第二十五話
直樹は手頃な石を手に構えを取る。
狙うはカマキリもどきの眉間。
セットポジションより、第一球、勢いよく……投げたっっ!
「ザシュッッ」
……切り落とされた。
カマキリもどきは左前腕の鎌を用いて、投じられた野球ボール大の石を真っ二つに切断した。
即刻、直樹は自身の場所を特定されないように岩陰に隠れながらその場を離れる。
恐るべき鎌の切れ味。だが、直樹はそれ以上に自分自身に驚いていた。
(やべぇ……170km/hどころか300km/hくらい出てるんじゃね⁉︎)
直樹により投じられた球。記憶が確かならば、野球のピッチャーどころかテニスのビッグサーバーのサーブよりも余裕で早かった。
身体能力の進化は予想以上らしい。
だが、切られた。
(厄介だな……)
高度な反射神経と鎌によるカウンター。時速300kmに正確に付いてくる切れ味抜群のそれは相当厄介だ。
流石にいくら強化された身体能力を持っているとはいえども、時速300kmで走るなどできやしない。
まず、正面突破は絶望的だろう。
(さて、もう一回やるか……)
突破口を探るには情報が足りない。この後にはゴリラも控えていて時間もあまりない。
幸い、相手は警戒こそ強いものの、こちらの姿を完璧に捉えている様子は見受けられない。
(よし、先手はとった)
直樹は今の投石で得られた情報を元にカマキリもどきからみて右側斜め前に回っていた。
突然の直樹の投石に対して迷いなく反応したのは、左鎌であった。よって、おそらくだが、左鎌が利き腕だと推測される。
ならば、利き腕ではない方を攻めるのが道理だ。まぁ、両利きだったり敢えて逆を使ってたりしたら意味がないのだが。
さて、再度の投石。今度はさらに弱点をあぶり出す。
同じく、セットポジションから。狙うは、カマキリもどきの右後ろ足。
直樹は、先ほど投げ込んだ利き手の右ではなく、左手でもって、第二球、勢いよく、いや、そこそこで……投げたっっ!
「ザシュッッ」
切り落とされた。
初級からかなり遅めに投げたから、反応されたのは当たり前だ。とはいえ、170km/hは超えているのだが。
だが、直樹は投げた瞬間に次の行動に移っていた。
手元にある石は小さいものが五つ。先ほどまでの野球ボール大の石ではなく、ゴルフボールよりも小さい。五つ全てを握りしめても、同時に投げれそうなほどだ。
直樹はカマキリもどきの利き腕側、左腕側に距離を詰めながら、再度投石を行う。手に持つ五つの小石全てを一緒に投じる。
先程よりも短い距離での300km/hオーバーの散弾だ。
しかも、直樹は、二度目の投石にて、カマキリもどきの右鎌を右の大外にスイングさせて遠ざけさせた。
左腕が利き腕であろう。だから、利き腕でない右鎌を狙う。
右鎌の取り回しが不器用で、遅い可能性を、連撃へのカバーが遅れる可能性を狙う。
直樹は体のバネを使って、カマキリもどきの頭を狙い……投げたっっ!
「ザシュッッ……ドゴッッ⁉︎」
当たった。
カマキリもどきは左の鎌を精一杯使い切り、投じられた小石を三つ、弾いた。
だが、直樹の投じた小石は五つ……二つくぐり抜けた。
カマキリもどきも、おそらく、両腕が自由ならば、右鎌が使えれば対処できたのであろう。
だが、間に合わなかった。
鋭い鎌によるカウンターを潜り抜けた小石、そのうち一つは狙いがズレて腹に当たった。無理もない。即席の手投げ散弾だ。コントロールなどつくはずもあるまい。
だが、もう一つは……当たった。
「ギィィィィィッッ⁉︎」
小さな石は左の眼に当たり、大きく傷をつけた。
カマキリもどきは痛みで仰け反り、苦痛の叫びをあげる。
カマキリは複眼だ。人間とは目の構造が違う。だから、視界にどれほど損害を与えたのかは直樹には見当もつかない。
だが、カマキリもどきは仰け反り、そして、叫んでいる。
それは、大きな隙であった。
(攻め時だ。一気に……行くっ!)
「ザッ!」
直樹はそれまで横移動に、撹乱に使っていた脚力を全て、カマキリもどきとの間合いをつめるために用いる。
それはさながら弾丸のようであった。
ただ、隙があるとはいえ、300km/hの投石に対応するようなキチガイ。容易に距離を詰めさせてはもらえない。
カマキリもどきは直樹の動きを見て、遅ればせながら、右の鎌を振りかざそうとする。ノックバックさせられた時、右鎌は引き戻す途中であったため、比較的迎撃体勢が整っていた。左鎌は無理な挙動で、全力で振り切った後なので、再度使うのにもう数秒かかる。
右鎌での振り下ろし。目で追えないほどの鋭い斬撃。
当然、躱すのは高難度だし、受けるにしても力負けする可能性が高い。というか真っ二つになる未来しか見えない。
だから、鎌を振る前に止めるか、弾いて挙動を変える。だが、弾くなんて相当な練度がないと厳しい高難度技の筆頭だ。
だから、鎌を振る前にその動きを妨害するしかない。
そのために大事になってくるのは彼我の距離。
カマキリもどきが隙を見せた間に大分距離を詰めた。とはいえども、直樹と鎌までの距離は五メートルほど。まだまだ、遠い。直樹のツノ伸ばしの射程は約一メートル。五メートルでは余裕で射程範囲外だ。……以前の直樹であれば。
直樹は五メートル先の右の鎌を見据え、そして、その場から放つ。
【ツノ弾丸】!
「バシィィィン!」
直樹は額にそびえ立つ四本のツノのうち一本を弾丸の様に伸ばす。
そして、五メートル先の右の鎌を弾き飛ばした。
五メートル……もう、射程圏内だ。
カマキリは予想外にの攻撃に焦りを見せる。
「ギィィィィッッッ⁉︎」
カマキリもどきは目の前の小鬼との戦いで、この小鬼に対して初めて怒りをむき出しにする。
どこかこの核の四つ持ちの中では新米に当たるポッと出の小鬼に対して舐めているところがあったのだろう。望外の手傷を負わされた上、自身の自慢の鎌を二度もかいくぐられたとなるとプライドを真っ向から汚されたようなものだ。
カマキリもどきは、ここへきて、投石の対処を行なっていたもう一本の、得意の左の鎌を、本気で振り下ろす。
確かに、鎌は依然として脅威だ。フルスピードで振るわれたら直樹とてどうしようもない。
だが、もうそこはカマキリもどきの間合いではない。
もっと内側。インファイトだ。
直樹は、襲いかかる左の鎌に対して、ノールックで、ツノを伸ばして繰り出す。
額は、ツノはカマキリと向き合ったままだ。それでも、斜め後ろより迫る鎌の根元を、壊しやすい関節を狙って、ツノは伸び、二度の方向転換を経て……
【ツノヤイバ】!
「バシュッッ!」
見事、切り裂いた。
「ギィィッッッ⁉︎」
自慢の大きく鋭い鎌が、宙を舞う。
左腕の先の感覚が消え去る。
「ギィッ⁉︎」
カマキリもどきは自身の劣勢を遅ればせながら察し、湧き出る恐怖とともに、必死に、今まで背に仕舞っていた羽を開き、飛んで逃げようとする。
しかし、直樹が逃すはずもなかった。
ツノの槍が、カマキリの体を貫く。そして、貫いた槍の側面から、さらにツノが枝わかれしていき、返しの様に伸びて体内を傷つけていく。それは、逃走の阻止とともに、与ダメージの強化を図る追撃。
やがて、体内で伸ばされていくツノの枝のうちの一つが体内で核を砕き……
「ブブブブッ」
硬質な羽ばたき音が止まり、カマキリの生命活動が停止する。
「はぁっ……」
直樹は息を吐き出しつつ、残心をとる。
勝った。
運が何度か味方したが、完勝だ。
だが、まだだ。
核を回収していると……背後からゴリラの殺気が直樹を突き刺してきた。
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