16. ツノジカ団(8)
「ありがとう、河野さん。おいしいよ」
「そう」
そっけないあすかは、兄の分のごはんも別に仕上げて、テーブルにあげている。
なんでもヨウスケとあすかの母親は早くに亡くなったとかで、あすかが河野家の家事全般を見ているらしい。
ヒロユキは自分と同い年の女の子がてきぱきと家事をこなすのにびっくりして
「すごいね、河野さん。ぼくなんか、たまにおかあさんに言われて皿洗いをしたり、じゃがいもの皮をむいたりするぐらいだよ」
「それだけするならえらいよ。そこのヨウスケなんて何にもしない。
死んだおばあちゃんやおかあさんが男の子にはなんにも家のこと手伝わさせなかったから、この家の男どもは家のことが全然できない。
それでしかたないからあたしがしてる」
と食卓にむかう兄に目をやった。
「……わるかったな、なにもしなくて。じゃあ皿洗いでも手伝うよ」
そう言って静かに、玉ねぎとベーコンのいためものを口にはこぶ兄に対し
「やめて。お兄ちゃんにやられたらお皿が割れて用事が増えるだけだから。パソコン以外はさわらないで」
学校でのクールなようすとちがって、家の中、というか兄のまえではこの少女も意外と感情を素直に出すようだ。
そんな兄妹のほほえましいやりとりを、きょうだいのいないヒロユキはちょっとうらやましく思った。
ここは河野製造の会議室……というかツノジカ団の集会室なのだという。
ホワイトボードや資料が置いてある。団員で集まって食事をとることも多いとかで、テーブルが大きい。
ただ、今はほかのツノジカ団員がツノジカ探索で出ずっぱりで、3人しかいないせいか、ちょっとさびしい。
壁を見ると、写真が何枚もかざられていた。
「――あれって、もしかしてヨウゾウさん?」
「そうだよ」
そこには、安全帽をかぶったおじいさんが土のなかからなにかを掘りだしたところが写しだされてい
た。
「あれが、うちのおじいさんがツノジカさまのご聖骸を掘り当てた記念すべき日の写真。あの日からツノジカ団の活動がはじまったの」
あすかの口調はほこらしげだ。
その下には家族の集合写真があった。
「あっ。この赤ちゃんって、もしかして河野さん?かわいいね」
写真の中央でお母さんらしき人にだきかかえられているのは、祝い着にくるまれたちいさな赤んぼうだった。
かわいいと言われたことに、さすがの無表情少女も
「それは、あたしの『お宮参り』のときのよ」
と、ほほをすこしあからめた。
そのようすにヒロユキがおもしろがって
「へえ、これにみんな写っているのかな?」
と、写真をじっくり見直そうとするとヨウスケが、ふきげんそうに
「あんまり、他人ん家の写真をしげしげと見るもんじゃないな。見世物じゃないんだから」
と、すこしつよく言った。




