第二十一話
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本話より直樹の話に戻ります!
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「な、なんで……」
直樹が意識を取り戻すと、そこにはもう、彼女はいなかった。
なぜ、こんなことをするのか。
彼女の行動の意図するところはわからない。
何もわからない。
なんせ、彼女のことは何も知らない。
だが、直樹は思う。
なぜ、こんなことをしたのか。
一体、何があったのか。
最後の言葉の意味は。
***
あの、憎き巨大バエとウジ虫どもから逃げ延びて、早数日。
直樹は心身共に充実のストーカーライフを送っていた。
女神様の後をつけ、食事のおこぼれを頂き、それなり以上の安全を享受している。
当面の目標は、この屍肉あさりをもって生きながらえること。女神様と彼女を襲うモノの戦いを観察して生きる術を学ぶこと。そして、この洞窟を抜ける方法を女神様の足跡より見出すことだ。まぁ、当面といっても明日も生き続けることができるかはいまだにわからないが。
とはいえ、後をつけるようになってまだ数日。今のところ地上への道のりに関して、成果はほとんどない。手がかりといえば、日が経つにつれ、歩みを進めるに連れてどんどん周りのバケモノが強くなっている気がすることくらいだろう。今、女神様の下を離れたらマジで死ぬ。だが、女神様にはたぶん行き先が、目的があるって証拠だと信じてる。外に繋がってるって信じてる。
まぁ、周りのバケモノがさらに強くなっていようが、どうせ正面から戦って勝ち目のある敵はほぼいない。これまでと一緒だ。そう思っておくことにしておこう。
(あっ……女神様が止まった)
女神様が足を止めた。ということは今日はここで睡眠をとるのだろう。
女神様は疲れが溜まりやすいのか、休みを頻繁に入れながら歩を進めている。特に、夜と思われる時間には長めの睡眠休憩を入れている。
このバケモノだらけの洞窟。まとまった睡眠をとるのは簡単ではない。状況や時間を問わず、いつでもバケモノどもに襲われる可能性があるからだ。
だから、ちゃんと”寝室”を用意する必要がある。用意する方法は単純。地形的に他者が侵入しえない状況を作るか、侵入しないでいい方法を作るか。
彼女の場合は両方だ。
「シュルルル」
その美しい深緑の着物を纏める暗めの赤で染まった帯。この帯が静かに、ひとりでに解けていく。すると、同時に、何重にも重なっていた着物が自然と彼女を包んでいく。まるでテントのように、かまくらのように形作られる。出入り口は存在しない。それはちょっとやそっとの衝撃ではピクリともしない。何らかの女神様の能力なのか、着物そのものの力なのか。それとも両方か。ただ、それは即席の要塞としては十分に機能していた。
この着物の要塞だけでも十分に違いない。けれども、女神様の睡眠のための”寝室”、それは、この着物の要塞だけではなかった。
「ばさばさっ」
洞窟の数多くある通路の一つより羽音がいくつか聞こえてくる。
女神様に狙いを定めてか、それとも運悪く迷い込んできたのか。
その迷い子は大きなコウモリであった。広げた両翼の大きさは直樹の身長を軽々上回る。この洞窟名物の大きすぎる動物もどきシリーズだ。
その巨大コウモリが五匹、姿を表すと、しばらく様子を伺う。目の前には見たこともない深緑のかまくらが悠然と居を構えている。明らかに怪しい。
少し様子を見て、かまくらに動きがないとわかると、巨大コウモリたちは方針を静観から変更した。彼らの武器の一つ、指向性を持った超音波を浴びせることで反応を見ることにしたのだ。彼らの超音波はその超高周波の振動をもって、対象の運動エネルギーを急速に上昇させ、超高出力の電子レンジのように作用する。
反応を見るだけでなく、あわよくば仕留めてしまおうという巨大コウモリの超音波攻撃。
だが、この超音波に対して、深緑のかまくらは一切無反応だった。
「キィッ、キィッ」
巨大コウモリたちは戸惑いを隠せない。生命があろうとなかろうと、マトモに当たれば何かしらの反応を、多くの生き物からは苦悶を受け取ってきたこの超音波。無反応は初めてであった。
動揺からか、恐怖からか。巨大コウモリたちは威嚇するように攻撃姿勢をとりながら、深緑のかまくらへと距離を詰めていき……
そこは、すでに射程圏内であった。
「バサッ」
「バサッ」
巨大コウモリが五匹全て、撃ち落とされた。
下手人は深紅の帯。女神様が身に纏う着物の帯。
深紅の帯が、かまくらのてっぺんに、円を描くようにして鎮座している。
何をしたのかはわからない。全く目で追えなかった。だが、全ては無音で気づかれぬ内になされた。巨大コウモリは弾丸のようなもので撃ち抜かれたのか、いくつかの弾痕とともに地に落とされた。
深紅の帯がいったい何なのかもわからない。ただ、どうやら、女神が着物の壁の奥へと引きこもる間、この帯が護衛の役割をなしているらしい。
このように、深緑の要塞へとバケモノが集まり、死体となる。そして、死体にバケモノが群がり、撃ち殺され、それが餌となってまたバケモノを呼び寄せ撃ち殺される。
やがて、出来上がるのはもう一つの要塞だ。餌として、囮として、壁として機能するバケモノたちの死体の山。
彼女はこうして何重もの仕掛けをもって安全な眠りを手に入れるのである。
ちなみに、直樹は……
「急げっ、急げっ」
走り回っていた。
バケモノに追われて?
違う。
得体の知れない帯の攻撃から逃れるために?
違う。
「今夜も大漁だぁぁぁ!」
帯の撃ち落としたバケモノどもの死体から核を拾い集めていた。
昼間、女神様によってたかるバケモノどもの核は皆、その場で女神様がつまんでいってしまう。
だが、夜のうちに帯の狩る分については別だ。下手人の深紅の帯は一切動かない。
だから、直樹は核を拾い集める。女神様のために集める。他のバケモノが寄ってくる前に集め切る。
ちなみに、帯は直樹を狙わない。女神様の意思か、それとも。まぁ、直樹には着物のかまくらをどうこうする力がないことを分かりきっているから無視されているだけだろう。
翌朝……時間などわからないが、女神の起床後。深緑のかまくらが着物へと戻り、帯が元の場へと収まる頃。
直樹は女神の就寝中に集めた核を、三桁は下らない核の山を女神様の前に一つとして違えずに差し出す。ちょろまかしたりは絶対にしない。
そして、数歩、後ろへ下り、控える。
すると、女神様は直樹をさっと無感情に眺めた後、核を持ち出し、懐の巾着袋へと入れる。それから、受け取った核を朝ごはんとしてつまみながら歩き出す。
女神様は核の山から、その大半をもっていってしまう。当たり前だ。彼女の狩った獲物だ。
だが、全部はもっていかない。夜通し駆け回って集めた、そのお駄賃として、ほんの少し取り残していく。ほんの少しといっても、二桁はあるのだが。女神様と出会う前の生活では一ヶ月かかって集められるかどうかという量の成果が一晩にして手に入る。
本当に、女神様は女神様だ。感謝しかない。
彼女との接触は一日に一度。このタイミングのみ。そして彼女はいつも変わらず無表情。
初対面、はじまりの大広間で出会った時以来、感情を見せたことは一度もない。ずっと無表情だ。
今となっては、大恩人……大恩モノの内心がものすごく気になりはする。けれども、余計なことはせずに淡々と女神様の後に付いていく。
こうして、直樹のストーカー、時々、召使いの生活は安全で充実したものとなっていた。
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あとがき(本編とは一切関係ございません)
今日も彼女に黒く小さな宝玉を貢ぐ。
全ては寵愛を賜るために。
……あ、目が合った。
直樹と女神のように美しい彼女は視線を交わし合う。
彼女は無表情を装っているが、内心は何をどんなことを思っているのだろうか。
ドキドキしてたりするのかな……ぼくと同じように。
……あ、また目が合った。
どうしよう! ドキドキが止まらないっ!
もう彼女の方を見れないっ! ……でも、なんでだろう。彼女のことをみてしまう。
……あっ。また……。
これって……恋?
『朝、目の前には彼女がいた:甘ぁい日常のはじまり』完
次回、『疑惑のぺろぺろパックンチョ』
お楽しみに!




