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74 霊樹の最期

「あっ」


 力が抜けたカヤが体勢を崩してそのまま空から落ちる。

 あの高さはまずい。


 半分何がどうなっているのか分からないまま翼をはためかせ空を飛ぶ。

 でも確信したのは不浄の獅子を倒したという事だ。

 それだけはわかった。


「カヤっ!」


 落下するカヤを空中で掴んで止める。


「スピカ、さん」

「大丈夫? 今回復させるから」

「ありがとうございます。気が抜けちゃって」


 少し照れたようにカヤが笑う。

 むぅ、かわいい。

 それにしても、戦いながらとはいえ、体力も魔力も回復させ続けていたはずなのに、カヤの体力や魔力はかなり消耗している。

 それだけの一撃だったんだ。


「さっき消えたのなに? 転移?」

「はい。あんまり遠くに飛べないんですし、消耗も激しいのでほとんど使えない奥の手です。うまくいってよかった」

『本当に転移だったのね。転移を陣も無しに個人で使うなんて、そんなこと可能なのかしら? ......ああ、眼ね』

『どういう事?』

『転移ってのは魔術の難易度もさることながら、一番困難なのは座標の把握よ。一番転移を使うのに適しているのは魔法陣を繋げることなんだけど、それにしても座標を設定するのが難しすぎてほとんど実用的じゃないわ。だけど、カヤは特殊な眼で補っているのだと思うのよ』

『なるほど』


 自分では目が良いって言っていた程度だけど、カヤの眼って私たちが思っている以上にすごいものなのかもしれない。


「あの、何か?」

「ううん、カヤはすごいなって」

「そんなことないですよ。ボクだけじゃなにも出来なかったですし。それに聖域はボロボロ」


 カヤの言う通り聖域はボロボロだ。

 不浄の獅子が暴れまわったのもあるが、それ以前に瘴気が広範囲にばらまかれている。

 私たちが戦った周辺、里当たりは私が癒しの力をばらまいていたからマシではあるが、それより外は死の森と化している。


「それでも、あの化け物を倒さなかったらこんなものじゃすまなかったんだよ。だからカヤはもっと自分のしたことを誇って」

「っっありがとうございます」

「うん。っと地面だね」


 ふわりと地面に降りたち、カヤを下ろして人竜化を解除する。

 もう必要ないでしょう。

 事態は一応収まったし誰かに見られても困るしね。


「スピカっ、カヤっ!」


 降りた場所は祭壇で、ミラが迎えてくれた。


「やりましたのね」

「うん。大丈夫。不浄の獅子は倒した」


 本体はもちろん、散々苦しめられた偽物の気配も消えた。

 カイエンさん大丈夫かな?

 まあ、彼なら大丈夫でしょ。


「でも、黒い宝玉は回収出来ていないんだよ」


 あれだけの一撃。

 完全に破壊できたかもしれないけど、楽観視はできない。

 今も残っていると考えた方が良いかも。

 霊樹の中に残っているのか、それともどこかへ吹っ飛んでいったのか。


「それでしたら大丈夫ですわ。霊樹の根を伝って出させましたので」


 そう言ってミラは懐から黒に染まった宝玉を取り出した。

 黒い宝玉だ。


「ミラ、ナイス!!」


 これで黒い宝玉を捜索しなくてすむ。

 アークが不安だったけど、これだけ来なければ大丈夫だと思う。

 一応警戒はしておくけど。

 とりあえずミラから黒い宝玉を預かっておく。

 私が持つのが一番安全だし。


「おう、やったな」


 盛り上がったままの霊樹の根の奥からカイエンさんが現れた。

 引きずるように歩いていて、身もボロボロで瘴気にもかなりやられている。

 明らかに瀕死の重傷だ。


「カイエンさん!?」

「死ぬ、助けてくれ」


 カイエンさんはそう言って地面に倒れこむ。


「もうちょっと頑張ってすぐに回復させるから」


 急いでカイエンさんの元に駆け寄り回復魔法を使う。

 手を当てて分かったけど、見た目以上に中身がボロボロだ。

 何で生きているのかが不思議なくらい。

 まあ、不浄の獅子の分体をすべて引き受けたもんね。

 私の回復魔法の補助も無しに。

 もうちょっと心配してあげればよかったかな。


「あー、マジで死ぬかと思った」

「いや、おかげで助かったよ。無事に倒せたし黒い宝玉も回収できた」

「ならいい。アークは?」

「来ていない。たぶん来ない」

「そうか。ふうやれやれ」

「ちょ、まだ立たないで!!」

「もう動けるから大丈夫だ。それにいつまでもここにいるわけにはいかないだろう」

「そうだけど。応急手当程度には回復続けるからね。あと、完治するまで無茶したら」

「無茶したら?」

「過剰回復までもって行ってあげる。死なない程度に」

「......肝に銘じておく」


 私の目の前で怪我を放置するだなんて本来あり得ないことなんだからね。

 普通の瀕死の重傷ならすぐに治せるけど、瘴気のせいか不浄の化け物の攻撃は私の回復魔法でも治りにくいからね。

 ちょっと時間をかけてちゃんと治すしかない。


「それにしても酷い有様だな」


 空中で見ても酷い有様だったけど、地上は地上で酷い有様だ。

 聖域の象徴である霊樹は枯れ果ててるし、里の中はボロボロ。

 人の気配はするけど、どうなっていることか。


「ボクたちの聖域が。霊樹が」


 今まで戦いに必死だったが、落ち着いて周囲を見てしまったカヤが悲痛な表情をする


「スピカ、霊樹を回復させたりできませんの? まだ生きていますわ」

「やってみる」


 ボロボロで枯れ果てた霊樹だが、これでも生きているらしい。

 ならいけるはず。


『待て』


 どこからともなく懐かしい声が響いた。


「ユニケルさん?」

『そうだ』


 声のする方を見ると、ユニコの角が光っていて、一際光ったかと思うと、隣にユニケルさんが現れた。


『辛うじてつながったか』

「ユニケルさん!!」

「久しいなスピカよ。それに、ミラよ、やったのだな」

「はい、お師匠さまっ」


 えっ、なんでユニケルさんがここにいるの?

 分からないけどすごくうれしい。


「これは」

「あ、そうかカイエンさんたちは知らないね。彼女はユニケルさん。旅を始めたころにお世話になったんだ。ユニコのお母さんでミラの魔法の師匠」

『スピカとミラの仲間か。見ていたぞ。良き仲間に出会えたようだな』

「うん。って、見ていたって?」

『場所にもよるが私は我が子を通してこの光景を見ることが出来る。我らが住まう泉とつながりが深い場所ならこうしてほぼ一瞬で移動することもな。』


 なにそれすごい。


『それでスピカよ。霊樹の回復はもうしなくていい』

「しなくていいって。まだ生きているらしいんだけど?」

『重々承知だ。だが霊樹は次につなげることにした』


 どういうこと? と聞こうとしたけど、霊樹に変化が訪れた。

 枯れ果てた霊樹の枝がゆっくりと降りていき、私たちの近くに止まると、急速に葉をつけ花を咲かせ種を落とした。

 その種は地面に吸い込まれるとすぐさま芽が出て苗木になった。


『ここらが限界か』

「これは」

『霊樹の苗木だ。これは私の元で育てることにする。そしてもう一つ』


 ユニケルさんが上を向くと今度はゆっくりと上空から何かがゆっくりと降りてきた。

 アレは、杖?

 ゆっくりと降りてきた杖はミラの元にまで行きその手に収まった。


「お師匠様、これは?」

『霊樹の杖だ。霊樹はお前たちにとても感謝している。お前ならわかるはずだ。そしてその杖を使って何をすべきかを』

「あっ、わかりました。それが望みなら」


 ユニケルさんの弟子だからか、自然の声を聞けるからかミラは何かを聞いてそれを実行しようとしているようだ。


「スピカ、わたくしだけでは力不足なので手伝っていただけませんか?」

「うん、いいけど一体なのを」

「少し癒しの力を。制御はわたくしがしますので」

「う、うん」


 そう言いながら手を差し伸べられたのでミラの手を握る。


 おもむろにミラが霊樹の杖を掲げ、魔法を発動させる。


 ...。

 ......。

 ああ、なるほど。

 確かに私の力が必要だ。


 枯れ果てた霊樹がやさしく光る。

 てっぺんから分解するように光の粒子となっていき、ふわりふわりと聖域全体に降り注ぐ。

 すると瘴気によって死の森と化していた聖域全体が青々と生い茂り命の息吹が吹き込まれていく。

 ミラと霊樹が私の力を借りながら聖域を生き返らせているんだ。


 霊樹のすべてが光となって消え去るころには聖域のすべてが生き返っていた。



短編を投稿しました。

「タピオカミルクティーを飲んでいるとタピオカミルクティーのタピオカがすごい勢いで吸い込まれタピオカがのどに詰まり死んでしまったが、タピオカミルクティーの女神様に出会い、使徒として異世界に転移する話」

これ、タイトル名なんですよ?

良かったら読んでください。

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