35. かむのの魔女(4)
少年のけんめいの追及に、魔女はニヤリとわらって
「……なんだね、あんたけっこううまく問いつめてくるじゃないか。でも、これ以上はダメだよ。あたしらは、客の情報は守るものさ。小鬼たちと接していれば、それはわかるだろう?あたしたちの世界は意外と信用で成り立ってるからね。これ以上そのことについて聞くと、その舌をヘビにかえるよ」
「でも……」
「くどいよ」
魔女のドスのきいたもの言いにヒロユキは一瞬ひるんだが、しかし父と母を助けださねばならない。おびえてなどはいられないのだ。
「……じゃあ、質問を変えます。もし魔女さんが、だれにもわからないようにあのツノジカ像をぬすむとしたら、いったいどうやりますか?」
少年のせいいっぱいの問いに、魔女はニィッとわらって
「頭がいい子だね、あんたは。なかなか根性も見せるじゃないか。あたしはそういう子、キライじゃないよ。その勇気にめんじて教えてやろう。――そうだねえ、あたしがあのツノジカをぬすむとしたら……そりゃ『小さく』してからぬすむだろうね。あの像ははこぶには大きすぎる」
「ちいさく?そんなことできるんですか?」
「そりゃ、なんでもない。あたしの持ってる『チビリタンX』なんてのは、液体型でおすすめだね。かけても飲んでも……あのツノジカぐらいなら一瓶かければ、あっという間にポケットに入る大きさになるさ。売ってやろうか?お代はあんたのたましい半分ってとこさね。なんなら十カ月の分割払いでもいいよ」
なんだ、そのドラえもんの秘密道具みたいなふざけた名前は。
でも、そんな薬があるとしたら、たしかにこどもひとりでもあのシカを苦なく運べる。
「その薬をいったいだれに……?」
「客の個人情報はこたえないと言ったはずだよ。これ以上しつこいと、ほんとうにその舌をこうするよ」
そう言いながら、魔女がパフェのスプーンをふると、それはまるで飴細工のようにぬらぬらとしたヘビの形に変わり、のたくりながらヒロユキをシャーッ、シャーッと威嚇してくる。
「それ以上は、聞かない方が身のためだと言っておこう」
さすがにどうすることもできずに少年がだまっていると、店の中に上品な青毛の猫が入ってきた。
「おお『伯爵』。こっちだ、おいで」
魔女が手まねくと、その猫はひょこひょこと寄ってくる。
「お客さま。当店ではペットの入店はおことわりして……」
と、店員が声をかけると魔女はうるさそうに手をかざす。
すると店員は
「――失礼いたしました」とあっさり引っこんだ。
まわりのお客さんは、その異常に気づかない。
いや、気づいてもなんとも思わないようにさせられてしまっているのだった。
魔女はおかまいなしでその伯爵という猫をだきかかえると
「どうだい?腎臓の具合は?……もうだいぶにいい?ふうん、あのヤブ医者でもたまにはちゃんとした薬わたすんだねぇ、そりゃよかった。あんたもそこそこの年だから気をつけないとねえ」
猫なで声で話かける。
「それで、なんだい?……えっ、ネズミたちが博物館を占拠?」
とつぜんの知らせにヒロユキはおどろいた。




