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第四十話





「まさか……河田なの?」


 少女の信じられないと言わんばかりの声が響く。

 直樹はこの洞窟で暮らし始めて、鬼となって初めてヒトと接していた。

 直樹の目の前には、おっさんと少女がいた。

 灰色の外套に身を包んだ坊主頭の瀕死状態なおっさんとなんかの制服っぽいものに身を包んだもっさり少女。直樹は死にかけのおっさんには見覚えがなかったが、少女の方は知っていた。信じがたいことだが、彼女は直樹が鬼になる前の高校でのクラスメイトだ。

 彼女の方も、直樹の存在に気がついて名前を呼びかけたことから、江本舞であるとみて間違いないだろう。

 他の転移者やヒトが存在する。これは、直樹にとって様々なことを連鎖的に推察させるとても重大なトピックであった。

 だが、直樹はそんなことはどうでもいいとばかりに頭が真っ白になっていた。

 この洞窟や世界に関する謎など吹っ飛ばんばかりに衝撃を受けていた。

(ま、まさか、俺の存在を覚えてくれてたなんてっ⁉︎)

 直樹は感動していた。

 久しぶりの再会であるにも関わらず、他人に名前を呼んでもらえたことに。影薄いし、絶対自分のことなど絶対に忘れられていると直樹は思っていた。

 直樹の目にはうっすらと涙さえ滲んでいた。

(今ならちょっと微笑んでもらえただけで惚れる自信がある。なんなら握手してもらえたら貢ぐ。今日からマイ・エモト教の信者だ。女神様、あなたのことは忘れない。決して。ただ、俺は前を向く!)

 そうして、直樹が感傷に耽っていると、一人置いてきぼりを食らっていた瀕死の坊主が声をあげた。


「マイ、何者だコイツ? お前の顔見知りみたいだが……」


 突然現れた小鬼に知己であるかのように名前を呼ぶ少女。さらに小鬼は少女の言葉に反応して、なぜか鼻を啜っている。

 舞はハッと我に返り、困惑した様子で、サクへ口を開いた。


「彼は、その……同郷です」

「同郷ってキキュウは……ありえねぇよな。ってことは……?」

「……はい。純や大と同じく転移前の学校のクラスメイトでした」


 舞の言葉に困惑し、サクは眉根を寄せる。

 サクの常識からしてありえない想像が彼自身の頭の中で繰り広げられたのだろう。

 サクは混乱した様子を見せながら、ちょっとズレた問いを舞に投げかけた。


「えぇっと、なんだ。お前の世界では鬼も一緒に学んでいるのか」

「いえ……。彼は、私たちと同じヒトでした」

「はぁ?」

「はい」

「はぁ」


 混乱、そして諦め。サクの表情の変遷を連続写真に収めたなら、さぞかし喜劇的であっただろう。

 もうどうにでもなれという投げやりさでもって舞への質問をやめたサクは、直樹の方へと視線を向ける。

 最も当たり前で、最もおかしな疑問がサクより直樹へ投げかけられた。


「もういいや。それで、カワタとやら、お前さんはなんでここにいるのよ?」


 二人から置いてきぼりを食らっていた直樹。除け者にされるという久々の心地いい感覚に身を浸らせていたが、目の前の男の疑問にテンションを地の底へ落とされた。

 直樹のその質問への回答はこっちだって知りたいわアホというものであった。わかってたら長い間好きこのんでこんな暗い場所にいやしない。当たり前で不躾な質問に少しイラついてさえいた。

 だから、直樹はそのままぶっきらぼうに口に出していた。


「知るか。気づいたら鬼で、この洞窟で這いつくばっていたんだ」

「……はぁ?」


 直樹の発言から殆ど間を置かずに、答えが返ってきた。馬鹿じゃねえのという意思が込められた短すぎる反応が二人から返ってきた。

 それだけではない。直樹の発言にサクも舞も信じられないものを見るような目線をよこしている。まるでUFOがいるぞってガチで言った時に投げかけられる若干の心配の混じった屈辱的な目だ。本当にいたんだ。あれは校長先生のハゲ頭じゃないんだ。

 余計イラつく直樹をよそに、舞が続けた。


「ちょっとまって……もしかして、この死の洞窟に一年近くいたってこと?」

「あぁ」


 直樹は舞やサクの返答に負けじとばかりに、間を置かず食い気味に肯定の意を示した。

 そんな直樹に二人は呆れたような視線を送る。おそらくただの学生が一年近くこの死の洞窟で生き残ったことへの驚愕が一周回って呆れの目線となったのだろう。無駄に張り合ってきたことへのアホらしさではないはずだ。

 それからちょっとのクールダウンを挟んで、ほんのすこしだけだが互いに身の上を語り合った。

 江本舞からは転移後、キキュウという国に拾ってもらって騎士団に所属しているという話を聞いた。その任務中に超デカいドラゴンに襲撃されてここに落ちてきたらしい。

 サクはどうやらアカネという国で狩人の組織を率いているらしい。この場にいる経緯は舞と変わりないそうな。今はただの死にかけのおやじで、直樹にはにわかには信じがたい話であったが。

 直樹も二人に気づいたら鬼になってた話や核を食べたら核が増えた話など、この洞窟に来てからの話を少しだけした。

 他人と苦労話を分かち合う。万分の一も共有できなかったが、それでも直樹は嬉しかった。他人と心の内を明かし合って笑い合う。もしかしたら生まれて初めてかもしれない。

 だが楽しいひと時も瞬く間にさらりと消えていってしまった。

 ドォォォンと轟音が鳴り響いた。

 直樹たちのいる窪みの外から、砲撃音が聞こえた。

 奴だ。


「戦車……もう、来たのね⁉︎」

「……戦車?」


 直樹は危機感に反した場違いな疑問をあげてしまった。

 舞が答える。


「無数の砲台を積んだ巨大な亀型のナリモノよ。化け物達の中でも四神と呼ばれる世界最強クラスの奴で、見た目から戦車と呼ばれているわ」


 舞の簡潔な説明に直樹はなるほどと相槌を打つ。

 パレードを起こせるあのバケモノはやばすぎると思っていたが、どうやら世界でも四強の一角であるらしい。それはバケモノなわけだ。あと、バケモノはナリモノと呼ばれているらしい。何か意味があるのだろうか。だが、そんなことはどうでもいい。

 戦車。

 どうやら洞窟の外の世界では砲台亀を戦車と呼ぶらしい。直樹は自分のネーミングセンスを恥ずかしく思った。戦車もまんまな名前だけど、砲台亀はもっと酷い。

 忘れよう。戦車は戦車。ずーっと、戦車。

 そういえばと直樹はふと思い出したかのように、舞の発言への違和感を口にした。


「さっき、江本は戦車、もう来たのねとか言ってたよな? まるでそんなヤバい奴に追いかけられているみたな……」


 直樹の発言を聞いた瞬間、舞の顔が曇った。苦渋を噛みしめるその表情を見て、直樹は瞬時に、これはダメなやつだと理解した。

 詳しく状況を聞くと、どうやら彼女たちは戦車に目をつけられているらしい。なぜか知らないが執拗に追いかけ回されているそうだ。サクの怪我もその途中に負ったものだと。

 初めてヒトに出会えた。だけど、そいつらは世界最悪の爆弾に狙いを定められていた。


「はぁっ……」


 直樹はため息をひとつ押し出す。

 果たして今から取る選択は馬鹿の極みだろうか。


「江本、おっさん……逃げるぞ。ついてこい!」


 舞とサクは目を見合わせている。戦車に追われていることをカミングアウトした直後に、まさか助けを得られるとは彼らも思っていなかったのだろうか。

 だが、直樹の頭の中では別の解が弾き出されていた。

 直樹の目的は外に出ること。外の情報を得ること。当初の予定である戦車のストーキングより、彼らに話を聞くほうが数万倍可能性が見込める。

 それに、やっと出会えたヒト。

 直樹はこの縁を大事にしたかった。

 この縁は切りたくなかった。


 ドォォォンと再び、盛大な砲撃音が大きな広間を伝って響き渡る。

 直樹の萎んでいた生きるエネルギーを奮わせる。





 お読みいただきありがとうございます。

 一週間ほど更新が止まってしまいすみません。

 とりあえず次話は明日更新予定です。

 この”VS戦車”を描きたくてこの物語を書き始めました。

 楽しんでいってください!


 尚、今後は不定期更新で参ります。一ヶ月くらい音沙汰なくなったら、たぶん、ごめんなさい。

 活動報告にてあとがき的なものを更新しております。

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