41. ツノジカ(5)
≪う――ん、そんなおもおもしく言ったおぼえはないけどなぁ。ボクはただちょっと「外に出てみたいなぁ」って、つぶやいただけなんだけど。
……たまにいるんだよ、きみほどじゃなくてもボクらの声をちょこっと聞けちゃう人って。とくにそのヨウスケって子はツノジカ団っていう、なにかボクのことをとても尊いものだと思いこんでる「ヘンな人たち」のひとりだろ?≫
ツノジカはあすかたちが聞いたらショックで倒れそうなことを平気で言うと、つづけて
≪だからボクのつぶやきを、なにか神さまの声かなんかとカンチガイしちゃったんだ。きみみたいに、ボクらととどこおりなくやりとりができる子がそばにいれば、こんなことにはならないんだろうけどなぁ≫
あがめてるツノジカさま本体が、実は自分たちのことをヘンな人たちの集まりだと思っていた、なんてツノジカ団に知られたら大変なことになる。
ヒロユキは、そのあたりはぼやかして、たしかにツノジカは外に出たがっていた、ということだけあすかとヨウスケに伝えた。
ヨウスケはうれしそうに
「やっぱりオレはまちがってなかったんだな!……でも、そのときそんな声を聞いたとは、オレはだれにも言えなかった。父さんにそんなことを言ったら『バカなことを言うな』とドヤされるか、悪ければツノジカさまを冒涜したウソツキとしてツノジカ団を追放されるかもしれないからな。
オレはなやんだ。しかし結局、ひとりきりでツノジカさまの声にしたがうことにしたんだ。それこそが正しいツノジカ団員のありかただと思ったんだ」
(へえ。この人はツノジカなんてなんとも思ってないように言ってたけど、ほんとうは、すごく熱心なツノジカ団員だったんだな)
ヒロユキには意外だったけど、妹のあすかには、ヨウスケのそんな本当の気持ちはお見通しだったのだろう。だまって兄の手をにぎっている。
「――それで、おれは魔女の力をかりることにしたんだ」
「よく魔女となんて連絡がついたのね。魔女の居場所なんて、おとうさんでも知らないはず……」
「あすかは知らないだろうな。うちのヨウゾウじいさんは、たしかにあの魔女と敵として何度かやりあったけど、じつは協力した時もあったんだ」
「えっ?そうなの?」
「ああ。むかし戦争が終わってすぐのころ、かむのに吸血鬼の一団が侵入して、戦後の混乱のどさくさに住民の生気を全て吸い上げようとしたことがある。そのとき、じいさんたち町衆とあの魔女は協力して、鬼どもを追っぱらったんだ。あの魔女は人間にわるさをすることはあっても、ほろぼす気はなかったからね」
「……あの魔物ぎらいだったおじいさんが?そんなこと知らなかった」
「じいさんもかむののためとはいえ、長年の敵と手を組んだことを人に言うのははずかしかったらしい。息子である父さんにも言わなかったんだ。ただ、そのことについて日記には書きのこしていた。そして本当にツノジカ団がこまったときのために魔女と連絡をつける方法ものこしていたんだ」




