第三十一話
しばらくして、女神様の歩いた《道》を追うと、ひときわ大きな広間に出た。ドーム級のはじまりの大広間よりも不恰好で、自然で、デカい。
直樹はその中心へと歩を進める。
すると、そこには《鳥人》がいた。
鳥が持ち得ない筈の筋骨隆々の肉体に、殴ることに特化したかのような拳をも持つ人型の鳥。
その豪腕に連なる真っ赤な翼は空を駆け、筋肉質な脚は強烈な蹴りも繰り出せるだろう。
そんな鳥というよりは鳥の特徴を持った人型の生物というべきバケモノ。
鳥人のどことなくヒトのエッセンスが含まれているような顔にあって一際目立つ、猛禽類特有の鋭く凛々しい眼は直樹を捉えている。
その金色に輝く鋭い眼は確かに、直樹へと語りかけてくる。
『また、会ったな』、と。
直樹は鳥人と向き合い思う。
最初の奴との出会いは鬼になってすぐのことだった。
真っ先にエサ扱いしてきたのが、この地獄の恐怖を叩き込んできたのが奴だった。
怖かった。
ただただ震えていることしかできなかった。
でも、それは昔の話だ。
数えるのも忘れるほど長い間、この洞窟の理不尽に耐えてきた結果、変わった。
あの頃とは、違う。
未だに奴にとってはエサでしかないだろう。確かに、まだまだ鳥人様は格上だ。
だから、超えなければならない。
女神様へと追いつくために。
道は鳥人の背後へと続いている。
震えてばかりの自分じゃない。
(俺は、奴を、乗り越える)
直樹は、己を奮い立たせるために雄叫びをあげる。
「っしゃァァァ!!」
鳥人は決意を改めた直樹を見やり、雄叫びを受け、ニヤリ、と笑みを浮かべていた。
改めて、直樹は鳥人の戦闘方法について思い返す。
奴は翼を使った遠距離攻撃と接近戦での拳が攻撃手段と思われる。
というのも、はじまりの大広間では翼での風のヤイバとツノを弾いた拳しか見ていない。これでは、実質分からないのと一緒だ。
ただ、今ある情報から考えると、大まかな戦略は考えられる。
まず、遠距離攻撃を躱しながら距離を詰める。
続いて、距離を詰めた上で近距離の格闘戦も躱し切る。
それで、頭突く。
……戦略もクソも無い。結局、どのように考えようと、直樹にはこれしかできない。
距離を詰めて頭突き。シンプルで結構じゃないですか。
相手がどう出るか分からないし、生き残れるのかなんてもっと分からない。いつも通りだ。
自分の情けなさを鼻で笑っていると、空気感がピリッとした。
鳥人の間合いに入った。
ここからが、勝負だ。
初手、鳥人が直樹を向いて真っ赤な翼を広げ、強烈にはためかせる。
「キィィィンッ!」
羽ばたきより生成された、刃渡り三メートルほどの風のヤイバが地面を削りながら、直樹を襲う。
直樹はそれを、横っ飛びで避ける。
「キィィィンッ!」
(キィィィンッ——二撃目⁉︎)
一撃目からほぼ間を置かずに二撃目が放たれた。
直樹は横っ飛びの勢いを使ってさらに地を蹴って避ける。そこへ——
「キィィィンッ!」
(三発目⁉︎)
三度、風のヤイバは放たれる。
今度は直樹の退避の方向を予測した位置に放り込まれる。
タイミングが完璧だ。
(まずい避けられないっ⁉︎)
【ツノ弾丸】!
「バシィィン!」
ツノ弾丸をもって風のヤイバを弾く。
避けられないから仕方ない。だが、ここで使わさせられるのは想定外。
その想定外を被った分だけ強引に、前へ、距離を稼ぐ。
まず目指すは十五メートル、ツノの射程圏内だ。
もう一発、鳥人から放たれる。
「キィィィンッ!」
直樹はギリギリで避けながら前進する。
多少ギリギリでも、傷ついても、まずは距離を稼ぐ。ここでは一方的だ。
もう一発、直樹の進行方向を狙って。
「キィィィンッ!」
イイトコ狙ってくる。
直樹は避けるのに多少無理に体を捻らされる。体軸がぶれる。
厳しい状況の直樹へもう一発——今度は、デカい。
「キィィィィンッッ!!」
より早く、大きく、強いヤイバが放たれる。
直樹は先ほどの攻撃で厳しい体勢を取らされている。
だが、これはマトモに受けちゃいけない。だから、強引に躱す。
右前方へ横っ飛び。と、同時に——
【ツノ弾丸】!
「ドッッ」
横っ飛びと同時にツノ弾丸を地面へ放ち推進力をつけて大きく飛ぶ。
なんとかデカい風のヤイバを躱しきる。
だが、空中へ投げ出され、体勢が完全に崩された。
そこへもう一発、風のヤイバが直樹を襲う。
「キィィィンッ!」
空中、体勢も最悪。
しかし、鬼の身体能力はここでへばるほどヤワじゃない。
直樹は空中でひねりを入れて、地面へと額を向ける。しっかりと地面からの反力を受けられるように。
【ツノ弾丸】!
跳ね返りのエネルギーをうまく使い、宙返り。そして、更にひねりを入れ、鳥人側を向いて綺麗に着地する。
(ツノ弾丸式後方宙返り二回ひねり、ってところか……長いな)
いつの間にか鳥人による飛ぶ斬撃の嵐はやんでいた。
奴も、奴だけの間合いではなくなったことに気がついたのだろう。
鳥人までの距離、十五メートル。
間合いが変わり、近中距離戦。今度は、直樹が先手を取った。
まず挨拶がわりに、鳥人の脳天に一撃。
【ツノ弾丸】!
「ザザッ」
簡単に、横にちょっとズレただけで躱される。
だが、こちらの間合い、こちらのターン。
(もう一方的に好き放題されるだけじゃないっ!)
もう二発。
今度は同時に、左右から挟み撃ちだ。
【ツノヤイバ】!
「バァサッ」
ヤイバ状のツノは鋭く鳥人を狙う。
だが、翼と脚力でもって跳んで躱された。
そのまま、鳥人は羽ばたきを繰り返して——風のヤイバをいくつも放つ。
「キィキィキィキィィィンッ!」
風のヤイバの連撃。
距離が近い分だけ早いし強いし避けづらい。
——訂正。ここはこちらの間合いじゃない。ここも、鳥人様のテリトリー。
だが、直樹もただの馬鹿ではない。先程の遠距離のムーブで学んでいた。
連撃の回避は、一発一発を綺麗に避けることの繰り返しじゃだめだ。
それだと、着地や回避先を狙われる。
だから全体を見る。
全体を見て、最適解をデザインする。
直樹はチームスポーツをやっていなかった影響か、視野が狭い。俯瞰で見るのが苦手だ。
それでもやる。首を振って視野を取る。全体を見る。
まぁ、全体を重視するのは、それはそれで、体勢の一番良くない時を狙われて呆気なく終わってしまうこともある。何事もバランスが大事だ。
「ザザッ」
直樹は駆ける。避けるだけじゃない、距離も詰める。
向かってくるのは全部で五発。
——一撃目。
初動で躱す。右に進路をズラす。
——二撃目。
ヤイバの左側面からツノ弾丸を当てて弾く。だが、弾くつもりが、反動を食らってノックバックする。が、それに身を任せて、少し後退する。
二撃目は打ち消せなかったし、打ち負けた。だが、問題ない。
——三撃目。
二撃目と同じルートを通り過ぎていく。
スルー。
——四撃目。
正面。
左でも、右でもない。上に跳んで逃げる。
——五撃目。
左を通り過ぎていく。
「タッ」
直樹は静かに着地し、前へ駆ける。
今まで余裕がある時に、回避先として上を選択したことはなかった。なんとなく空中はコントロール不能なイメージが強かったからだ。だが、鳥人の挙動が見えず、五撃目の狙う先はわからなかったが、上を撃った気配は感じられなかった。だから上を選んでみた。
今回はなんとか上手くいった。
鳥人の風のヤイバはあまり連射性に優れていないのだろう。
もう、打ち止め。
これで、問題なく接近戦に移れ——
直樹は目を疑った。
あれだけ激しく羽ばたいて遠距離戦を行っていた鳥人が、次の瞬間、跳んでいた。
こちらへ向かって、踏み切って、体を投げ出してボディプレスを仕掛けてきていた。
格上の奇襲。
それも体を投げ打っての。
全体を見ようが、コレは想定できるわけがない。
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