38. ツノジカ(2)
「……あすかちゃん。あの段ボール箱、見ていい?」
「えっ?いいけど、急になに?それはうちの商品の返品だよ。ぬいぐるみの縫い目がおかしかったり、汚れがついちゃったりした不良品。そんなのより、こっちにきちんとした正規品があるよ」
「いや、こっちのほうがいいんだ」
そう言いながら、ヒロユキは段ボール箱に入ったツノジカのぬいぐるみたちをあさる。
そして、しばらくとっかえひっかえそれらの不良品を吟味していたが、一個のぬいぐるみを手にすると
「……ほら、たとえばこれなんか。ほかのとちがって、ツノの大きさもまだら模様の入りかたも右と左でズレてる。ふぞろいなぶんリアルだ。それにこの目なんかちょっと黄味がかって、あのぼくが博物館で見たツノジカ像によく似てる――っていうか」
ヒロユキは、まるでそのぬいぐるみに語りかけるように
「ホンモノ、だよね?」
「――えっ?いったいなに言ってるの?ヒロユキ」
あすかの不審の声も無視して、ヒロユキが手に持つぬいぐるみをじっと見つめていると
クリッ。
目玉が動いたかと思うと
≪――バレたか≫
なんと、そのぬいぐるみが(ヒロユキにだけ聞こえる声で)しゃべった!
あすかも、ヒロユキが持つもののおかしさに気づいて、かたまっている。
「――魔女の持ってたじゃらじゃらとしたキーホルダーを見てるうちに、こないだおとうさんに聞いた話を思いだしたんだ。むかしから推理小説には『木をかくすには森の中がいい』っていう言葉があるんだって。似たものの中にまぎれこませてかくしたら、そりゃ見つけにくくなるよね」
「……ヒロユキ?いったいなにを言っているの?」
あすかがたずねると
「――ああ、あすかちゃんはこの子の声が聞こえないんだったね。でも、ぼくにはこの子の声が聞こえる。まちがいない、このぬいぐるみが博物館から消えたツノジカ像だよ。こうしてぬいぐるみの大きさにまでちいさくされて持ち出されたんだ。ねっ?」
気がるい感じで話しかけると
≪そうさ。まったく人間ってのは、ボクら博物館精霊とやり取りできるものが少なくてこまるよ。そのせいで、ここのツノジカ団みたいに、かってにボクのことを神様あつかいするものがでてきちゃって、嫌になっちゃうよ≫
机にちょこんと置かれたツノジカは、ヒロユキにだけ聞こえる声でわらった。
ただのぬいぐるみにしか見えないツノジカに、あすかはおそれながら近づくと
「これが……ツノジカ、さま?」
ふるえながら言った。




