37. ツノジカ(1)
ヒロユキがもどってきたのは、ツノジカ団の本部・河野製造だ。
全員、博物館にむかったのか、しんとしている。しかし、照明はついているし、とびらも開いているようなので
「こんにちは。だれかいませんか?」
と、声をかけると、奥でガタッというはげしい音がして、とびだしてきたのは
「ヒロユキ!?無事だったの?」
あすかだった。
興奮したようすで、ギュッと手をつかんでくる少女にどぎまぎしながらも、ヒロユキは
「あすかちゃん……ああ、よかった。ほんとにどこもケガしてないんだね?――ほかのみんなは、博物館?」
「ああ、そのこと知ってるの?――うん、今おとうさんたちが博物館を取り囲んでる。たたかいはいまにも始まりそう」
不安そうな顔を見せた。
「あたしも行こうとしたんだけど、ヒジカタさんとの戦いでちょっと力をつかいすぎたし、今回はこどもには危なすぎると行かせてもらえなかった。
それよりいったい、ヒジカタさんにさらわれたあとなにがあったの?小鬼たちが博物館におしよせて、それで地下にひみつの集団がひそんでいるってわかったの。まさか博物館の地下に、古いネズミ像をあがめる集団がいるなんて思わなかった!」
「ああ、ぼくは小鬼たちにたすけられたんだよ。そして、そのあと魔女に会ってた」
わかれぎわ、魔女は自分のことをツノジカ団に話すのはかまわないと言っていた。
「知られたからと言って、あたしをどうこうできるような奴は、いまのツノジカ団にはいないからね」と。
「魔女!?まさかヒロユキ『かむのの魔女』に会ったの?……そんな、あの魔女ってまだいたの?何十年とゆくえが知れないから、もういなくなったと思われてたのに。
でも、もしそれが本物の魔女だとしたら、よく生きて帰ってこれたね。あの残虐な魔女と会って、そのままのすがたでかえってこれる人なんて本当に少ないんだよ。ほんと、なんともない?」
なにかおかしくなってないかと、じろじろ自分を見わたすあすかに
「うん、だいじょうぶだよ。ちょっとこわかったけど、そんなにむちゃくちゃわるい人には見えなかったよ。ただのハデな女子高生みたいだった」
「それは仮のすがたよ。あの女の人の本当のすがたはだれも知らないの。亡くなったウチのおじいさんは何度かやりあったらしいけど、ふつうの人じゃ一発でやられちゃうわ。おとうさんでも『自信ない』って言ってたぐらい。
いったい、なんであんな魔物と会ったの?まさかツノジカさまがあの魔物の手に?」
「いや、それはないって言ってた。ただ……」
魔女のつくった薬・チビリタンXが、事件にかかわっているだろうということは伝えた。
あすかは、事件に伝説の魔女の薬がかかわっていると知っておどろいていたが
「とにかく休んでて。あたし今、おとうさんに連絡入れるから」
そう言って、あわててツノジカ団の共有PCからメールを送る少女ごしに、ヒロユキは倉庫にうず高く積まれた段ボール箱を見つめた。




