39. ツノジカ(3)
≪う――ん、おどろくのはムリないね。ボクも自分自身がこの大きさになれるなんておどろきさ。さすが魔女の薬はすごいねぇ。でも、せっかく博物館の外に出たっていうのに、こんなところで身をひそめてるだけになっちゃって、つまんなかったよ≫
そんなツノジカのぼやきを聞き取ることのできないあすかは、ヒロユキに
「なんで!?なんでツノジカさまがうちの倉庫に?それもぬいぐるみにまぎれて!」
と、せまった。
ヒロユキは冷静に
「そりゃ、このシカをつれだしたものが、この家にいるからだよ」
「……つれだしたものって、あの映像にのこっていた男の子のこと?でも、うちにあんなちいさいこどもはいないよ!」
「そうだね、いまはいない」
そう言うと、ヒロユキは集会室の壁にだいじそうにかけられているむかしの河野家の家族写真を見上げた。
「――ああ、やっぱり。はじめに、この写真をきちんと見さえしておけば、事件はすべて解決してたんだ。もっとよく見ておけばよかった……って言ってもしかたないか。これ、何年前の写真だったっけ?」
ヒロユキがゆびさすのは、まだ赤ん坊のあすかを抱きかかえた祖父ヨウゾウを中心とする家族の集合写真だ。
「だから、あたしが生まれてすぐの『お宮参り』だから十年ちょっと前だよ」
「ふうん」
写真をしげしげと見ながら、ヒロユキは
「……あのね、魔女はぼくにチビリタンXをわたした相手のことは教えてくれなかったけど、実はこっそ
りヒントをくれてたんだ。
魔女はこう言ってた。『チビリタンXは液体型でおすすめだ。かけても飲んでも……』って。『かけても飲んでも』つまりチビリタンXは、このツノジカみたいな動かないものには、ちょくせつ薬をかけて、そのままのかたちでちいさくするけど、人間みたいに生きてるものは、飲んでつかってもいいんだ。そして、その飲んだときの『ちいさくなる』っていう意味は、そのままのすがたでちいさくなるってことじゃない。自分がちいさかったときの『こどものすがた』にもどることができる、ということだったんだ。
こどものとき……チビ・リターン。
そう。このツノジカをぬすんだ犯人は、ツノジカにだけでなく自分にもチビリタンXをつかったんだよ。ちいさいこどもならば、博物館のチケットもいらず出入りチェックもないから、手がかりになることがほとんど残らない……と犯人は知っていた。
しかも、もし仮に博物館の中であやしまれたとしても、こどものすがたなのは一時だけで、そのあとは、もとのすがたにもどっているから、そんなこどもをさがそうとしても、どこにもいやしない。犯行としては完ぺきだ。
……でも、そこまで考えて、ぼくはちょっとふしぎに思ったんだ。
もし、こどものときのすがたでツノジカをぬすみだしたとしたら、なんで犯人はあそこまで防犯カメラで顔がうつらないように念入りに注意しなければならなかったんだろう?顔が写っていたとしても、いまのすがたとまったくちがうなら、ふつうは気づかれずにすむだろうに。もっと堂々としていてもよかったんじゃないか?
考えられるのはひとつだけだった。犯人は自分のこどものときのすがたを知っている人に、映像を見られると知っていたんだ。いくら今とは全然ちがうすがたといっても、自分のこどものときを知っている『家族』に顔を見られては、すぐにバレてしまうからね」
奥でガタッという音がした。
おもわずふりかえったあすかの目の前に立っているのは
「お兄ちゃん……」
うなだれたヨウスケだった。




