33. かむのの魔女(2)
裏ピースっぽく自分を指さすと、外見ににあわない力強い握手を少年に求めてくる。
ツノジカ団長といいこの女子高生といい、どうもかむのの(ふつうじゃない)人は握手が好きらしい。
「うまそうなもん食ってんね。あたしもそれにしよう……ヘイ、女給!あたしにもこの冷やし菓子をおくれ!覆盆子のやつな!」
まわりのことをまるで意に関しないように大声でがなりたてる。
(「人の目につくようなマネはしたくない」って、これじゃ、まる聞こえだよ。それにしても魔女って……どういうこと?)
パフェをまつあいだに、その自称・魔女はヒロユキをじろじろ見つめて
「……ふうん。小鬼がみょうに肩入れしているみたいだから、どんなにカネを持ってる家の子かと思ったら、なんだね、ただのきたない格好したボウヤじゃないか。とくに金持ちな感じもないねえ」
(そりゃ、きのうから今までおんなじ服を着っぱなしで、しかもさっきまで、ほこりっぽい部屋や地下の道をとおってたから、きれいではないだろうけどさ)
まるで値踏みするようにじろじろ見てくるので、少年は居心地が悪い。
「――先に言っとくけど、あたしはもう世間とはなれて暮らしてて、あまりかかわりをもちたくはない。ほとんどのものは、もうあたしはこの土地にいないと思ってるはずだ。
けどまあ、あの小鬼たちとは、たまにこっそり、ものを売り買いする付き合いがあるからね。その紹介ってことで特別に会うことにしてやったんだ―――ああ、こいつはつめたくて歯にしみるけど、うまいね」
とどいたパフェをスプーンで口にはこびながら、魔女はスマホを操作した。
「最近は、取引もこんな機械でかんたんにできるから、手軽でいいやね」
見た目はわかいが、老眼らしい。画面をむずかしい顔で見ながら魔女は
「あっ、また『かむの工業』の株が下がってる。もう、発展はないかねえ。いいかげん売っちまおうか?」
陽気な口調でかってな投資話をしていたが、そのあいまにフッと
「――まあ、5分だけやろう。なにが聞きたい?ただし、あたしのキゲンをそこねたら、すぐにカエルかなんかにしてやるよ、覚悟おし」
ガラリと変わったドスのきいた声音でこどもをおどした。その目はちっともわらっていない。
ヒロユキは、向かい合うものがはなつ迫力に体をこわばらさせつつも、ひざに置いた両手に力をこめると、がんばって言った。
「……小鬼さんたちから聞きました。今度のツノシカの盗難事件にはあなたがかかわっているかもしれないと」
「――へえ、小鬼らがそんなことを言ったのかい?」
魔女はスマホから目をはなさず、口元だけゆがめて笑った。
「ずいぶん思い切ったことを言うじゃないか。あたしの名前をヘタに出して、機嫌をそこねたらどうなるかわかっているだろうに。あいつら全員をモグラにかえて、タイヤ置場の下から二度と出られないようにしてやるぐらいかんたんなんだよ――おっ、『かむの紙業』は調子よさそうだね、1000株ぐらい買っとくか?」
そのなにげない口ぶりに、ヒロユキはぞくりとするものを感じた。
(まちがいない。このひとは本物の「魔女」だ。本当にかんたんに、ぼくたちをカエルやモグラにかえられる……)




