01 プロローグ
おかしい。この世界は絶対、乙女ゲームの世界だと思ったのに!
私は両手で口元を覆い、空を睨む。こんなのは絶対おかしい。
攻略対象だって、学園内だって、まるきり同じで、細かいところにも違いはない。私が介入したから違う結果にはなったけれど、ゲームや攻略本のままにイベントも起きてる。ダンスで踊る曲や食堂のメニューだって、聞き覚え見覚えのあるものだった。
だから、この大きな違いは偶然ではないのだ。
昨日は学園の入学式。ゲーム本編の初日である。本来ならば悪役令嬢である私は、いくつかのゲームイベントにゲームとは異なる目的で乱入するつもりであった。しかし、婚約者である王太子のアルデバラン・クロッツに“それ”を聞いた私は、早々に帰宅し、今日、学園を休んで少ない護衛とともに、馬車をとある伯爵家へ走らせていた。
私だって学園を休むなんてことしたくなかった。けれど、こればっかりは急がないと取り返しのつかないことになる。はやる胸を抑えながら、今から会いに行く彼女を心の中で罵る。
なんでヒロインが学園に入学してないのよーっ!!
前世の記憶を思い出し、悪役令嬢ベルリーナ・トリアに転生していることがわかってから5年。悪役令嬢にもヒロインと友達になるエンドが割と多いこの平和な乙女ゲームの世界で、ヒロインに婚約者をとられたらどうしようとか、ヒロインが転生者でとんでもない悪女だったらどうしようとか、断罪されないように立ち回る準備はしてきたけど、まさか「聖女」であるヒロインが現れないとか考えてもいなかったわ!
ヒロインの所在も一応は気にしていた。ヒロインの兄であるサポートキャラクターにさりげなく聞いて、彼に妹がいること、その容姿がゲームとは異なっていないことも、本編前のレベリングを怠っていないことも確かめておいたのだ。
話を聞く限り、性格が悪いと言うこともなさそうで一安心していたのに・・・。また、彼女はいくつかの慈善事業に精を出しているそうだが、それ自体も悪いものではなく、彼女の性格の良さを裏付けているように思っていたのに。
そう、彼女は転生者で間違いないだろう。だとしたら・・・余計に何を考えているつもりなのよ!まだ会いもしない彼女に怒りがわく。確かにこの乙女ゲームは過激な戦闘こそなかったものの、彼女が居なければイベントは進まないし、クリアもできない。私がどんなに頑張っても彼女なしではそれは変えられない。
だって、ここは彼女のための世界だから。
読んでくださりありがとうございます。
次話はエピソード・ゼロということでベルリーナの話は始まりません))