36. かむのの魔女(5)
「――ふうん。どうやらさっきの小鬼たちのさわぎで、いままで地下室にすがたをひそめてたネズミ団のことが、ツノジカ団にもバレてしまったらしいね。ネズミにしてみればツノジカ団におさえられる前に先手を打ったってことだな。それで、ツノジカ団はどうした?……博物館をとりかこんで?今はにらみあっている状態というところか」
「ネズミ団とツノジカ団が?だいじょうぶでしょうか?」
ヒロユキが心配そうにたずねると
「だいじょうぶ?ああ、あんたはツノジカ団のむすめの級友だったね。……まあ、数だけでいったらツノジカ団の方が優位だろうけど、あのネズミのことだ。ほかの展示物もたらしこんで仲間に引きこむだろう。口がうまいからね。そうなったら、ツノジカ団も苦戦するだろうな。あのにくったらしいヨウゾウが生きてたらまだしも、ヨウイチロウの小僧ぐらいじゃねえ。
――しかし、あんたが逃げ出しておいたのはツノジカ団にとっては救いだね。あんたがつかまったままだとしたら、この戦いは勝負がついてた」
わけのわからないことを言う。
そりゃ、人質がいれば優位に戦いをすすめられるかもしれないが。
「まあ、あの二つのグループが全面的にやりあったら危ないね。このあたりぐらい、かるく吹っとぶよ。そうなったら、あたしにはただおもしろいだけだが……人間はそうはいかないだろうね」
おかしそうに言う魔女に、ヒロユキはちょっとおこりながら
「そんなふきんしんなこと言わないでください」
なんといっても、あの博物館には両親がまだとらわれているのだ。
ヒロユキが立とうとすると、魔女は
「どこへ行く気だね?いまのあんたが博物館に行ったりしても、なんの役にも立たないよ。むしろ、混乱をまねくだけだ。それよりもツノジカを探したほうがいい」
「じゃあ、ツノジカをぬすんだものを教えて……」
「それは自分でやりな。あたしには言えない」
なに?この人。協力してくれてるんだか、くれないんだかよくわからない。それとも、ただ、こどもをからかって楽しんでいるのだろうか。
とほうにくれたまま、ヒロユキは席にすわりなおすと溶けかけのクリームをなめた。
(おちついてかんがえてみよう。ツノジカをチビリタンXで小さくしたとして……犯人はいったいそれをどこにかくすんだ?持ち歩いているんだろうか?……えっ?ちょっとまてよ)
ヒロユキの目にとまったのは、魔女の持つハデなボストンバッグだ。
そこにはドクロや生首、むき出しの目の玉といった趣味のわるいキーホルダーが、ジャラジャラとつられている。
「まさか、そんな……いや、でも」
ヒロユキはしばらく考えていたが
「……あの、魔女さん。もしかして、さっき言ってた『意識に目覚めた展示物』のなかにはツノジカ像も入ってるんですか?」
「そりゃそうさ。あいつが置かれていた展示室は、博物館のなかでももっとも神気が濃いところだ」
「じゃあ、ツノジカ像にも意識っていうか、自分の意思があるんですね?」
「まあね。ただツノジカ団のように、まるで神様のようにありがたがる、そんな大したものはなにもない。あのシカは、ただの人見知りなシカさ」
(シカに人見知りがあるなんて初耳だけど……でも、それなら、もしかするとツノジカをぬすんだ犯人っていうのは……)
立ち上がったヒロユキを、魔女は今度はとどめなかった。
「――どうやら、目当てはついたらしいね。まあ、あたってるかどうかは知らないが……もし、その盗っ人に出会うことがあったら、言っといてやっとくれ。『おまえは愚かだ』って――あっ、また円が高くなったな。輸出系の会社はやめとくか」
魔女は、そう言うとスマホを見つめたまま、もうヒロユキに目を合わすことはしなかった。




