17. ツノジカ団(9)
その不穏なようすにヒロユキは
「あっ……ごめんなさい」
と、恐縮して食卓にもどった。
座がしらけてしまったのをもうしわけなく思った少年は、場をもりあげるつもりで
「――でも、河野さんの家はすごいんだね。みんながツノジカ団として活動してるんだ」
と、かるい感じで言うと、
ヨウスケは「ふんっ」と鼻を鳴らし、にがにがしい表情で
「すごくなんて、ぜんぜんねえよ、ツノジカ団なんて。ツノジカ像を守る活動なんて、なにもいいことなんかありゃしない。オレもあすかも、こどものときからあのツノジカさまを中心に生活が回ってて、まともな家の生活なんて送ったこともない。
なにせ、ツノジカさまのもとをはなれるわけにはいかないと家族旅行の一つもまんぞくに行ったことが無いんだからな。 そんなことまでして、いったいあの像にどんな価値があるっていうんだ?
……正直おれには、あのだまりこくったツノジカにそんな値打ちがあるとは思えない」
と、はきすてるように言った。
あすかはそんな兄をとりなすように
「お兄ちゃんたら、またツノジカさまに滅相もないこと言って。おとうさんに聞かれたらおこられるよ」
「あすかは熱心なツノジカ団員だからな。おれとちがってコトノハ術を使うのもうまい。おれはなんの役にも立たないから父さんの目がきびしいんだ。――まあ、おれはツノジカ団になんか興味がないからいいけどな。おれはおまえがあまりにツノジカ団に手を取られすぎて、ふつうのこどもらしい暮らしができてないことが心配なんだ」
「あたしは自分からのぞんでやっていることだからいいよ」
妹がこまったように言うと
「……そうか?そんなふうに見えないけどな」
ヨウスケはヒロユキのほうを向いて
「……きみもそうだぞ。あんまりツノジカ団になんかかかわらない方がいい。ツノジカ団が活動している世界は、きみがふだん生きている世界とはちがっている。だから、あすかも学校でそんなに親しい友だちを作らないようにしているんだ。まきこむとあぶないから」
ヨウスケの思いがけないことばに、ヒロユキはへえっという顔であすかを見た。
「そういう事情があったんだ。河野さんってやさしいんだね」
少年のことばに少女もおもわず顔を赤らめるが、ごまかすように
「あたしのことはどうでもいい。でもお兄ちゃんの言うとおり、たしかにきみはあたしたちにかかわらないほうがいい。今回の件でも、おとうさんはいろいろ言ってたけど、ほんとうは事件が解決するまで、きみはじっとこの家にひそんでいる方がいいんじゃないかと思う」
と、忠告した。
ヒロユキは少し下を向くと
「――そうだろうね。だってあの黒い男の人たちなんて、ほんとうにこわかった」
「なら……」
「『でも』もうおそいよ。ぼくのおとうさんとおかあさんはあの人たちにつかまっちゃってる。
警察の人もたよりにならないんなら、ぼくも少しはなにかしなきゃ」
「そんなもの、ツノジカ団にまかせときゃいい」
「でも、あのツノジカ像を取りかえすためには、ぼくの協力がいるでしょ?ぼくしかあの小さな男の子に会ってないんだから。ツノジカをさがすとちゅうでおとうさんたちを取りかえす手がかりが得られるかもしれない。――やっぱり、ぼくもツノジカ団についていくよ。たすけてもらったんだもの。恩返しをしなくちゃ」
そんな、小学四年生なりにせいいっぱいカッコつけた言葉に
「……きみって、意外とまともなこと言うのね。ただふわふわして、たよりない子と思ってた」
あすかにあっさりと言いきられて、そんなふうに思ってたのかとガックシ来るヒロユキだった。




