32. かむのの魔女(1)
ヒロユキは、地下鉄かむの駅前にある喫茶店「影法師」でチョコレートパフェを食べながら、ひとりすわっていた。
小鬼が言うところの「ツノジカをぬすみだせそうなもの」を待っているのだ。(お代は小鬼が出してくれた)
ジョーンズは、そのいまから会うもののことについて、くわしいことは何も教えてくれなかった。
「自分で会って、たしかめなせえ。人の目につくようなマネはしたくない、というのが相手の意向でさあ」
とにかく、会わす段取り以外、なんにも自分たちはかかわっていないということを示しておきたいようだった。
(ああ、きんちょうするなぁ)
なにせ今から会うのは、あの小鬼たちも会うのをしぶるというぐらいおそろしい相手なのだ。ただの小学四年生には気の重い話だった。
(パフェはおいしいけど)
ヒロユキは複雑な思いで、チョコレートとバナナとアイスをつぶして混ぜたところをスプーンですくってなめた。
ママ友の集いらしい、おくさま方が奥の席からこちらをチラチラ見ているのが気になる。こんな昼すぎの時間に、こどもがひとりでいるのをヘンに思っているにちがいない。
(ああ、その相手ってのも、あんまり人に知られたくないんなら、何でこんな目立つところで会うんだろ。ぜんぜんわけがわからないよ)
時間も時間だから、お店には、おそい昼食やかるいお茶を楽しむお客さんが多い。駅前だけあって、お客さんの種類も主婦やサラリーマン、学生など、さまざまだ。そんななか
――カランコロンカラン
入ってきたのは、いまどきめずらしい、顔を真っ黒に日焼けさせて、ド派手なメイクをした女子高生だ。ミニスカートにルーズソックスすがたで、じゃらじゃらいっぱいのキーホルダーをつけたボストンバッグを手にあらわれた。
(わあ、すごいな。「ガングロ」だ。ふるいテレビでしか見たことないや。このあたりには、まだああいうのがのこってるんだな)
しかし、かむのでもそんなハデな女子高生はやはりめずらしいらしい。女の子の登場にお客さんも少しおどろいたみたいで、ママ友も顔を見あわせながら、しげしげと見ている。
しかし、その女子高生は、そんな視線も一向に気にせず、まわりを見わたすと
(えっ?)
まっすぐヒロユキの席に向かうと
ドンッ!
少年の目の前にこしかけた。
「えっ?あの……席はほかにも空いて……」
ヒロユキがとまどっていると
「――あんたかい?あたしに会いたいっていう命知らずのボウヤは?」
その、いかにもハデな女子高生にしか見えないものの口から発されたのは、若さのかけらもない、しわがれきったハスキーボイスだった。
「あたしがこのあたりを仕切ってる『魔女』だ。ヨロシク」




