかけているのに、この子ったらキョトンとした顔するだけなんだもん、ガックシさ。たぶん、あの強い神気をもった博物館の中だから、かろうじてボクの声が聞こえたんだろうね≫
「オレが聞いたのはただの空耳だったんだろうか。もしそうだとしたらオレはとんでもないまちがいをおかしたことになる。オレはおそろしくなって、とりあえずツノジカさまを、会社の返品されたツノジカ人形のたばにかくした。そこが一番目立たなかったんだ。
みんなが必死になってツノジカさまの行方をさがしているのはわかっていたけど、こわくてどうしても言い出すことができなかった。……もうしわけない」




