拝啓、親愛なる貴方へ
拝啓、親愛なる貴方へ。
私はずっと貴方を見てきました。
雨の日も晴れの日も変わらず目的を見据え、苦境に立たされたときも順風満帆なときも変わらず毅然な態度で振る舞う貴方を。
貴方のその外見が好きでした。
時に男でも惚れてしまうほどに凛々しく鋭く、時に物憂げで儚く、時に蠱惑に笑うその瞳が。
しなやかで、男女問わず釘付けにしてしまうその肢体に引き寄せられていたのは私もでした。
貴方の性格が好きでした。
決断力に富み、決めたことは最後まで己の覚悟でやり通す。それでいて部下の話をしっかり聞き、寄り添い、話をしてくれる。そんな貴方の信念と気遣いに何度も惹かれました。
貴方が私のことをどう思っているのか。そんなことは私には知り得ません。
ですが私は間違いなく貴方に何度も救われました。
挫けそうな時も貴方のためにと考えるだけで頑張れました。どれだけ辛いことがあっても貴方が話を聞いてくれるだけで耐え抜くことが出来ました。
いつの日も貴方に尽くし、身も心も貴方に捧げる覚悟が私にはありました。
だからこそ、今ここで私は貴方にこう言わなければならない。
貴方について行くことはできません。
なぜなら貴方は間違っているから。
たとえ貴方には信念があったとしても、私にはそれが理解できません。たとえ貴方は正解だと思っていることでも、私にはとてもそれが正解だと思えません。
私は部下失格です。
ですが私は貴方の部下になりたかった訳ではありません。平民の分際ながら、愚かにもいつの日か貴方の隣に立つことを夢見ていました。
だからこそ、今この時貴方から逃げることをお許しください。
いつの日か、また貴方の前に帰ってきます。
いつの日か、またあの日の貴方を、
私が取り戻してみせます。
敬白、今は遠い貴方へ。