40. ツノジカ(4)
「ぼくがこの写真をよく見ようとしたとき、急にヨウスケさんがフキゲンになったでしょ?それを思いだして、わかったんだ。……そりゃ、ぼくにはぜったいにこの写真を見られたくなかったはずだよね」
集合写真のなか、まだわかいヨウイチロウに手を持たれた小さな男の子は、ヒロユキが博物館ですれちがったこどもにちがいなかった。
ヨウスケはボソボソと語りだした。
「――ヒロユキの言うとおりだ。オレは魔女から手に入れたチビリタンXを飲んで、こどものすがたにばけて博物館に入場し、ツノジカさまにこっそりチビリタンXをかけてヌイグルミ化させて、それを持ち出した。オレはもちろん、博物館の監視カメラの配置を把握しているから、自分の顔が映らないよう気をつけることができた。――でも、まさかあすかが学校から見学に来てるなんて思わなかった。おまえ、そんなこと言ってなかったろ?」
ヨウスケは妹を上目で見た。
「博物館なんてしょっちゅう行ってるから、いまさら言う気がしなかっただけだよ」
妹は青ざめた表情のまま兄に言った。
「あすかのすがたを見たときはあわてたよ。なにせ、さすがにおまえならオレの顔を見たら気づくかもしれないからな。それで、おまえが展示室から姿を消した後、あわててツノジカさまのもとに行ったんだ。もうだれものこっていないと思ってたんだ。けど、そこにはヒロユキがいて顔を合わせてしまった。まずいなとは思ったけど、小学生ひとりぐらいに顔を見られてもだいじょうぶだろうと思ってツノジカさまの持ち出しを実行した。まさか、そのあとその子がウチに連れてこられて顔を合わすことになるとは思わなかった。
ヒロユキはオレの顔にちっとも気づかなかったが、正直いまにもバレるんじゃないかと、話しながらヒヤヒヤしていたんだ。家族写真を見られそうになったときは、もうおしまいかと思ったよ」
ヨウスケは苦笑しながらヒロユキの顔を見た。
そういえば、ヨウスケはヒロユキと話すとき、うつむきぎみだった。
内気なせいだと思っていたが、無意識のうちにヒロユキに顔を見られることをいやがっていたのだろう。
そんな、たんたんと語る兄のようすにあすかはたえられなくなったらしく、さけんだ。
「なんで!?なんでお兄ちゃんがツノジカさまをぬすんだりしたの?」
それに対してヨウスケは力なく、しかしどこかほこらしげに言った。
「……それはもちろん、ツノジカさまの『ご指示』をいただいたからさ。おれが一人勝手にこんなおそれおおいおこないをするはずがない。
たまたまツノジカ団の巡回で博物館にいたときに聞いたんだ。
『わたしは博物館の外に出なければならない』と、おっしゃるツノジカさまのささやきを」
(そうか。ヨウスケさんもヒジカタさんと同じで、精霊の声をちょっとは聞けるんだな)
ヒロユキが思わず机の上のツノジカを見ると、ヌイグルミ大の像は、心なしか目を泳がせた。




