幕間 黒と乙女の会話
人里離れた森の中。
そこには人知れず館が立っている。
「ただいま戻りました」
「「「おかえりなさいませお嬢様」」」
その館の主である黒い少女が帰宅すると、使用人たちが一斉に少女を出迎える。
使用人たちの動きには一切のよどみがなく、よく訓練されているのが分かる。
よどみがなさ過ぎて違和感すら覚えるほどだ。
自室に戻り、着替えを済ませて一息つく。
疲れを取るには紅茶が一番だと少女は思う。
そこに使用人の一人がノックと共にドアの外から声をかけてくる。
「お嬢様、旦那様がお見えです」
「そう。わざわざご苦労なことね。でも今私疲れているから帰ってもらってちょうだい」
「ですが」
「聞こえなかったの? 帰ってもらってっていったのよ私は。2度も言わせないで」
「は、はっ、申し訳ございません。直ちにお帰りいただくようにします」
人とは思えないような青い顔をした使用人がさらに顔を青くして引き下がる。
「会わなくていいのぉ? 一応お父様なんでしょうぉ」
それとほぼ同時に使用人と入れ替わるようにして乙女が黒い少女の部屋に入って来る。
「いいのよ。父親と言っても仮のものなんだから。それより勝手に私の部屋に入ってこないで欲しいのだけど」
「あんらぁ、あたしとあなたとの仲じゃないのぉ」
「仲もなにも傭兵とその依頼人の関係だと思うのだけど」
「別に良いじゃなぁい。傭兵とその依頼人だって仲良くしたって。だからそんなにピリピリしないで欲しいわぁ」
「ピリピリもするわよ。目的果たせなかったんだから」
黒い少女はため息をつきながら紅茶を飲み干す。
少し酸味が強いがそれがまた癖になって心地いい。
「...よくそんなの飲めるわね」
「あら、おいしいわよ。あなたもいる?」
「やめておくわぁ。それで、なんでまた目的が果たせなかったのぉ?」
「また、アイツらがいたのよ」
黒い少女の言うあいつらとはスピカたちの事だ。
スピカたちは気づいていなかったが、黒い少女、アークはスピカたちの懸念通り霊樹の元、不浄の獅子の元に現れていたのだ。
時間的には不浄の獅子を倒す直前くらいに。
「あいつら、スピカちゃんのことねぇ」
「スピカ。そう、スピカよ。周りにも厄介な奴らはいたけど、アイツが一番最悪。あいつがいたから今回手が出せなかった」
以前、邪神の遺児、スピカたちの言う不浄の竜の宝玉を回収しようとしたときに少し戦ったが、あまりにも厄介極まりなかった。
殺したはずなのに生き返って、バカげた力の癒しの力を振りまく存在。
その時はうまい事宝玉を回収して逃げおおせたが、あの力の前では下手すれば消滅の危機があった。
もう会いたくもない。
なのにまた、邪神の遺児が目覚める気配を感じて行ってみれば、スピカがいて、倒してしまっていた。
かなり苦戦はしていたが、リスクを負うべきではないと判断してアークはその場から離れたのだ。
スピカと共に戦っていたハーフエルフと目が合ったのも理由の一つだ。
「という訳で、やっぱり黒い宝玉の回収はあなたたち鮮血の淑女会に任せるわ」
「ええ、任せてちょうだい。こっちとしてもあたしの仲間たちの借りも返さないと行けないからねぇ。それに鮮血の淑女会の名において依頼は必ず遂行するわん」
乙女の強烈なウインクを受けてアークは若干顔を引きつらせて「頼もしい事ね」と一応言っておいた。
「それじゃあ、あたしはさっきの男の子を慰めてくるわぁ。あなたにビビっていた姿にキュンと来ちゃったのぉ」
「...そう。ご自由に」
「主からの許可が出たってことはこれはもう公認ね。きゃっ、待っててねあたしのカワイ子ちゃん」
乙女はスキップしながら勢いよくアークの部屋を出て行った。
「私なんであんのに頼っているんだろ」
その後、館の一角で悲鳴が上がったがアークは耳にすることはなかった。
ー▽ー
はぁ、本当に心臓に悪いわねぇ。
会話するだけで一苦労だわぁ。
可愛い顔して本当に不気味な子。
それにしても、あんな黒い宝玉、集めて何をするつもりなのかしら。
あの子が持ってきた依頼じゃなければ絶対にこんな依頼受けないのに。
あの子はアークに異様なまでに懐いているし。
一体何が起こっているのかしら。
こうしてあたし自らアークの側にいて何度も探ろうとしているのに何も出てこない。
何か嫌な予感がして本当に怖いわぁ。
もし、余計な真似をしたらあたしの淑女たちがどうなることか。
素直に黒い宝玉とやらを回収するしかないわね。
スピカちゃんには悪いけどあたしの淑女たちを守るために狙わせてもらうわね。
あ、カワイ子ちゃん発見!
ボロボロに傷ついたあたしの心を慰めてもらわなくちゃ!!
これでこの章は終わりです。次の章はある程度書きあがってから投稿します。
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