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73 聖霊樹の一矢

あ、お久しぶりです。遅くなってすみません。だいたいアイスボーンが悪い。

 どうやら7体までという限界はあるものの、復活する不浄の獅子の分身を相手に私たちは戦い続けた。

 不浄の獅子の性格は恐らく最悪だろう。

 半分にまで数が減らされた所で、不浄の獅子の分身を復活させ、その後は一体でも減ると分身を復活させるようになった。

 私たちの絶望した様子を見たかったがために最初にあんなことをしたのではないのかと勘ぐってしまう。


「これ、キリがないですよ!」

「やっぱり本体を倒すしかないね」

「どうやってですか!? これだけ倒したんですからさっきスピカさんが言った通りこの中に本体はいないでしょう」

「うん、恐らく霊樹の中」

「そう言われて頑張って探して見つけたんですけど」

「ほんと!?」


 私でも見つけられないのに。

 カヤすごいね。


「はい。ですが、その核と思わしいものは霊樹の中心部にあります」

「あれの?」

「はい」


 霊樹の中心部。

 山ほど大きい霊樹の中心って。


「中に空洞とかあってそこにつながる道とかない?」

「ないですね。空洞ならいくつかありますが、表面と言ってもいいくらいにしかないので」


 どうしようもなくない?

 まずいな。

 どうやって倒したらいいのか。


 消耗戦?

 確かに私は無限の魔力を持っているし理論上は戦い続けられるけど、不浄の獅子が力尽きるまで戦い続けるのなんて現実的じゃない。


 どうすれば。


「スピカ!!」


 遠くから聞きなれたこれが聞こえる。

 不浄の獅子に注意しつつ、声のする方を見ると、そこにはこちらに向かうミラとユニコの姿があった。


「ミラ!?」


 ミラの顔は少しマシになったように見えるけど、どう見てもまだ戦えるようには見えない。


「コレを受け取ってください!!」


 ユニコの上から何かを私に向かって投げる。

 私は槍のような大きさのそれをつかむが、ミラはよほど無理やり投げたのか、その勢いでユニコの上から落ちてしまった。


「ミラ!!」

「わたくしは大丈夫です!! それよりそれは霊樹の矢ですわ。霊樹の残った力を込めました。それなら霊樹の中にいる不浄の獅子にも届くはずですわ!!」


 その言葉を聞いて私は即座にありったけの癒しの力を霊樹の矢に込める。

 これは、すごい。

 力をこめ切るのにちょっと時間かかるかも。


 この癒しの力をこめた霊樹の矢を危険だと判断したのか、不浄の獅子が一斉に私に襲い掛かってくる。


「っと、みんな、ちょっと時間稼いで!!」


 仲間を信頼して、私は霊樹の矢に癒しの力をこめることを優先する。

 もう、これしか不浄の獅子を倒すことが出来ない。

 といってもこの数の不浄の獅子相手に私を守りきれるのか。

 正面戦闘はさすがにカイエンさんしかできないし。


「ならば奥の手を使おう。"オーバードライブ"」


 カイエンさんから異常なまでの圧を感じる。

 次の瞬間、カイエンさんの姿が消えた。

 いや、違う、早すぎて目で追えなかったのだ。

 私が彼の姿を知覚した時には、同時に私に襲い掛かって来ていたはずの不浄の獅子をすべて斬り飛ばしていた。


「1分も持たん! 急げよ!!」

「十分!!」


 カイエンさんが不浄の獅子との距離を取ってくれたおかげで、次の攻撃までには力をこめ切れる。

 そう思っていたのに、不浄の獅子も余裕を亡くしたのかなりふり構わずに、複数の霊樹の根を動かして私に襲い掛かって来た。


「させませんわっ!!」


 視界の端でミラが手を掲げると、霊樹の根の内の1本が不自然な挙動をし、他の根の動きを邪魔した。

 結果、軌道がずれ、私に霊樹の根はギリギリで直撃することはなかった。

 ......よしっ。


「完成っ! カヤっ!!」


 力を貯め終わった霊樹の矢をカヤに投げ渡す。

 力は込め終わった。

 そしてこれが矢だというならばカヤを使うべきなのだ。

 だけど、投げ終わって気づく。

 こんな槍みたいな大きな矢を射れるのかと。


「まかせてください!」


 だけど、そんな心配は必要なかった。

 霊樹の矢、私が癒しの力をこめた聖霊樹の矢とも言うべき矢をつかんだ瞬間、カヤの弓はガチャンと音を立てて変形した。

 聖霊樹の矢に見合うくらいの巨大な弓に。

 何アレすごい。

 妙に機械仕掛けだとは思っていたけど、あんなことが出来るだなんて。


 カヤが身の丈以上の弓に聖霊樹の矢をつがえる。


 その瞬間、霊樹の根の1本が先端部を不浄の獅子の形に変化しながらカヤに襲い掛かる。

 無理やり8体目を作ろうとした中途半端なその攻撃は限界を超えた苦し紛れにしか感じない。

 それほどに不浄の獅子は追い詰められているのだ。


「させっるかっ!! ”竜星閃”!!」


 一足飛びに駆けだし、翼で加速して、横合いから刹那に六度切り刻む。

 癒しの力を纏った剣技は、霊樹の根が不浄の獅子に変わろうとしている中途半端な状態だったからか、本来、私では切れない霊樹の根を六度目の斬撃で切り離すことが出来た。

 しかし、それでも不浄の獅子は止まらなかった。

 顔だけになってもなお不浄の獅子はカヤに襲いかかっていた。

 まずいっ!!


 あんなデカい弓矢を力いっぱい構えていたら無防備だ。

 止めるのは間に合わない。

 ここから回復魔法を飛ばしてカヤを回復させるのと同時にあの不浄の獅子にトドメを刺す。

 カヤを過剰回復させないようにかつ、不浄の獅子を消滅させるように。

 大丈夫。

 私ならできる。


「ヒールっ!」


 術を編んでカヤの元に飛ばす。


「は?」


 だけど、信じられないことが起きた。

 どうじても間に合わないから不浄の獅子によってダメージを受けたカヤを回復させると同時に不浄の獅子を浄化させようと思っていた。

 なのに結果は不浄の獅子が浄化するだけに終わった。

 残ったのはただの木片だけだった。


 カヤが消えたから。


 私に目にも止まらない速さで避けたから?

 あんな体勢で?

 カイエンさんですらその瞬間は消えたように感じても後からどこに行ったか分かるのに?


『違う。これは転移!? カヤはあっち!!』


 メーティスに言われて示す方を見るとカヤがいた。

 空中で、霊樹の側で弓矢を構えるカヤの姿が。


「”聖霊樹の一矢”」


 極大の聖なる光を放ちながら放たれた矢が不浄の獅子に寄生された霊樹を貫いた。


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