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第二十三話





 召使い兼お掃除係。いや、これってただの召使いじゃね。

 召使いライフを始めて数日。

 直樹と女神様は異常事態に直面していた。

 目の前は一面、バケモノで埋め尽くされていた。

 これではまるで、バケモノのパレードのようだ。


 「なぁっっ⁉︎」


 直樹は目の前のとんでもない光景に呆気にとられる。

 (何が起きているんだ……?)

 バケモノどものパレードは女神の殺気をを受けてもなお、そのままこちらへの突進を続ける。足場が悪く、所々行進に苦労が見られるが、それでもなお直樹たちへ向かって走る。

 数の暴力で女神様を襲うために、何者かがパレードをしかけたのだろうか。

 そんな考えが直樹の頭の中に浮かぶが、すぐに振り払った。

 それは違う気がした。

 なぜなら、近くにいるだけで気絶してしまいかねないほどの殺気を引っ張り出している女神様に対して、パレードは依然としてこちらへ向かって駆け続ける。まるで、女神様など見えていないかのように。女神様より、もっと恐ろしいモノが後ろにいるかのように。

 自分より恐ろしいモノから逃げ続けるモノの目は誰よりも直樹自身が知っていた。だからこそ、目の前のバケモノどもの恐れ様を見て、得体の知れない不安を強くする。

 対して、女神様もおそらくパレードへの興味はない。パレードのその先の元凶に目を、殺気をやっているように見える。

 一体、パレードの向こうには何がいるのだろうか。

 そういえば、どことなく地面の揺れが強くなったような気がする。それも、地震というよりは一定間隔で何者かが地面をノックしているかのような感じだ。地面を揺らすだなんて……

 バカな思考に気を取られるが、そんなことは後だ。喫緊の課題、パレードへの対処。

 目の前を埋め尽くす百を超えるであろうバケモノの大群。流石に、立ち向かったところで、いくら強い女神様でも飲み込まれてしまうだろう。数の暴力はそれだけ強烈だ。

 どうやって逃げるか。

 ここまでしばらく一本道だった。つまり、ただ後方に逃げても途中で捕まる。持久走ならあいつらの方が早い。

 ならば、ここへ残って、うまく岩のくぼみに身を隠してやり過ごすか。だが、それだと、中途半端に見つかれば詰む。それに、パレードの元凶の動きもどうも気になる。

 (さて、どうしたものか……)

 しかし、事態は予想外に動き始めた。


 「シュルルル」


 女神様が前方へ歩き始める。

 就寝時と同様、静かに、ひとりでに帯が解かれる。

 (まさか……この数と、戦うのか⁉︎)

 女神様の普段の戦いは、その深緑の着物を使って行われる。

 何重にも重ね着された着物の表面の一、二枚をはだけさせて、裾を伸ばしたり、切り離して弾丸のように飛ばすことで獲物を仕留める。仕留めた獲物は着物の裾を伸ばして切り分けながら食べる。初めて見た時はまるで体を動かす様に自由に着物を操ることから、体の一部、一体化しているとさえ思っていたほどだ。

 十にも迫るであろう数の着物を身につけた女神様は殆どその場から動かずに獲物を仕留めてしまう。着物の自由度の高い操作が彼女の核の持つ能力なのだろうか。

 そんな普段の彼女の道中の梅雨払いの様子。だが、今回は勝手が違った。

 彼女は、何か焦るように、何かに怒り狂うように、これまで見たことないような盛大さをもって戦闘を開始した。

 いや、これはもはや戦闘と呼べるものではない。虐殺だ。

 彼女は帯を解いた。

 そして、一着や二着ではなく、肌に身につけた真っ黒の作務衣の様な衣服を残し、他の全ての着物をはだけさせる。そのたくさんの着物は、彼女の下を離れ、宙を舞い、やがて、パレードにまで紛れ込んで行った。

 女神様はその様子を確認しつつ、自身もパレードの方向へと突っ込んで行った。彼女はパレードの先頭までたどり着くと、地形とバケモノどもの体をうまく利用しながら、パレード中心部の上空へと位置取る。

 上空で、彼女は、両手を広げ、()()()()()()()()()……


 「ドドドドドドドドォォォンン!!!」


 一瞬だった。

 一瞬で百を超えるバケモノが、目の前を埋め尽くすバケモノどもが、大量の穴を開けて、地に倒れ伏した。

 一匹も残らず、逃されず、撃ち抜かれた。

 パレードが一瞬で沈黙した。

 中央に立つはただ一人。アクアマリンの宝石の様な目を怪しく、蒼く、まるで深海の様に暗く輝かせる彼女のみだ。

 その姿は、大量の生贄を糧にこの世に降誕なさったかの様な、まるで神話の一ページの様な、そんな光景であった。


 「あはははっ……」

 

 直樹は目の前の大惨劇に呆れて笑いが出て、それすらも掠れてしまう。

 理不尽だ。

 鬼になって散々な目にあってきた。数々の理不尽を味わってきた。だが、それは突然銃を目の前で突きつけられた、だからどうしよう、という類のものだ。決して、今からあたり一帯に無差別にミサイルが打ち込まれます、どうしましょう、という打つ手が完膚なきまでにゼロなものではない。

 女神様はこの化け物の巣窟でも恐ろしく強い王者だ。だから、女神様だなんて勝手に崇めてついていっていた。

 どこか自分たちバケモノの延長上にある化け物だと思っていた。

 考えが甘すぎた。

 彼女はバケモノの延長じゃない。全く別の超常的存在、文字通り、神だ。それくらいにそのへんのバケモノとは別格の強さ、存在感だ。


 「コッ、コッ、コッ、コッ」


 下駄の様な履き物で静寂へと様変わりした洞窟をコツ、コツと響かせる。

 女神様は歩みを進める。

 向かう先には……直樹がいた。

 

 「は……?」


 はじまりの大広間以来、初めて女神様は、直樹へと強い注目を向けている。

 直樹は彼女の意図せぬ行動にパニックに陥る。

 ストーカー生活を始めて以来、彼女が直樹に便利な下男以上の注目を向けたことなどなかった。意図がわからない。

 それにこんな虐殺の直後だ。改めて、別種の畏れを抱いた直後だ。


 「は……えっ?」


 直樹の言葉にもならない困惑を余所に、その歩みは止まらない。

 虐殺に使ったのであろう、深緑の着物を普段通りに着直し、帯も元通りしめる。


 「コッ、コッ、コツっ」


 やがて、ついに女神様は直樹の目の前へとたどり着き、足を止めた。

 向き合う女神様と直樹。身長はまだ彼女の方が高いか。

 見下ろす形となった彼女は着物の裾を伸ばすと、直樹の四肢を捉え、そして捕縛した。


 「なぁっ⁉︎ ……うっ、うっ」


 抵抗しようとも女神様相手に勝算などかけらもない。そんなことは直樹自身もよくわかっていた。だが、自然と抵抗してしまった。

 彼女はそんな直樹をいつもの無表情で見つめると、懐から包みを取り出した。手のひらに乗る程度の小さな小包だ。

 まるで、スカーフの様な包み。毎朝、核の献上の儀のために支給されている布切れと同じ様な作りに見える。

 その中身はパッと見でわかるくらい、大量の小さな粒で膨れ上がっている様に見えた。

 身動きの取れない直樹の目の前で彼女はその小包の口を開ける。

 中身が見えた。真っ黒で小さい粒だ。

 核だ。

 数えるのも気の遠くなる、大量の核が包まれていた。

 おそらく、長年溜めてきたものなのだろう。


 「ふがっ」


 女神様は直樹の唇に人差し指と中指を差し込むと、口を無理やり開かせた。

 突然の開口に直樹は息を詰まらせそうになる。

 (いったい、何を……)

 突然の奇行に動転をさらに深めるも、次の彼女の行動に直樹は、さらに驚かさせられた。


 「ザァァッ」


 なんと、女神様は手に持つ大量の核をそのまま直樹の口内へと流し込んだのだ。

 パチンコ玉より勢いよく音を立てて流れ込む大量の核。

 それだけ大量の核が暴力的なまでに流れ込めば当然……


 「アダァァァァァァッッッッッ!!」


 激痛が直樹の体を、額を蝕む。

 核を投じた後、直樹に痛みが襲うのを、核の増加、進化が始まるのを確認してから、女神様はもう一度、直樹の口内へ粒を投与すると、着物での拘束を解いた。

 直樹は痛みで地面へと崩れ落ちる。

 女神様はそんな直樹を受け止め、抱擁した。


 「ありがとう」


 直樹の耳元で彼女は呟く。


 「……バイバイ」

 

 直樹の意識は、その言葉を最後に闇の中へと消えていった。

 直樹を地面へゆっくり横たえると、コツ、コツという独特な足音はその場から離れていった。

 




 ***





 「な、なんで……」


 直樹が意識を取り戻すと、そこにはもう、彼女はいなかった。

 なぜ、こんなことをするのか。

 彼女の行動の意図するところはわからない。

 何もわからない。

 なんせ、彼女のことは何も知らない。

 だが、直樹は思う。

 なぜ、こんなことをしたのか。

 一体、何があったのか。

 最後の言葉の意味は。



 彼女の別れ際の寂しそうな表情が、嫌に脳裏にこびりついて離れなかった。





お読みいただきありがとうございます!

毎日投稿しておりますので、宜しければ今後ともお付き合い下さい!

ちょっとでも面白いなと思っていただけましたら、ブックマーク、評価、感想、お願いします!!



……二十三話目にして、やっと書きたかった展開になってきた。

当初最序盤に書く予定で、本作のサブタイトルにまで入れ込んでた話が、なんと、三十話超えても引っ張り出せなかった件。何やってんのワタシ。はぁ……。



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